第八話 ふたりの病院
病院を辞めると決めた夜から、1週間が経った。
この1週間、いつものように病院での仕事をした。
診察したり、採血したり、注射したり、手術したり・・・。
そんな今までと同じ日常を過ごしたけど、あの時のわたしの気持ちに変化はなかった。
もう未練はないのだ。
気持ちが少し楽になった。正直な感想だ。
あとは来てくれてた患者さんに、このあと困らないように出来るだけのことをしなきゃね。
夜、石津先生に電話をした。
「あ、わたし。」
久しぶりの電話だった。きっと先生は何かを察しているだろう。
「あのね、わたし、病院辞める。ずっと考えて決めたんだ。先生のマネじゃない」
石津先生は、あははと笑った。
このところずっと考えて来たことを石津先生に話した。
きっとその気持ちは石津先生に伝わっただろう。
さぁ、次からが本題だ。
さりげなく話し始める。
「先生のとこ居候の動物いるよね。病院に置いてくの?」
「まさか。連れてくよ」
「二人とも病院辞めたら、居候たち困るよね」
わたしは石津先生に隙を与えないように一気に話を続ける。
「だから、二人で新しく開業しよ」
「嫌だよ、もう開業は」
こう言った反応も想定内だ。
「そーじゃなくって。先生、前に仕事辞めたら山に行きたいなんて言ってたよね。だから、山に土地を買って、そこで開業しない?誰も来ないようなところで。わたしたちの歳をとった居候のためだけの小さな動物病院を」
どーよ、このアイデア。文句のつけようがないでしょ。わたしは続ける。
「今のわたしの病院の設備を必要最低限そこに移して、そしてここの建物を店舗として貸し出せば、それで細々と生きていけるよ」
石津先生から、否定の言葉は出なかった。
でも、これが最終的な答えじゃなくてもいい。
考えよう、これからはふたりで。