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ひまり視点です。


コーヒー。

 

「私も、お手洗いに……」

「あ、陽葵ちゃんは待って? 私一人になると寂しいから、ゆーちゃん戻って来るまで待っててくれる?」

「そういう、ことなら」

「その間、女子トークでもして待ってましょ?」


 涼村くんがお手洗いで席を外した後、私は陽葵さんに言われて気まずい空気の中で一人取り残される。

 普通、姉と友達を残して一人でどこかに消えるかな……と考えながらも、彼が友人に当たるのかどうかすら怪しいことを今になって思い当たる。


 彼は確か、私のことをお姉さんに対して「クラスメイトで、同じ部活の人」としか説明していなかった。

 それは最早友達と呼んでも過言では無いのではないか、とも思えたのだが、高校生になってから三年間、影で「女王様」なんて呼ばれるようになってから友人の一人すら出来ていない私にとっては、友達の作り方なんてすっかり忘れてしまっていた。そうなるよう振舞い続けた私の弊害、とも呼べる。

 中学生時代友達だった人は連絡先も分からないし、最後の方には一方的に避けられていたような気がしていたから対して仲良くなかったことも背中を押したせいか、私は友達の線引き、というものが良く分かっていなかった。


 だからこそ、彼に「友達ではない」と言われた時にはそれなりにショックも受けたし、腹も立った。

 今ではそれが空腹のせいだったと思うようにしているが、それでも今にして思えば腹立たしいことこの上ないとは正にあの時の感情のことを指すのだと、身を以て体験したことは日記にでも書こうと心に決めていた。


 彼の言葉を借りて言えば、知人と言ってもいいのかすら危うい彼の……、涼村くんのお姉さんと二人きり。

 いかにお姉さんが気さくだとしても、初対面の私からすれば気まずいことこの上ないのだが、そんなことはお構いなしに私を置き去りにした涼村くんには、週明けの部室でしこたま愚痴を言ってやろうと心に決めて、私はお姉さんと向かい合う。


 テーブルに置かれた新しく淹れてもらった三つの紅茶からは湯気がもうもうと立っている。

 私の紅茶にはミルクがたっぷりと、お姉さんの紅茶にはレモンが香りを立てていて、涼村くんの紅茶はストレート。なんとなく私だけが子供っぽく見えて恥ずかしいのだけれども、二人ともそれを見て笑ったりなんてしなかった。それがどこか心地好くて、私は──。


「ねぇ、陽葵ちゃん」

「は、はい」


 彼が戻ってくるのをぼんやりとミルクティーの濁った乳白色を眺めて待っていると、不意に姫和さんから声が掛かる。


 姫和さんは、可愛げのない私なんかよりもよっぽど可愛らしい、ふわふわとした女の子の中の女の子といった感じで、涼村くんのお姉さんと聞いても初めは信じられなかった。名字も違うし、顔も全く似ていない。そんなわけだからてっきり涼村くんの彼女さんか何かかと睨んでいたのだけれど、正解を聞いても納得するにはまだほど遠いのは、涼村くんと姫和さんの距離が普通の姉弟とは思えない程に近いせいだろう。

 バイト終わりに先輩の仕事場を見学していたら彼女と思しき人と涼村くんが見えたから、思わず断りを入れて追いかけてきてしまった。なんで追いかけたのかは、追いかけた後になって分からなくなって、二人の姿を見つけてから今もずぅっと考えているのだけれども、その答えは見つかりそうもない。


 それで、気が付いたらお姉さんと二人きり。

 明朗で気さくな彼女は一見して素直そうな性格に見えるけれど、こういう人こそ胸の内では何を考えているのか分からないというのは、モデルという競争率の激しい世界に足を踏み入れて良く分かっているつもり。

 だからこそ、さっきまでにこやかに見えていたお姉さんの表情が涼村くんが離席した途端に話しかけてきたお姉さんの様子が一変して見えたのは、きっと気のせいじゃないはず。


「……コーヒー、嫌いな理由を聞いてもいい?」

「え?」

「コーヒー、嫌いなんでしょ?」

「えっと……はい」


 注文の際の会話を、私の様子を覚えていたのか、まさかそんなことを聞かれるとは思ってもみなかった。そんなにも分かりやすい態度を取ってしまっていたのか、と自分の演技力の低さに落胆を隠せないが、今はそれ以上に「どうしてそんなことを」という思考に囚われてしまう。


 私は、コーヒーが飲めない。


 苦いから、というのも理由の一つだが、それ以上に身体に染み付くような香りが苦手なのが理由なのだが、普通の人からすれば「コーヒーが苦手」なんて大して気にするポイントにはならないはず。と言うか、今まで関りのあった人の誰にもそこを突っ込まれたことなんてなかったから、私の核心を突くようなお姉さんの質問に、戸惑ってしまった。


「と、特に、大した理由なんて、ないです。コーヒーが嫌いなことって、何かおかしかったですか?」


 元から表情が薄いと言われがちな私だったが、この瞬間だけは自分でもわかるくらい、顔に影を落としていた。

 テーブルの下ではハンカチを強く握って、動揺を悟られないよう努めたつもりだったのだけれども、この時点でお姉さんは私の過去の暗い影を見抜いていたのかもしれない。


「……言いたくないなら強制はしないよ。その代わり、私とゆーちゃんの話を聞いてくれるかな?」

「え? はい……」


 今すぐにでもここから逃げ出したいような気持ちに追われそうになったその時、お姉さんが次に取った行動は、私の口を割ろうとするのではなくて、自分達の話を聞いてもらうことだった。

 ただでさえ気になっていたことを語ってくれるというのだ。私の気持ちが前傾姿勢になったのは何もおかしくないはず。


「私は九桜(くおう)、ゆーちゃんは涼村(すずむら)。名字が違うのには気付いてると思うけど、私達はね、両親が離婚してるの。私はお母さんに、ゆーちゃんはお父さんに、別々に引き取られる形だったんだけどね──」


 それから語られたのは、涼村くんの十年近い孤独の時間だった。


 姫和さんの方はお母様がお父様を敬遠している以外は再婚もして一般的な幸せな家庭を作っていたようだけれど、涼村くんの方は違った。


 それは、なんとなく彼に感じていた、違和感。

 そして、彼と私に通ずる、共通点。


 彼の前では他のクラスメイトの前のように「女王様」を演じる必要が無いと感じているのは、彼には私が勉強が出来ないという欠点を知られているから、なんて程度に思っていたけれども、実際は違った。

 私は、彼の前では()を曝け出せていたんだと思う。

 家族の前でしか見せたことのない素の姿を、私は彼の前だと曝け出せる。

 それがどういう意味かを、私は今、姫和さんの言葉で理解させられた。

 彼と私の間にある共通点。それを無自覚の内に共有していたからこそ、あの部室の中で私は「女王様」としての鎧を脱ぐことが出来ていた。


 それくらい、彼の傍に居るのは心地が良かったんだと、理解した。


 共通点。

 それは名前も、形すらも見えなかったけれども確かにそこに「在る」と感じていた共通点は、同じ境遇にあった。

 いつも彼は一人でも平気な顔をしているから私よりも孤独に強いのかと思っていたけれども、話してみればそんなことはなくて。彼は誰よりも人との繋がりに飢えていた。だからこそ、こうして距離を詰めてくる姉を邪険にするどころかむしろ喜んで迎え入れているのだと分かれば、私も異常な距離の詰め方をしてくるお姉さんのことは決して嫌いではなかった。

 そもそも姫和さんは相手を見て距離を詰めるかどうか判断しているような目敏さを兼ね備えている以上、私は姫和さんのお眼鏡にかなった、ということなのだろう。そして、その時点で私の暗い過去については何かと察しが付いている、とでも言いたげな態度を取っていることに今更になって気付く。


 短時間で語るにはあまりにも濃すぎた内容の話は、当然時間の関係で省かれたものや説明がしやすいように敢えて加えられた脚色もあるのかもしれない。そして、語られたのはあくまでも姫和さんの視点での話。実際はどうだったのかなんて、涼村くんに直接聞かなければ分からない。

 ……直接聞く勇気なんて、ないけれど。


「……私も、姫和さんと同じです。両親が離婚して、お母さんに──母親に引き取られてから、今は母親が再婚して新しい家庭ができています。楠木も、相手側の、新しい父親の名字で……」

「うん。ゆっくりでいいから。聞かせて」

「はい」


 涼村くんの話を聞いて、感化されたわけではないけれど、私の口はぽつぽつと話し出す。

 忘れてしまいたい、過去の記憶を。

 コーヒーが嫌いになった、その理由を。


「両親が離婚をした理由は、父親の、暴力でした」

「……」

「父親は、小説家でした。ずっと昔に有名な賞に選ばれて、たくさん本が売れて、幼かった頃の私は裕福な暮らしをさせて貰えていたと思います。その頃はまだ、両親の仲は良かったんです。……でも、私が小学生に上がった頃、突然父親は、小説が書けなくなったと言って、母親に暴力を振るうようになりました。ママは、母親は隠そうとしていたのですが、日に日に苛烈さは増していく一方で……。母親が仕事で居ない時間帯に学校から早く帰ると、その暴力の矛先は私にも向きました。外から見れば、周りが羨むような裕福な生活。でも、その内側で実際に起こっていたのは、母親と私に降り注がれる絶え間ない罵詈雑言と、暴力の嵐でした。飲めないお酒で潰れている時はまだマシで……、執筆に向かう為にコーヒーを飲んでいる間は、決まって母親か私、もしくは両方が暴力の被害にあっていました。そんな日々が半年続いて、ようやく警察沙汰になって母親は離婚することが出来たのですが、私を守ってくれていた母親は、心身ともに疲弊し切った状態で、再び仕事に戻る、なんてことは出来ませんでした。離婚の際、親身になってお世話してくれていた母親の会社の上司さんが母親と私を見かねて再婚に至り、私は楠木の姓を名乗るように、なったんです……」

「それは……、コーヒーも、男性も嫌いになるよね」

「……男性が嫌いっていうのも、分かりやすいですか?」

「うん。さっき紅茶のお代わりを聞きに来た店員さんの時に少しね。注文を取りに来た女性の店員さんの時は何ともなかったのに、あの時だけは一瞬、顔が強張ってた。でも、ゆーちゃんに対しては平気……。怖いのは、大人の男性だけ?」

「……いえ、本当は、クラスメイトも怖いくらいです。だから、いつも決まって表情が固くなって、怖がられてます」


 女王様、なんて呼ばれています。とでも半笑いで付け加えようとしたところで、姫和さんはテーブルの向かいから身を乗り出して私の両頬に手を添えた。

 その手はとても優しく頬を包み込んでくれるようで、自分でも分からないまま、自然と目から涙が溢れてくる。


「……陽葵ちゃんは、怖くなんてない。かわいいかわいい女の子なんだから。怖かったでしょ。苦しかったでしょ。思い出したくないこと聞いて、ごめんなさい」

「……姫和さんは、悪くない、です。むしろ、今まで、誰にも話せてこなかったから……っ、話せて、少しだけ、心が軽くなりました」


 二人掛けのソファの隣に移動してきた姫和さんの胸に、私の頭が触れる。

 とくんとくん、とリズムを刻む姫和さんの心音は温かく、思い出したくもなかった記憶を呼び起こしたことで荒んだ心に安穏をもたらしてくれるよう。


 それから私の涙が止まるまで、姫和さんはずっとそうしてくれていた。


「ごめんなさい、恥ずかしい所を、見せちゃって」

「いいのいいの。でも、ゆーちゃんだけは平気って不思議ね」

「そう、ですね」

「……でも、ゆーちゃんともっと仲良くなりたいなら、いつかこのことも話さなくちゃ駄目な日が来る。きっとゆーちゃんのことだから、必ず最後まで聞いてくれるはず。そして、ゆーちゃんの口からもちゃんと話を聞き出してあげて」

「聞き出して?」

「ゆーちゃんはきっと、自分から話すのは相当追い込まれないとダメだと思うから……。我慢することが多かったから、ゆーちゃんは自分の気持ちを口にするのが難しいのよ。端的に言うと、素直じゃないの」

「それは……なんとなく分かります」

「あら、もうそこまで?」

「逃げようとしたところを、捕まえましたけど……。近いうちに、友人には、なりたいと思ってます」

「友達ぃ……? それで満足なの?」

「満足、というと……?」

「え? あー……陽葵ちゃんもそっか、そうだよね」

「な、なんですか、急に」

「いやいや、こっちの話。見守りたいから連絡先、交換しよ?」


 見守り……?

 とは思ったものの、姫和さんと連絡先を交換できるのはこちらからお願いしたい話で、喜んでスマホを取り出す。


「ゆーちゃんの連絡先も、いる?」

「あー、えーと……」

「――あ!! そっか、うん。そうだよね……。大丈夫大丈夫。うん、大丈夫。私、邪魔しないからね。うん、ほんとほんと。二人のペースで進んで行けばいいと思うし? ね? マジ、うん。そう、本当にそう」

「え?」


 同じ部活だし、クラスの中でまともに会話もできない今の状況で、突然部活に行けなくなった日とかであれば、連絡先があるのとないのとでは全然話が違ってくる為、円滑な部活動のためにも欲しいと言えば欲しい。

 しかし、素直に「欲しいです」と口にするのは何故だか憚られて、うーん、と口ごもっていると、姫和さんは慌てた様子で何度も自分言い聞かせて、用の済んだスマホを引っ込めていく。


 そんな時、まるで会話の終わりを見計らったみたいに涼村くんが席に戻って来た。


「……二人して、何してんの」

「女の子の会話は秘密がたくさんあるの。今度は私達がお手洗い行くから、待っててね」

「うん……」


 泣いた所為で化粧が崩れたせいで涼村くんと目が合わせられないが、声からして訝しんでいるのが良く分かる。

 見計らったみたいに、というよりも、実際に姫和さんが戻ってくるタイミングでメッセージを送ったとしか考えられない。

 そうして涼村くんと入れ違う形で化粧室に向かって、私は姫和さんと並んで軽く化粧直しをする。


「ね、現役のモデルさんから見て、ゆーちゃんの恰好はどうかな? 私プロデュースなの」

「私はバイトの、アマチュアの身分に過ぎないですが、凄く似合ってると思いますよ。学校でのイメージと全然違くて少しだけ驚きましたけど、すぐに涼村くんだ、って分かりましたから」

「ふふん。そうでしょう、そうでしょう! ゆーちゃんってば素材はいいんだよ! いつも無難な格好ばっかり好むからもったいなくってさ。あ、そうだ、陽葵ちゃんの洋服見て、ゆーちゃんなんか言ってた?」

「いえ、特には」

「あちゃー。こればっかりは言わせるしかないね。いつかは自発的に褒めるように教育していかないと」

「姫和さんのお洋服も可愛らしくてとってもお似合いです」

「そうでしょそうでしょ。もちろん、陽葵ちゃんもめっちゃ似合ってるよ! そのスカートかっこいいね」

「ありがとうございます」

「それじゃあ、お化粧直しも終わったところで、ゆーちゃんに感想もらいにいこっか」

「え?」


 姫和さんは相変わらず全く以て読めない大人の女性で、一つの場面ごとに突飛な行動を起こしているような、そんな気がしてくる。これに付き合う涼村くんはよっぽど根気強いのか、それともお姉さんのことが大好きなのかのどちらかだろう。


「ゆーちゃん、陽葵ちゃんを見て感想をどうぞ」

「え、何急に」

「いいから、早く」

「いや、感想って言われても……。そうだね、ひめ姉と並ぶと年齢が逆転して見えるくらい、大人っぽくてかっこいいと思うよ」

「他は?」

「他……? その、すごく、すごい……、すごい、なぁ……?」

「何それ」


 席に戻るなり、姫和さんは座席の背もたれに身体を預けて休んでいた涼村くんに突拍子もない質問を投げかけては涼村くんが少し困った様子で笑う。学校では見られないような表情を目の当たりにできたのは、なんだか嬉しかった。

 その後は涼村くんの感想に耳を傾けたのだけれども、最初から具体的な感想は期待していなかったとはいえ、まさか抽象的どころかそれを遥かに超えるようなグダグダな感想は却って涼村くんらしい、と私は思わず笑みを零した。


「あ、笑った」

「な、何よ。私だって……」

「いや、やっぱり楠木さんの笑顔は素敵だな、って思って。今日はずっと緊張した顔してたからさ」

「……知り合いのお姉さんとはいえ、初対面の人と二人きりにされて緊張しない訳ないでしょ」

「だってさ。ひめ姉は?」

「私? めっちゃ楽しかったよ」

「こういう人もいるんだよ」

「私はお姉さんじゃないから」

「それもそうだね。君は、君のままが一番良い」

「っ」


 軽口の応酬の中で不意に耳障りの良い言葉が挟まれ、私は不覚にも驚いて目を瞠ってしまう。

 対する涼村くんは、当たり前のことを言ったまで、みたいな涼しい顔をして紅茶を飲み干していたため、なんだか負けた気になって私もすっかり冷めてしまったミルクティーを飲み干す。


「それじゃ、出よっかぁ?」


 なんだかニマニマしている姫和さんにご馳走になってお礼を言うと「また遊ぼうね」と言ってハグをしてくれた。私は呆気に取られていたのだが、涼村くんの様子を見る限り、お姉さんの普段の仕草らしい。

 涼村くんは「また学校で」と感慨深くも無く、普段と変わらない様子のまま手を振ったかと思うと「お仕事頑張って」と付け足すものだから、なんだかしてやられてばかりなような気がしてならない。


 何が『してやられて』なのかは説明付かないが、私には返す言葉もないまま街中に消えていく二人と分かれて、私は先輩たちが待っている送迎用の車に急いだ。

 その道中、普段なら胸のどこかに必ず引っ掛かっていたはずの蟠りが取れているような感じがして、姫和さんが取って行ってくれたのかと不意に笑みが零れる。もしも私に姉がいたなら、それは姫和さんのような人が良い。


 たったの一時間余りの休憩時間を物凄く濃い時間のように感じて戻ると、丁度撮影組は撤収作業に入り始めていて、私も手伝おうと思ったのだが、それよりも早く先輩たちの手に捕まってしまう。


「あの男の子と、どんな関係なの?」

「恋愛っ気のなかったひまちゃんにも、遂に春が……!?」

「お赤飯焚くわよ!!」


 大人な女性向けファッション誌を飾る女性モデルばかりとはいえ、目ばかりが肥えていく業界で単身で残る女性が多い現場では、異性について語る事こそが最大の娯楽。悪口でも、恋愛話でも。

 私が涼村くんを追って現場を抜けたのはすっかり知れ渡っているようで、送迎用の車で家の近くまで送られていくまでの間、私はまるで肉食獣が住まう檻の中に放り込まれた生肉の気分で過ごすのだった。


 もちろん、全て曖昧な返事で済ませたものの、新鮮な恋バナに先輩たちは年甲斐もなくきゃあきゃあと賑やかに騒ぎ立てて、今後も進展を持ち込むよう強要されたのであった。


 私はただ、似た境遇の彼と──涼村くんと友達になれればそれでよかったのだけれど……。












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