プロローグ
スペース日常オペラサイエンス。
のんびり不定期更新すめす。
アラートが鳴り響く。
宇宙空間や僚艦のホログラ厶を映していたパネルが次々に切り替わる。
一瞬で表示されたのは緊急時に置ける詳細情報。
「JTICS(統合戦術情報管制システム)、アクティブ」
軍用艦船が戦闘モードに入った合図。
私のすぐ横でスタンディングシートに体を固定している女性士官が、空間投影ディスプレイを操作しながらそれを告げる。
それと同時に、艦橋の担当官の画面もそれぞれ切り替わった。
「FCS(射撃管制システム)、オンライン」
「エンジン出力、戦闘定格で安定」
「重粒子投射砲、キャパシタの充電完了、射撃準備完了しました」
「僚艦とのリンケージ確認。並びに惑星モルデムの戦略衛星との亜空間通信オンライン。目標の座標確定、FCSとリンクさせます」
「FCS目標座標入力、動作パターンのアルゴリズム解析完了。いつでも撃てます」
指示が無くても彼らは自分の役割を全うする。
実に、優秀だ。
「司令」
横の女性士官が催促するように私を呼んだ。
準備は完了した。最後の最後、射撃を行う許可を下ろすのは私の役目だった。
私の前には目標の画像データがリアルタイムで映し出されている。
私が許可を出せば、航宙巡洋艦の主砲に相応しい高出力の重粒子が、すぐさま目標を焼却するだろう。
「大佐」
ぐ、側の女性、私の副官のアレックス女史の言葉が鋭い…
仕方ない。私は観念した。
「撃て」
ため息を吐きつつ指示を飛ばすと、躊躇なく主砲は放たれたのだった。
80万キロ彼方の目標に向けて、コロニーの外壁すら貫く重粒子の塊が直進する。
高度な射撃管制システムは、僅かなズレすら許さない。
「目標到達まであと3、2、1…目標の破壊を確認」
ああ…これで…
「目標周辺をアクティブスキャン」
「アクティブスキャン開始、目標の完全破壊を確認。データリンク」
「周辺情報の解析が完了しました。異常ありません」
「作戦の完了を確認しました。JTICS巡視モードに移行」
「FCSオフライン」
「エンジン通常出力に戻ります。出力値異常無し、キャパシタからの放出回路オンライン。300秒で通常モードに移管します」
「亜空間通信オフライン、FCSとのリンクオフライン、通信、巡視モードでオンライン」
瞬く間に臨戦態勢から通常モードに移行した。
本当に優秀だ、優秀なんだが…
「石ころ一つに大袈裟過ぎんか?」
目前のマップと連動した戦略ホロディスプレイに、細々と浮かぶ立体画像。
直径30メートル程の岩石塊、だったモノ。
亜光速に加速された重粒子によって砕かれた岩石塊は、わずかの痕跡を残して蒸発したのだった。
つまり我々は、ただの30メートルそこらの石ころに、我らが連邦宇宙軍高速航宙巡洋艦の主砲でもって対応したわけで。
長域射程の重粒子ビーム砲は戦艦のシールドにすらダメージを与え得るんだぞ?
オーバーキルも甚だしいやろ。
「仕方無いですよ艦長」
レーダー管制官のフレア少尉が苦笑いを浮かべながら私に答えた。
「だって暇なんですから」
「少尉」
あんまりな物言いに隣のアレックス女史から注意が飛んだ。
まぁ、でも分からんでもない。
我々巡視艦隊のやる事は、大体が航路上のデブリや岩石の処理、たまに惑星に接近した岩石の処理、そして極稀に涌く宙賊の処理がホントにたまにあるくらい…
辺境所属の警備隊ならまだしも、治安のしっかりとした連邦領域内で何か起ころうもんなら、首都本星から即応艦隊がじゃんじゃん送られてくるので、問題も起こりようがない…
おまけに、この艦隊の人間も含めて巡視艦隊の構成員は皆優秀。本星の宇宙軍統合本部所属の秀英ばかりな訳で…
先程のように、植民惑星の防衛局あたりから漂流岩石やデブリの排除要請が来ると、テンション高めで存分にその能力を発揮しようとするのだ。
いや、悪い訳じゃないんだけどね?
「では司令、報告書の提出は、現当直の時間内にお願いします」
「げぇ…」
「大佐?」
「あ、ハイ」
報告書ぉ…
惑星モルデムの防衛局が衝突予想進路を取る岩石塊の排除を我ら巡視艦隊に依頼したのも、当惑星の防衛局局長が報告書を作成するのが面倒だったからに違いない。私は確信している。
なぜなら、あの石ころ程度ならば本来惑星の自動防衛設備で対応可能なモノだからだ。
ただ、平時に防衛用のレールガンを起動すればその都度責任者による本部への報告が必須となる。
報告書の作成は責任者の義務であるからして、面倒でもやらなければならない。
それは巡視艦隊の重粒子ビーム砲を起動した艦隊司令も同じく。
結果として、面倒な報告業務を押し付け合う醜い争いが起きるのだ…
今回は、惑星モルデムの防衛局が衝突経路を取る岩石塊をレールガンの有効射程範囲外で発見出来たのでこちらに回してきたと推測する。
拒否する明確な根拠が無い現状、二つ返事で受けざるを得なかった。
これも予想だが、定期運行する商船のレーダーが捕捉して、運行管理用の全域データリンクシステムで軍の警告リストに共有化されたのだと思う。
ソフトもハードも、実に優秀。
俺の想像していた宇宙超大国家の在り方よりも、合理的で隙がない。
波乱万丈の芽は、完全管制射撃による重粒子ビームで早々に焼き尽くされる。
これは、そんな日々の物語である。
お粗末様でござった。