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我が家の食卓革命~転生三つ子が白いパンを焼くまで~  作者: 石磨 輝
第二目標! ふわふわパンを作る!
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鶏小屋でいい子ちゃんになるって決めたぜ!

 今日は雨。天日干しで乾物が作れない日のお手伝いの定番は、卵を回収した後の鶏小屋掃除だ。晴れてる時は父ちゃんの藁ゴーレムがやってくれるけど、湿気るせいか、雨の日はゴーレムたちの元気が無くて、父ちゃんの消費魔力が多くなって大変なんだと。


 他がどうだか知らないけれど、ウチの鶏小屋は数に対して大きい方だと思う。20羽居て、俺らの部屋と兄ちゃんの部屋を合わせたくらいの広さ。半分が高床式の巣箱で、半分が壁に板で坂を作ったアスレチック付き広場。砂浴び場所もあるんだぜ。

 そんな鶏小屋で、巣箱を掃除しながら、次の計画を立てる会議を行う。


「何ものにも代え難い、浄水を手に入れられた。今こそパンの計画を進められるわね!」

「僕らの顎を破壊するパンからの脱却だ!」

「言い方が仰々しいなお前ら」


 兄ちゃんたちが近くにいないと、5歳児の俺らの言葉遣いはまた大人みたいになる。無闇矢鱈に難しい言葉を使ってて、なんかバカっぽいけど。

 とりあえず、最終目標の『白いパン』を見据えた、現状のパンを確認しよう。


「今食べてるパンは、黒いっつーか、茶色のパンだよな。表面の噛みごたえ抜群の」

「そうだね。材料は、全粒粉・水・塩・全粒粉での天然酵母の4つ」

「今日、お母さんが仕込んでたね。発酵に1晩かけるなんて、初めて知ったわ」


 「オーバーナイト法だね」と、やたらとパンに詳しいターチがミーチに返した。よく分かんねぇけど、名前があるってことは、ちゃんとしたやり方なんだな。


 俺らの家では、野菜の他に小麦も育ててる。だから毎日パンが食べられる、ってわけでは全然無い。小麦は税金だからだ。納税用ってわけ。だから俺らの普段の主食は芋か、乾燥とうもろこしになる。

 そんなレアなパンを食べれる機会は、兄ちゃんが山から帰ってきた夜と、山に向かう朝。魔物や魔獣と戦う英気を養う為に、贅沢するんだ。それができるくらいには、ウチは豪農ってことだ。全粒粉だけどな。

 後々堆肥になる、巣箱の籾殻鶏糞ミックスを木の熊手で木のバケツにかき集めながら、今朝母ちゃんが回収した卵の見逃しが無いか、目を凝らす。無いや。


「ふんわり感の為に卵とか入れて焼いて欲しいけどよ、皆、今のパンが『小麦の味がして美味い』って感じで、余計なもの入れたがらないよなー」

「フランスパンみたいにリーンな、材料が簡素なパンなら、今でも色々作れるよ」

「でも、全部硬いんでしょ? 噛み切れないから白いパンを食べたいのに」


 ミーチに同意だ。発酵してガスを出す酵母の餌になる砂糖や、バター、卵が無いから、今食べてるパンは固くてパサパサしてるんだ。それと同じ材料で、柔らかいモノが作れるとは思えない。

 俺とミーチが口をへにょっとさせているのに、ターチは自信満々な態度を崩さない。なんか考えがあるらしいなぁ。聞かせろ!


「ティーチ、ミーチ。ベーグルって、知ってる?」

「ベーグル? あの、むっちり系のか?」

「ベーグルって確か、焼く前に茹でるんだよね! ……あれ?」

「ん? もしかしてっ」

「「ベーグルって、砂糖もバターも卵も、いらないの!?」」

「その通り!」


 細かい藁や籾殻にまみれながら、ターチは晴れやかに笑って褒めてくれた。はー、知らなかった!


「確かに、俺一回だけ食べたことあったけど、もちもちだけどあんまり柔らかくなくて、重たくて、なんだこれ? ってなってたわ。ドーナツみたいな形だから、菓子パンだと思ってた」

「私も。後でアメリカでの食パンの立ち位置だって知って、ビックリしてから納得したわ。アレ、半分に切って焼いて、クリームチーズを塗って食べるのが定番らしいわね」

「僕も詳しい歴史は知らないけれど、ユダヤ教辺りで開発されて、アメリカでも人気になったって感じだって。副材料入れないからカロリー低くてタンパク質多めだからって」


 食パンの立ち位置か。それならあの淡白さも頷ける。でも、バターとか入ってないからって健康的か? 炭水化物には変わらないだろ。まぁ、いいか。


「焼く前に軽く茹でるからもっちりしてるし、慣れれば二時間くらいで作れちゃう。詰まってる系だから食べ応えもある。表面が硬くないから、僕らでも噛み切れる!」

「おお! 得しかない!」

「そんな夢のようなパンが! ……でも」

「うん」

「あぁ。問題は」


「「「母ちゃんが、小麦を分けてくれるかどうか……」」」


 繰り返すが、小麦は納税用だ。少し余分に作ってるから食べられてるだけで、贅沢も、冒険も出来ない。そんな中で、5歳児の俺らに回してくれるか? いや、無い。


「盗むのはヤだぜ?」

「母ちゃんに頭下げよっかー」

「認めてくれるかしら……。いえ、違う。今はひたすらいい子にして、認めてもらいましょう!」

「「「おー!」」」


 今ある材料と出来るパンを相談したところで、巣箱掃除の手を早めた。認めてもらう為に、まずは手伝い頑張るぜ! にしても鶏たちの糞、くっせぇ!


 一回水浴びを挟んで、父ちゃんがやってる畑に蒔く小麦の選別を手伝った。塩水に小麦の種を入れて、沈んだ良い種をよく水洗いする。それを麻袋に詰めたら、湯気もくもくなお湯に5分浸けて、引き上げたら水で冷却して、ござに広げて乾かした。

 ふははっ! これで父ちゃんの好感度アップを狙うぜ!







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