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我が家の食卓革命~転生三つ子が白いパンを焼くまで~  作者: 石磨 輝
帰ってきた三つ子
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兄ちゃんが! 飛んできたわ!


 芋が半分焼けた頃に呼ぼうとしたフシールお兄ちゃんが、「香りに釣られて来た」って申告しながら小屋にやって来た。そっかー。バターのいい香りがするもんねー。魔法の練習の邪魔してごめんね。

 20分後に石窯からガジャ芋を一度取り出してもらう約束をしてたら、フシールお兄ちゃんは「あ、そういえば」って目をパッと開かせた。


「神殿経由で、多分あっちにもお前らの記憶が戻ったこと、伝わってると思う。だからそろそろ会いに来るんじゃねぇかな」

「「「あっちってー?」」」

「うおっ、めっちゃ揃うじゃん」


 三つ子モードの俺らの声の圧に笑ったフシールお兄ちゃんは、「覚えてねぇの?」って微笑んで言った。


「お前らが2歳の頃に初めて来てから、半年に一回位のペースで会いに来てるあの人だよ。きっと国境を越えてからは、久しぶりに飛んで来て……あ」


 「噂をすれば」と言って、フシールお兄ちゃんが空を見上げた。あれ? そっちは山だよ? 道はないのに……って。


「んっ!?」

「えっ!?」

「あれっ!?」

「「「なんか飛んで来てるーーっ!!?」」」


 よく晴れ渡った青い空。聳え立つ山の向こうから聞こえてくる、ドォォン……ドォォン……っていう、太鼓みたいな音。

 山の上からこっちにやってくる影は、鳥の形じゃない! 人の形をした影が、何かを蹴って進んでる! うわー!! あれ、空蹴ってね!? 蹴ってるの空気じゃね!!?


「サ〇ジじゃーん!!」

「ワー〇リじゃーん!!」

「ハ〇ルじゃーん!!」

「「「すげーーーッ!!!」」」


 いや、見事に連想するもの別れてんな!? でもハ〇ルはロマンチック過ぎねぇかな。

 とか考えてる間にも、その人影はこっちに向かって空を跳ねてくる! すげー! あんな、あんな力技が出来る人なんて、そんなの! そんなのって!


「「「クガニにいちゃーーーーん!!!!!」」」


 クガニ兄ちゃんしかいねぇだろ!!


 日光を受けて煌く、金の髪。空を蹴る足はとても逞しくて、大きな荷物を背負った身体は遠くからでも迫力があった。

 ──もしかしたら、普通なら、俺たちはビビるのかもしれない。でも、記憶を取り戻してからは初めて見たはずなのに。まったく怖くない!

 嬉しい! 早く、早く来てよ! クガニ兄ちゃん!


 ドォォン……ドォォン……。あっという間に近づいてくる太鼓みたいな空気を蹴る音。人影が広い畑に差し掛かると、前傾だった姿勢を起こして、軽く空気を蹴りながら、階段を降りるようにだんだんと降りてきた。

 土埃を上げながら、降りてきた、金髪で青い瞳の男の人。見覚えしかない微笑んでる顔は、でも最後に見たときより、父ちゃんっぽくなっていた。──そりゃそうか。だいたい17歳から、5~6年経ってるはずだもんな。大人っぽくなってるのも納得だ。


 そっか。そうだ。俺たち、あんなに見てた兄ちゃんの顔を見るの、すっごい久しぶりなんだ。

 ……ちくしょう。しっかり見たいのによぉ。目の前が、滲んじまう。


「……久しぶり。ティーチ、ターチ、ミーチ」

「「「兄ちゃぁ~~~~ん!!!」」」


 屈んで両腕を大きく広げて構える兄ちゃんに向かって、俺らは三つ子として、その逞しい胸に、飛び込んだ。

 泣いて、喜んで、また泣いて。干からびるんじゃないかってくらい、泣いて。子供の甲高い声で泣かれてすっごい煩かったろうに、クガニ兄ちゃんは俺らの顔を見て、目を見て、自分も静かに感極まっていた。


「みんな……。兄ちゃんのこと、覚えててくれて、ありがとうね」

「な、何言ってんだよぉ!!」

「忘れるわけ、ないじゃん!!」

「大好きな! お兄ちゃんのこと!」

「「「覚えてるに、決まってるじゃあん!!!」」」


 そしてまた「あぁー! あぁー!」って、甲高く泣き喚いた。そんな俺らに、兄ちゃんは「そうだね、ありがとう」って言って、鼻水を垂らして笑った。

 潰さないようにって優しく包んでくれる兄ちゃんの腕の中は、とってもあったかくて。ここが帰るべき場所なんだって、今この瞬間は、そう強く思った。


 思う存分に泣き喚いて、気分が晴れた! そんでふと振り返ったら、テーラになってからのお父さんお母さんもそこに居た。あんなに悲鳴みたいに泣いてたら、何事かと思ったよね。びっくりさせてゴメン。


「いらっしゃいクガニ君。そろそろ来る頃だと思ってたよ~」

「良かったなぁ。この子ら、思い出してすぐは隠そうとしたから、ハラハラしたもんだぁ」

「だってよぉ、こっちに無いもんばっかり知ってるって知られたら」

「それを求めて偉い人が僕らを連れてって」

「皆に会えなくなるかもって思ったんだも~ん」

「「「そんなのやだ~」」」


 兄ちゃんに抱きついて首を横に振ってたら、上からデレデレした声で「そっか~」って兄ちゃんが言った。


「だから兄ちゃんの所に居た頃も、頑張って誤魔化そうとしてたんだね」

「「「うん……。ダメだった?」」」

「なんで!? それってつまり、兄ちゃん達と離れたくなかったからからでしょう? 愛されてて、兄ちゃんとっても嬉しいよ!」

「「「えへへ~!」」」


 嬉しい頂きました~! そうだよなぁ! 欲望に忠実なだけじゃない、健気な俺らを愛さないワケ、ないよなぁ!


「あっ、そうだ! 兄ちゃん! 今俺たちな! ガジャ芋で作れるうまいもん作ってんだ!」

「洗って、切り落とさないで薄く切り込みを入れて、塩と溶かしバターをかけてね!」

「今ちょうど焼いてるの! このあと一度取り出して、追加でバターをかけてまた焼くから、出来上がりまで時間かかるけど!」

「「「食べてってー!」」」


 三つ子のキラキラおねだりをくらえ! お前はデレデレして受け入れるしかなくなる!


「うん! ご馳走になるね!」


 よぉし! クリティカルヒット! 焼いてる間に、倉庫に仕舞ってる外用のテーブルと椅子をセットしなきゃ! え? それは兄ちゃんが運んでくれるの? うわっ、片手であの重い机持ってる。武神の加護は健在だぁ。




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