次の捧げものは! これに決まりだ!
屋根と背面だけ壁があるバス停みたいな小屋に集まった俺らは、それぞれの親から分けてもらった品を座卓の上に乗せる。
ガジャ芋が4つ、牛乳が1瓶、バターが手のひらサイズ。3分の2が乳由来って傾いてんな。
「これで、今日は何作ろっかー」
「ポテトグラタンは“ガジャ芋のおこげ”って名前でもう開発・発表したしなー」
「グラタンの言葉の意味がおこげって、テーラよく知ってたよね」
「テーラはそこら辺知らないと思ってたわ」
「失礼な」
“器からこそげる”って意味もあるらしいって、知ってるぞ。もう確かめようも無いけどな。
「うーん、どうしよっかー。器とオーブン繋がりだと、パン粉焼きもやったよねー」
「パン粉ならカツレツ、ガジャ芋だとコロッケみたいなのも、調理法と一緒に再発明しちゃったしー」
「ハッシュドポテトと同じ、“脂焼き”って名前でな」
前々世の記憶を辿っても、高校生でしかなかった俺たちが知ってることは拙いものだ。多分同年代よりも食い意地は張ってたと思うけど、プロでは無いんだ。
何が言いたいかっていうと、そろそろネタ切れ起こしそう。ヤバイ。
「そろそろジンニンケーキとか開発すべきか……?」
「それはそれで美味しそうだけど、今は目の前にある材料でどうにかしよ?」
「別に、全部使えって話でもないのよ。調味料も準備してもらえる最高の環境なんだし、思うままに、私たちは自由にやりましょ」
「ん? そっか。牛乳使わなくていいのか」
「え? てぃー……ちがう、テーラ。何か、アイディアが?」
「あれ? ってことは、シンプルなのね」
焼く、蒸す、茹でる、煮る、炒める、和える、炊く、揚げる。調理法には色々あるけれど、今は揚げ調理が半分縛られてるような状態だ。ティーチの頃はハッシュドポテトが食べたくて揚げ焼きを再発明したけれど、他に目を向けたって良いわけだ。
牛乳を見て見ぬふりをすれば、まだまだレパートリーはあるぞ! ここの芋もじゃがいもだし!
「ハッセルバックポテトって、知ってるか?」
「あぁ、アコーディオンポテト?」
「材料はじゃがいもとバターと塩。他にベーコンとかチーズとか胡椒とかを加えてもいいアレね」
芋そのものなレシピはここにも割とある。主食に近いからな。ふかし芋だったり、粉ふき芋だったり、マッシュポテトやベイクドポテトだったり。でも、切り込みがいっぱい入ったこの形は無いだろう。既にあったら、まぁ、それはそれで。
んで、ライトなキャンパーだった俺は、アレの作り方を知っている。ハッセルバックポテトはシンプルで付け合せに丁度いい上に、チーズをかけたり肉を挟めば十分メインディッシュになる。神様に捧げる品として見た目もいいぞ!
オーブン調理でのやり方は知らねぇけど! ノリで行けるっしょ!
「ひとまず今日は、それを美味く作れるように試行錯誤するってことで、いいかなー?」
「「いいともー!」」
結構前に終わった番組を彷彿とさせるやり取りをしてから、俺らはそれぞれの用意を始めた。まな板と切れ味のいいナイフ、取りに行かなきゃ。あと鉄板。は、誰か居たら持ってもらお。
道具を持って戻ってくると、ターチ、いやフェンが小屋併設の石窯の薪に魔法で火をつけていた。ミーチ、じゃなくてフミジティが魔法で桶に水を出して芋を洗ってくれていた。今世の兄貴、フシールお兄ちゃんが感心した様子で「うまく扱うなぁ」って褒めてた。風属性のお兄ちゃんも、5歳も先輩だろ! 負けてる訳無いじゃん!
俺らは神の愛し子だからって、記憶が戻ったって申告したその翌日に魔力適性検査を受けたんだ。ちなみに俺は土属性。いつかクガニ兄ちゃんに『こうだったらいいな~』って話してた属性が、俺とターチで反対になっちまったな。農家とパン屋で適性だったから別に気にしてねぇけどさ。畑を掘り起こしたり、ゴーレム召喚の練習も楽しいぜ? うん。一体も作れてねぇけど。
「フシールお兄ちゃん、鉄板持ってくれてありがとう!」
「おう。完成したら俺にも味見させてな」
「うん!」
別のテーブルの上に鉄板を置いて、フシールお兄ちゃんは家に戻った。風で木の実を収穫する魔法の練習、頑張ってな。まぁ、俺らが怪我しても駆けつけられるように見ててくれてるとは思うけど。
「それじゃ、やるぞー!」
「「おー!」」
用意が出来たら、さっそく調理をはじめていく!
フミジティが洗ってくれたガジャ芋から、芽を取り除く。貯蔵庫から取り出してきた熟成された芋は、暗さも温度も適性だったおかげでほとんど芽が出てない。ナイフも切れ味がいい薄い刃だから、やりやすい。
「はい、フェン」
「まかせてー!」
芽を取り除いたガジャ芋をまずはフェンに渡して、2~3mm幅に、切り落とさないようにしながら切り込みを入れていく。はい、次の芋はフミジティにっと。
「これ、割り箸とか何かで下、ストッパーが欲しいね」
「そうね、これが気に入られたら、専用の木の棒でも探そ……言ったそばからぁ!」
「「どんまーい」」
切り込み担当の二人が相談してたら、フミジティがやらかした。せっかく半分までキレイに切り込み入れられてたのにな。まぁしゃあない、しゃあない!
「俺のナイフの方が薄いから、交換しよ」
「むう……。ありがと。今は私が男の子だから、重たいのは私が持とうって思ってたのに」
「5歳児でンナ変わるかよ。用途で変えようぜ。てか、最初に気が利かなくてごめんな」
「いいのよ。この太さのナイフは向かないってことが分かったんだから」
「「かっこいいー!」」
俺のミスを許しただけじゃなく、前向きに解釈したぞコイツ! モテそー!
そんなやりとりをしつつ、切り込みを入れられたガジャ芋4つを水を張った桶に入れる。切れ目がくっつきにくくするために、水にさらして余計なでんぷんを流すんだ。これを、だいたい10分。待ち時間で塩とか小鍋を取ってこよう。ニンニクも貰えるかな。
包丁とまな板を洗ってくれたフェンとフミジティに、戦果を報告する!
「フェンー! フミジティー! リクッガ貰ってきたー!」
「おおー! それとバターでリクッガバター作ろー!」
「やだ、口臭くなるじゃない。私バターだけにする」
「旨いのに」
嫌がる人に無理やり食わす癖は持ってないから、大人しくバターを3分割。一つは焼く前に溶かしたものをガジャ芋にかけて、焼き途中にかけるバターの一つがそのまま、もう一つがリクッガバターにする用だ。
鉄板に水気を切ったガジャ芋を並べて、窯の中で溶かした小鍋のバターを回しかける。いい香りなそれに塩をパラパラっと、しっかりめにかけてっと。
いよいよ、一回目の焼きだ! うんしょ、うんしょ! 鉄板おっも。転がるなガジャ芋!
「「「みんな美味しく、焼けてきてねー!」」」
三つ子で頑張って鉄板を窯の中に入れたら、そう言って手を振って、扉を閉めた。ふう、20分くらいしたら一度、フシールお兄ちゃんを呼んで取り出してもらお。