思い出した! 前世のことはハッキリと!
俺たちの、俺たちによる、我が家の為の食卓改革は、パン屋の娘・フェンの一言によって始まった。
「ねー、白いパン、また食べたくない?」
白いパン。噂に聞く、貴族様だけが食べられる、ふわっふわなパンのことか。俺たちがいつも食べてるパンは小麦の外っ皮ギリギリまで挽いた、茶色い粉から作られている。だから中まで茶色くて、固いパンだ。固いって言っても、スープに浸さなくたって食べられる固さだぞ。お兄ちゃんたちは。俺たち5歳児には歯応えがありすぎるな。
だからって、白いパンなぁ。
「でもフェン、野菜嫌いじゃん。栄養取ろうとしたら、今の2倍食べなきゃだぜ?」
「そうだよ。全粒粉だから食物繊維とかカリウムとかが摂れて、効率的に栄養摂れてるんだよ?」
「うっ、き、嫌いじゃないもん! ただまだ僕の舌には合わないってだけで! てかそれはテーラもフミジティも一緒でしょー! ……え?」
「ん?」
「あれ?」
文句言ったフェンが赤くなったしかめっ面をポカンッとさせたから、俺もフミジティも目を丸くした。
「「「どうして、こんな事知ってるんだろー?」」」
三つ子でもない俺らは、だけども揃って首を傾げた。
なんて言ってたのも、今は昔。
野菜の乾物づくりを手伝ったあの後、寝て起きたら、前世も前々世も思い出した。前々世の方はやっぱりうろ覚えだけど。
急に情報が頭の中に流れ込んできて、勿論すっごい混乱した。でも次に会った時に記憶を刷り合わせて確かめて、三つ子揃ってたから落ち着けた。みんな、別々の家の子になっちゃってたし、性別逆転してるけど。
俺が農家の娘で、名前はテーラ。
ターチがパン屋の娘で、名前はフェン。
ミーチが大工の息子で、名前はフミジティ。
狙ったように逆転してるのは何なんだろうな?
そんで、また別の異世界に飛ばされてるかもしれないからって黙ってたら、お母さんが「神託通りなら、テーラちゃん、そろそろ記憶を取り戻す頃かなぁ」なんて言うからひっくり返った。
『同じ日に、それぞれの母から生まれし命。別れた三つ子は知恵の神の愛し子なり』
『5つの年に宿し知識を目覚めさせ、地に新たな知を芽吹かせるだろう』
そんな神託が近所の教会の神父さんに下ったらしいよ。んで、まるっきり当てはまるのが俺たちだった。賑わいがあっても毎日生まれる程じゃない人口密度の村で、同じ日に生まれた三人の赤ちゃんなんて、分かりやすいわな。
そして、神託はこう続いたらしい。
『邪魔をしてはならぬ。独占してはならぬ。絶えさせてはならぬ』
『我は見ている。別れた三つ子が見せる知を、我に捧げよ』
結構な数、人間に注文してんね。愛し子らしい俺らからしたら助かるけど。
だってつまり、俺らは『王族・貴族・教会諸々に無理やり召し上げられる事がない』し、『大々的に再発明して大丈夫』だし、『特許的な複雑な申請をしなくていい』ってことだ。その条件として、俺らは知恵の神様に再発明したものを捧げる義務があるけど。正直、なんてことはないよな。披露する場ってだけだし。
そういや、独占してはならぬ、って言ってるし、多分だけどさ。水甘もとい水飴のレシピとかも、今の俺らが再発表しても構わないんだろうな。さ、砂糖が高いのがいけないんだ! 中抜きしてる奴らがいけないんだ! 俺らに甘味の再発明をさせろ!
しっかし、前の時とはかなり、そのあたりの環境が変わったな。大人の目が上の兄弟含めても3倍以上になったから、理解があるのはすっごい楽だけどさ。
知恵の神様も、俺らの再発明品を捧げて欲しいから、あらかじめバラしておいてくれたんだろうしな。三つ子じゃなくなったのも、そこらへんが関係してんのかな。
家の前の木陰で前より明るい茶髪を三つ編みし直してたら、遠くから「おーい!」って、子供の声が2つ重なって聞こえた。
「「テーラぁ! 来たよー!」」
市場につながる広い農道から走ってくるのは、赤毛の女の子と、焦げ茶髪の男の子。ターチとミーチ。今は、フェンとフミジティって名前の、俺の魂の親友たちだ。