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我が家の食卓革命~転生三つ子が白いパンを焼くまで~  作者: 石磨 輝
三つ子がいなくなった後
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ねー!魔王ってヤバイよねー! 4

※ゾンリー視点


 ──時は少し遡る。



「それではゾンリー殿。こちらを」

「ええ。良い取引でした」

「また3年、よろしく頼む」


 詰めた会議を終え、ダクシン国王のサインが入った書類を眺める。──これで、また城の民たちを食わせられる。一安心だ。

 最近は食事をこまめに摂る種族も技術者として採用を増やしてきた為、この国でも彼らが飢えないように内容を増量方向に改められて良かった。

 そんな彼らの編む布や製品もまた、人族でも認める高品質。魔石以外の品を提案した途端に『物々交換なぞ、非文明的な』などと侮った奴らは後悔するがいい。それ自体にまじないが込められている事を今更知ったとて、私から取り引きすることは有り得ない。


 その点、この国は良い。嗜好品に類する食材に加えて、日常的に食される食材(それでも質の良い高級品だが)も快く取り引きに応じてくれた。勿論、大多数の国がそうであるし、私自身は南国のフルーツが好みではあるが、北国ならではの凍りつくような荒波に揉まれ身の引き締まった魚介類や多種多様な保存食も美味だ。

 ……まぁ、3か月前にこちらでクソ野郎が暴れたせいで、同月分の魔石を無償で提供する羽目にはなったが。必要経費と割り切ろう。特に欲しかった天日干しした果物類を仕入れられたのだし。


 内心ホクホクしているのは顔に出さず、昼餐会でもてなされる。といっても小規模で、それほど大きくもない丸テーブルに王と私だけが席に着く気楽なものだ。料理も一度に出される。

 質の良い小麦を使った白いパン。草だけを食べた乳牛の乳で作ったバター。クセのない太陽花油を使ったドレッシングのかかった、新鮮で心地よい苦味の葉野菜。流石王宮、どれも洗練されている。

 ……いけない。この王宮に滞在中、味が濃いものやよく煮込まれた肉がメインのものが多かったせいか、素材の味が活きたものに食指が動いてしまう。農家たちが手間ひま惜しまず育てた作物たちも最高だが、シェフたちが丹精込めて作ってくれた料理も味合わねば。この昼餐会で、この場所での用事を終える私はここを去るのだから。


「──失礼します!」


 そばに控えるシェフからドレッシングのレシピを聞き出していると、突然開かれた扉から、会食場に甲高い声が響いた。

 鬼気迫る表情の白い法衣の少女が、私を睨みつけてくる。優雅に、しかし早足でこちらへ歩いてくる彼女は、王が止まるよう言っても聞く耳を持たず、私のすぐそばまで来た。彼女はこの国の第三王女、ウチャラマク。確か13歳で、こんな無作法な少女ではなかったはずだが。少々くたびれた法衣に、疲れの見える顔。あぁそういえば、第三王女はまだ弱いが癒しの力を持った聖女であったな。

 第三王女は胸の前で手を組むと、私に対して深々と頭を下げた。


「魔族の宰相、ゾンリー様にご挨拶申し上げます。ダクシン王国第三王女、ウチャラマクでございます。昼餐会の最中の突然の訪問をお許し下さい。どうか私の話を聞き入れて頂きたく、馳せ参じました。ゾンリー様! 魔王を止めてくださいませ!」


 私の返事も待たず、第三王女は筋違いな依頼をしてきた。

 “魔王を止めろ”と言ってくるということは、3か月前の被害者の件で乗り込んできたか。被害者はたしか、魔物討伐部隊でもある、第4騎士団の団長だ。


「これ、ウチャラマク。その件を魔族のゾンリー殿にお伝えしても、どうしようもなかろう」

「ですが父上! 団長がっ!」

「ですがも何もない。退きなさい。これ以上ゾンリー殿への礼を欠くでない」


 必死の形相でまくし立てていた王女だったが、溜まっていた鬱憤が少し抜けて冷静になったか、父王の言葉が耳に入るようになったらしい。目の下のクマがはっきりしている13歳の少女は顔をしかめてから、私へ謝罪をして去っていった。あっという間に去った嵐だった。つむじ風か。


「大変な失礼を申し訳ない、ゾンリー殿。……聖女として懸命に使命を果たしている、誇れる娘ではあるが、いささか熱が入りすぎて暴走してしまったようだ」

「いえ、あの程度を暴走というなら、我が魔王様のしでかす恥はなんと称すればよいか……。とはいえ、やはり私に引き止めるよう依頼するのは、無謀であるというか、筋違いというか」

「そうであろうな……」


 ダクシン国王は理解している。我々魔族の王の定め方を。ゆえに私にどうにかできる力がないことも。そもそも、第三王女の無念を晴らす存在が何であるかも。

 ……おや? この、懐かしくも忌々しい気配は……。ふふふ、いくら今代の聖剣保持者どもが私にとって都合が良いからと、ここまで接近を許してしまうとは。私も落ちぶれたものだ。6代も魔王様を近くで支えてきたことは誇りだが、流石に長生きしすぎただろうか。


「ところで、国としては彼らの入国を認知しているのでしょうか?」

「彼らとは? あぁ、勇者たちか。無論、把握しておる。しかし我が国から何かを要請する予定は無い。せいぜい商人たちに法外な値段を吹っかけぬよう、通達するのみよ」

「第三王女に彼らの王都入りの情報は?」

「助力できぬのに、騒動を起こすと分かっていて、伝えはせぬ」


 だろうな。あちらには欠損すら生やして治す神の域に到達した聖女ペチュニアが居る。戦力も当然足りている。経済状況は不明だが、齢13の王女にどこまで権力があるか。物資を潤沢にしたところで、悪路も行く彼らでは持ちきれないだろう。


 そうでなくても、王の頭痛の種は、周辺国と足並みを揃えなければならないことだ。

 驚くべきことに、隣国は魔王討伐一行を入国拒否した。見当違いも甚だしいが、私(魔石の取引相手)との関係を重視したのだろう。そんな中で討伐一行を優遇すれば、『我が国への当てつけか』と国際問題になりかねないと考えているのだ。

 一つ頷いてから、会話を続ける。


「騎士団長殿が我が魔王と対峙し、傷ついていましたね。謝罪申し上げます」

「うむ、質の悪い災害に遭ってしまったと受け止めておる。魔物に対して一騎当千な彼奴が、一矢報いても一撃を入れられたのみ。団長を慕っておる国民たちは、勇者一行、いや、魔王討伐一行に望みを託しておるのだ」


 隣国に倣わず彼らを入国させたのは、国民感情を良い方向に刺激するため、か。

 国王のこの判断は、国民には期待を裏切らない度量の深さを見せ、周辺国には国民感情を理由に言い逃れを試みる。一時しのぎとしては良案であろう。

 心を痛めた国民のために受け入れても、支配者層は歓迎しない。そういった仮初の主張の為の、今の態度なのだ。問題を起こさないためには、王族が接触するなど、あってはならないはずだ。


 今の私は気分が良い。彼らにも興味があるし、幼い聖女のために少し働きましょうか。


「今夜、魔王討伐一行に接触しようと思います」

「なんと!? ご自身の命を軽く考えないでいただきたい!」

「私は彼らの討伐対象ではありませんよ。仲良くなりに行くだけですし」


 契約更新のために各国回って集まった情報では、彼ら討伐一行はいたって穏やかな若者たちという評判だ。こちらが敵意を見せなければ、どこまで近づいても武器を構えないだろう。たとえ、魔族が相手でも。



 こうした経緯で、私は魔王討伐一行に接触を試みた。


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