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我が家の食卓革命~転生三つ子が白いパンを焼くまで~  作者: 石磨 輝
三つ子がいなくなった後
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ねー!魔王ってヤバイよねー! 3

 冷めたらいけないから、お茶を頂く。高級ホテルらしく紅茶で、香りはプルアみたいな甘酸っぱさ。味は爽やかさと渋さがある、雑味のない美味しさ。あぁ、高級品って感じ。おいしい。お茶請けの干し果物も、甘さと本来の風味が凝縮してて、お茶が進む。

 俺がお茶を嗜んでる間にも、ジャバラたちが話を進めてくれる。


「砦に向かうのを歓迎する。それは、我々が魔王を屠らんとするのを、援助しようと?」

「そのとおり! 話が早くて助かりますよ。なんたって、我々魔族が気に入らない上位存在を、進んで排除しようとしてくれているのですから。聞き及んでおります。近頃は改善されたとはいえ、人族の国は、あなた方魔王討伐御一行に非協力的だと」

「それは、アタマが変わっても同じ調子で魔石取引してるお前のせいなんだけど」

「おや、これは失礼」


 そのせいで説得に聖女様がけしかけられたんだけど。各所のお偉いさんから直接『復讐なんて無益。考え直しません?』って言われるし。俺と合流する前のアルコなんて、『平和な時代に勇者なんて要るの?』なんて嘲笑われたらしいし。

 ……買い物は普通にできるし、めっちゃ邪魔されてるわけでもないけどさ。普通の冒険者くらいの生活水準?じゃないかな。


「しかし勘違いしないでいただきたい。今代も特段、他種族の排除などという過激な思想は持っていないのです。そして我々魔族も生き物。食わねば生きられないのだから、取引は続けます。滞りなくね」

「はぁ……」

「いいじゃありませんか、クガニ様。歴史書にはゆく国ゆく村で歓迎されて、それが過ぎて進みにくいという笑い話も載っていましたわ。構われない方が、私たちには合っていますわ」

「そりゃあね……」


 “構われない”と“疎まれる”とじゃ、違うけどね。『魔石が買えなくなったらどうするんだ』って視線も言葉も、めちゃくちゃ食らってきたんだよコッチは。

 ……そういや、この国ではあんまり、そういうのは無かったな。アルコには期待すらあったような。来たばっかりでとかは、アルコの目立つ見た目で関係ないし。


「──まぁ、それは理由の半分にしかなりませんが」

「気取って言ってるけどよ。どうせそいつらも戦いたいだけだろ?」

「どこまでも話が早い! そうです。我々魔族は、強さへのあくなき探究心で出来ているのですよ。彼らも戦いに飢えています」

「じゃあ、」


 『仮に、今の魔王が元武神でなかったら、武神の加護を受けた俺は狙われていなかった? それとも』


 思わずそう言いかけて、話の流れを切ってしまうからと飲み込んだ。けれど出ちゃった声は思ったよりも部屋に響いていて、ゾンリーは俺が何を言いたかったのかを察してしまったらしい。背筋を伸ばしたゾンリーが哀れむような笑みを、俺に向けてきた。


「今代の魔王が堕ちたのは、今から20年前。そして君は、そろそろ17歳ですね? ……酷なことを言います。君が力を持って生まれたのは、今代の魔王を滅殺するために、新たな武神が加護を授けた結果でしょう」

「……ぜーんぶ、あのクソ野郎が原因。ってことか」

「少なくとも、先代の魔王様は穏やかな方でしたよ」


 はぁ、復讐する理由がまた一つ、増えたわ。天界でテメェが暴れたせいで、あの子達は殺されたんだ。

 絶対に、許してたまるか。


 上体をソファの背もたれに預けたゾンリーが、息をついてからまた微笑んだ。ホント、よく笑顔になる人だな。それが仮面なのか、本心なのか。一応、魔族だしなー。


「さぁ、復讐決意者がさらに力を付けるためにも。近々砦に向かいましょう」

「あぁ。……ん? 一緒に行く感じ……?」

「勿論! 私もこの国での商談がひと段落しましたから、ここから近い北の砦経由で城に戻ります。あぁ、実は砦には転送魔法陣もありましてね。いやま、一度に1人、それも魔族並みの魔力がなければ動きもしませんがね」

「ほう、ほう!」


 あ、ジャバラが釣られちゃった。すっごい身を乗り出して話聞きたそう。

 ……なんか、もう怒りが消えちゃったな。元々そうだったけど、復讐心の矛先が魔王クソやろう1人に絞られたから、かな。


「結界魔法陣含め、そちらも是非拝見したい! 皆、ゾンリー殿と共に砦に向かっても、構わないな!?」

「別にいいけどよ。行き先一緒ならついででいいだろーし」

「ですが、ゾンリー様も伴にしている方々がいらっしゃるのでは?」

「定期的な商談ですから、私一人で行動していますよ。時間などの制限はお気になさらず」

「アルコ、ジャバラ、新調した武器との親和性とか大丈夫か? それが問題ないなら、俺も歓迎したいな。……砦の魔族の傾向とか、聞きたいし」

「弱点は教えませんよ。面白くありませんからね」


 砦側の勢力にそこまでは期待してないよ。罠があるかどうか、パワー全振りなのか謎解き系なのかを教えて欲しいだけ。……力比べにはやっぱり辟易してるけど、魔王を殺す練習だと思えば、目を瞑れる。



 話し合いは進み、北の砦に向かうのは2日後になった。実りの少ない時期でそこそこ過酷らしいから、しっかりと食料を買い込んでおかないとな。ゾンリーも雑多な用事を済ませたいって。

 あとなんか、ゾンリーが俺の作る料理を期待してた。大したものは作れないですけど。王宮に上がるような人の舌を満足させられる自信は無いですけど。まぁでも、ちょっとなら空間魔法の収納を間借りさせてもらえるらしいし、種類も多めに買い込んでもいいかも。


 さぁ、期待してくれてるゾンリーの好物も聞き出したいことだし。いよいよ本題入るぞ!


「魔王への悪口を言い合いましょー!」

「「いえーい!」」

「そーだった。こいつらの目的コレだった。ちゃっかりジャバラも参加してるし」

「夜ふかしは冒険の大敵ですわよー。ほどほどになさってー」


 確かに。ペチュニアの言う通り、あんまり盛り上がりすぎると明日に響くな。いくら準備の日だからって、いろいろ考えなきゃいけないこともあるのに──


「あいつ、元が神故か、食べなくてもいいんですよー。こちらはせっせと魔石を作って取引して、食べるのに必死なのに! シェフが泣くからちょっとは食べてみせろっつーの!」

「はーーーーーーーーっ??????? だからアイツ俺を畑の中にブッ飛ばせたワケーーー????? 食べ物の大切さ、知っとけや神様ならよー」

「武神だろうと、酒など何か作物を捧げられた経験はあるだろうに。粗末にできる精神性が理解できんな」

「そうそう! アイツは神なんですよ! 大自然由来でもない神なら信仰心で力をつけろって話なのに、未だに弱体化しないんですよー! 馬鹿みたいじゃないです!?」

「規格外過ぎて、まるで好ましくないな!」

「あー嫌い」


 人間側の被害者・関係者にも、魔族側にも嫌われておいて、なんでまだ好き勝手できてんだ。もしかして、俺を加護してる新武神への信仰心を掠め取ってんのか? それとも──弱体化して尚、あの覇気なのか?

 弱気になるな。俺。


「あー嫌い」

「2回言ったぞ、あいつ」

「夜のこんな時間に、あれほど興奮して、ちゃんと寝付けるのでしょうか。忠告しましたのに」


 ……やかましい。ふたり仲良く溜め息つかないでよ。でも指摘通り、なんだか暴れたくってしょうがない。俺が暴れたら誰が止めるの。命を奪うのはゴメンだぞ。


「ところで、ウチの魔石の作り方って漏洩してたりします? まぁ魔族の中でも病的に魔力の多い者でないと成せない力技なので、漏洩しても人族にはどうしようもないのですが。それはスライムに魔力を過剰に注ぎ込んで、無理やり核を魔石化させてるんですよ」

「知ってもいいのか? 教えてもいいのか? 私は魔術や魔法の効率化を研究テーマにしているぞ?」

「その工場に視察へ連れて行ったところ、あの野郎、なんて言ったと思います? 『気色悪っ』ですよ!? 『気色悪っ』!? 魔王城の一大産業を、『気色悪っ』ですよ!? 治療行為も兼ねている尊い産業を! アイツは!」

「誇りを持って行う産業を貶されるなど、魂の否定と同義。心中お察しする。辛かったな」

「ジャバラさーん!」


 あーなんか、ゾンリー泣いちゃった。なるほど、拡大解釈すると、この人は心を魔王にフルボッコにされたわけか。てかホントに魔石の作り方教えて良かったの? どうせ俺は一粒も作れないけどな!


 んー、心労抱えたゾンリーを慰められるような、料理、かぁ……。とりあえず今はメニュー考えて、この嫌な感情を昇華しようか。


「気分転換に話を変えようか。ゾンリー、あなたはどんな料理や食べ物が好きなの?」

「ふふふっ、お気遣いありがとうございます。そうですね、私は……基本的になんでも好きですが、気分としてはシンプルなものでしょうか」

「へぇ、意外。お偉いさんなら調味料をふんだんに使った濃い味のものが好きだって思ってた」

「勿論そうしたものも好みですが……それはそこの王宮で頂いてきましたから」

「王宮に“そこの”って……」

「流石、いくつも国を回って取引しているだけあるな」


 そこから更に話して聞き出したゾンリーの好物は、思っていたものではなかった。んー、シンプルで味付けも濃すぎないもの、かぁ。

 そうだ! あれにしよう! あの子達との思い出の味を、久々に!


4話目は少し時間を頂くかもしれません。

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