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我が家の食卓革命~転生三つ子が白いパンを焼くまで~  作者: 石磨 輝
三つ子がいなくなった後
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ねー!魔王ってヤバイよねー! 2

 優雅にハーブティーを一口味わった魔族のゾンリーが、整った顔に愉悦が光る笑みを浮かべて、言い放った。


「まずは重大なことからお伝えしましょう。魔王討伐一行として、これからあなた方は魔族の砦に向かうことでしょう。ですが、結界魔法陣の破壊を目的とするならば、無駄足となるとお伝えします。なぜならば、“魔王城を守護する結界は、既に一つも機能していない”からです」


「は、はぁーーーーーーっ!?」


 え? えぇ? そんなこと、有り得る? だって一応、お前らのボスだぞ? えっ、そんなに嫌われてんの、あの魔王。守る気が一切無いくらい嫌われてんの?

 ………………。


「「ざまぁみろ!」」

「うわ、復讐組が悪い顔してる」

「まぁ、仇が嫌な思いをしていたら、喜びたくなるのが人の心ですわよね」

「癒しの聖女ちゃんもそういう事あったん?」

「今はゾンリー様のお話をしっかり聞きましょう」


 上手く逃げたな。ペチュニアも人間だし、そういう時はあったかもね。

 ニコニコしてるゾンリーに話の腰を折ったことを謝って、続けてもらった。


「結界の機能を止めた理由はただ一つ。皆様お察しの通り、我々魔族が、“ヤツを魔王と認めていないから”です」

「俺たちからすればチャンスだけどよ、不思議な話だな。魔族っつーのは強ぇヤツに付いてく習性があるって聞いてるぜ」

「強ければ認めるというのなら、どこかで魔王は貴方がた人間だった時代があるはずですけどね」

「少なくとも教会の歴史書では、そのような時代はございませんわね」


 ふーん、魔族の中にも、こだわりがあるってことか。

 「じゃあ歴代の魔王はどうやって認めてもらっていたのか」っていう質問をしたら、こう返ってきた。


「砦の術者に、そしてその時代の魔王に勝利することですね! 自らの強さを認めさせることで、術者に結界を張ってもらう契約をする。その上で時代の最強を超える。この一連で魔王の誉れを得て、最強を証明するのです」

「それを、あのクソ野郎はやってないと?」

「当代の魔王は、先代を殺しただけですからね」


 ず、随分と、直接的な表現で。魔王のことをクソ野郎って言って揺さぶったのに、こっちが狼狽えちゃった。


「ヤツはなるほど、堕ちたとはいえ神です、武神です。先代魔王様も健闘虚しく、散って逝かれました。先代様よりも当然力の劣る我々は、無闇に争うことを避けました。神の気に充てられたとも言えるでしょう。我々は、戦わずして、負けてしまったのです」

「だから、力で勝てないなら、守るって仕事を放棄しようってことか?」

「それもあります。ですがそもそも、砦の術者に会いにすら行っていないのだから、結界を張る義理はないのです」

「その件で、ゾンリー様からご忠告なさったことは?」

「ありません」


 ペチュニアの指摘に、ゾンリーはイタズラっぽく笑いながら返した。思いっきり魔王への反抗意識、燃やしてんな。魔王のクソ野郎も反逆されてても気にしてないのか、気づいてないのか。

 俺と一緒に「ざまぁみろ」って笑ってたジャバラが足を組んだ。話を聞く態度だっけ。


「なるほど。結界が機能していないのは、最初から起動させていないから、か。人間側の強者を嗅ぎつけては力比べに出ているから、根城を守ってもらうメリットも無いと捨て置いてるのか」

「近くでお仕えしている私から見れば、そんなことを考えてる素振りもありませんね」


 実情を知っているゾンリーは肩を竦めて笑って、彼が導き出した答えを口にする。


「ヤツは、『自分は神なのだから、下々が仕えるのは当然だ』などと驕り高ぶっているのですよ。我々魔族の信仰の対象じゃないっていうのに」

「わぁ、自分勝手な神らしーーー!」

「そうでした、貴方は新しい武神の加護を受けているんでしたね。望んでもいないのに」


 そうだよ。だからやりたくもない魔王討伐なんかに巻き込まれてんだよ。家族を殺されて、未だに人質から解放されてねぇんだぞ。堕ちても現役でも、神様ってヤツは自分勝手だな。関わってくんじゃねぇよクソが。人を弄びやがって。

 ……俺は未だに、父さんや母さんみたいに魔法を使ってみたいって、思ってるんだよ。


「えっと、まとめると? 今の魔王は“俺は神だぞ”って調子乗って、砦の魔族に挨拶廻りしてないから、魔王城に本来あるはずの結界が無い。だから『結界を壊すために砦に行くのは無意味』。ってことか?」

「そんなところですね」


 纏めた要点をゾンリーに認めてもらったアルコ。柔らかい背もたれから離れて前傾姿勢になると、「それじゃあ」と続けた。


「確認だけど、砦の魔族はまだ、魔王に殺されてないんだよな?」

「そうですね」

「なら、俺らが砦の魔族に、力試しに行っても、顰蹙を買わないか?」


 少し自信なさげに告げたアルコに、ゾンリーはやっぱりニコニコして、「是非!」と返してきた。だんだん、胡散臭く感じにくくなってきたのは、俺がこの人を信用してきてるからか?

 ゾンリーはすらっとしながらも力強さを感じさせる指で顎を一撫で、二撫で。こちらも前傾姿勢になって、企み含んだ微笑みを浮かべた。やっぱ胡散臭い。


「あなた方とは、つくづく気が合いますね。いや失礼。まだ、“利害が一致”という表現に留めておきましょう」

「と、いうと?」

「力試しの為にあなた方が各砦へ赴くことを、我々魔族は歓迎いたします」


 『歓迎』とは、また熱烈な。待ち受けてるとかじゃなくてかぁ。行ったらまたお茶しそう。


 てか、魔族に味方される魔王討伐一行って、ナニコレ。


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