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我が家の食卓革命~転生三つ子が白いパンを焼くまで~  作者: 石磨 輝
三つ子がいなくなった後
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ねー!魔王ってヤバイよねー! 1

無慈悲なお知らせ。魔王討伐編は執筆予定ないです。代わりに魔族側の魔王への心情編を(おまけもあるかも)掲載していきます。愚痴暴露編とも言う。

 魔王城には、結界が4重にも張り巡らされているらしい。


「ビビリかよ。4重? クソビビリがよ」

「まぁまず聞けって。数々の魔王を歴代勇者と一緒に屠ってきたイリスからの情報だぞ」

「……お前ホントに聖剣のこと、大好きだなぁ」


 その魔法陣は城から遠く離れた砦にあり、その砦も4つ、東西南北にそれぞれ構えられている。結界は魔王城を守るという役割も勿論あるけど、術者も魔族で、やっぱり脳筋。勇者となる人間をそこで待ち構えているらしい。


 どいつもこいつも力比べ、力比べ。魔族にロクなヤツはいないんだな。


「そろそろ俺たちも連携が板についてきた。ここいらで近い砦に行って、魔法陣を壊しに行こう」


 聖剣勇者アルコが提案し、魔術師ジャバラ、癒しの聖女ペチュニア、そして俺も 同意した。


 その日の夜。俺たちは豚肉料理が絶品だという食堂で、静かに味わっていたんだ。あらかた食べ終えて、モンレやロストリーベが浮かんだ果実水をちびちび飲んで談笑した。他のお客さんがほとんど居なくなったから、自分たちも宿に戻ろうかというところで、食堂に残っていたひとりの男性に話しかけられた。


「もし、もし。あなた方は、かの有名な“魔王討伐御一行”でしょうか?」

「……驚いた。その呼び方をしてくれる人が居るなんて。あなたは?」


 だいたい、“勇者御一行”とか言われるのに。まぁ、聖剣勇者がいるから、間違ってないよ?

 冬の木の葉を思わせる暗い緑色の長髪で、浅黒い肌色の男。横に伸びて尖った耳で魔族かエルフに類する種族だと判る。着ている群青色のコートには紛れそうな色の糸で、魔法陣みたいな刺繍が施されている。

 糸目で鼻の高い顔には軽薄な笑みを浮かべていて、いかにも胡散臭い風貌の男性。俺に促されて、男性は名乗った。


「私はゾンリー。魔王様を最も近くでお支えする者です」


 一気に警戒態勢に入った俺たちに続けて、魔族の男はこう言い放った。


「でも私、今代の魔王が、大っっっっっ嫌いなんですよー」

「え~~~~~~! 仲間じゃ~~~~~~ん!!」


 握った拳を開いて握手を求めたら、アルコには「すぐになんて許さねぇぞゴラ”ァ”!!」と叫ばれて、後ろから服を引っ掴まれた。首がっ。

 ペチュニアには「魔王を嫌ってる憎んでるってだけで仲間判定ですかそうですか復讐は何も生まないって言いましたよね別に貴方は何も生まなくても構わないんでしょうけど全員が全員憎んでると冷静な判断が出来なくなる時が来るんですから私のことも早く受け入れてくれてもよかったじゃないですか」と一息で言い切られた。怖っ。

 首が締まって苦しんでるのに、ジャバラは食堂の人に「お騒がせしました、すぐに出ますので」とかことわって謝ってた。俺が悪いの分かってるけど、ちょっとたすけて。



 『魔王ってヤバイよねー』って話をする為に、俺たちはゾンリーが泊まってる高級ホテルにやってきた。

 3人には当然反対されたんだけど、酒を好まない俺らが酒場で談笑するのは憚られるし、遅い時間までやってる食堂はこの街には無い。俺らが泊まってる宿は壁が薄いし騒ぐの禁止だし、屋台とか広場とかで盛り上がるには良くない話題。


 となると、ワイワイ出来そうなのがゾンリーが泊まってるホテルだけ。最悪、俺だけで遊びに行こうかと提案したけれど、もっと反対された。「油断しきったお前を一人にさせられるか。ていうかなんで初対面のヤツを信頼してんだよ。いきなり個人の空間に乗り込むバカがあるか」って。敵の敵は味方じゃーん。



 アルコとジャバラが装備を新調したいって言ったから、俺らにしては珍しく都市に来てた。大きい冒険者ギルドがあるところで、そういうところには腕利きの鍛冶職人がいるのが相場ってことでね。狙った通り、二人が満足いく装備が手に入った。明日にでも一つ討伐依頼をこなしてこようって話になってる。


 で、その都市はダクシン王国のシャヒラジダニって名前で、まぁいわゆる城下町だね。ゾンリーはこの国との商取引に来てて、この豪華なホテルに滞在してるんだってさ。お偉いさんなんだなぁ。

 ……果たして、この出会いが偶然かどうか。って、待てよ。富裕層が庶民的な食堂に来る時点で明確に故意だよな。


「……すっげえ。この部屋の家具全部、ドゥールで出来てる。軽いのに頑丈で、加工しやすいのに月日が経つと味が出てくるっつー、最高の木材だ。だから凄い値が付くのに、こんなに贅沢に……ここの格が高い事を知らしめてる」


 ホテルの部屋に入ってすぐ、木製家具に目を奪われたアルコ。てかお前、武器鍛冶職人の子だったと記憶してるけど、家具とかにも精通してるのね。あっそういや、俺がひねり潰しちゃった机とか、修理してたな。


「暖かい灯りに、ふかふかのソファ。空調魔術も惜しみなく使われて、天井も高い広々空間。まさにくつろぐ為の素晴らしいお部屋ですわ。あ、ジャバラ様は伯爵家の御子息でしたわよね? ジャバラ様のご実家でも、アルコ様が夢中な木材を用いていますの?」

「どちらとも。もてなしの空間と居住空間は分けて考えていた。応接間や客室では傾向は違えど、最高品質と言われる木材を使用した家具を。反対に居間や私室、使用人部屋などは領地の職人や林業を育てる意味でも、地元の木材を用いた家具を使用していた。無垢材の色はそれなりだが、香りは自宅にいながら森林浴をしているようだと、好評だったな」

「まぁ素敵。木材の香り、私にとっては新しい視点ですわ」


 こっちはこっちで普通に座って、部屋を眺めながらお喋りしてるし。何が「敵地に行くなら諸共だ」ぁだ。思いっきりリラックスしてるじゃん。


 部屋の中を見て回る不躾なアルコにも、話のネタにしてるジャバラとペチュニアにも。ゾンリーは可笑しそうに微笑むだけで特に気にした様子は無かった。まぁ、自宅じゃないしね。


「すみませんね、やかましくて」

「いえいえ。聖剣勇者や貴族に聖女。皆様のお眼鏡に適うホテルを選べているのは、私の審美眼を評価されているということ。誇らしく思いますよ」

「い、いい部屋ですね!」

「ふふっ、ありがとうございます」


 そんな彼が呼んだルームサービスがお茶とお茶請けを届けてくれたところで、目的を果たすことになった。魔王への悪口大会ね。

 忘れていた自分たちの自己紹介を済ませたら、早速ゾンリーが切り出した。


「まずは重大なことからお伝えしましょう。魔王討伐一行として、これからあなた方は魔族の砦に向かうことでしょう。ですが、結界魔法陣の破壊を目的とするならば、無駄足となるとお伝えします。なぜならば、“魔王城を守護する結界は、既に一つも機能していない”からです」


「は、はぁーーーーーーっ!?」


 陰口言い合うより衝撃的なこと、知っちゃったんだけど!?


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