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我が家の食卓革命~転生三つ子が白いパンを焼くまで~  作者: 石磨 輝
三つ子がいなくなった後
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お前は、同じなんだよ 4


「お前は、その魔王と、同じ事をしてんだよ」


 言いたくない。でも、理由を言えと言われた。刺したくなきゃ選べ、言葉を。刃先は丸けりゃ鈍器だから。


 俺の言葉を受けた聖剣勇者は、ザァ……と顔を青白くさせた。


「魔王と、同じ……?」


 あぁ、やっぱり。そうだよな。俺の復讐相手と同じだなんて言われて、ショックを受けないわけが無いよな。


「そうだよ。ヤツは城で待ってて、お前は追いかけてくる。そこの違いはあるけど、嫌って言ってんのに、力比べを強要してくるとこは、まるっきり一緒だ」


 どうか、これで納得してくれ。十分、酷い言葉だろ。これ以上聞き出しても俺は、酷いことしか言えないよ。


 俺としてはなまくらの言葉の刃。それを受けた聖剣勇者は、ゆるゆると、また俯いてしまった。俺は、安堵、してしまった。


「……そう、かぁ。俺は、お前の家族を殺した奴と、同じかぁ」

「っ、全部じゃ、ないけど。なんならそこだけだけど」

「ふはっ、優しいなぁ、復讐勇者様は」


 聖剣勇者、アルコは四つん這いから体を横に倒し、片膝を立てて座り込んだ。


「落ち着いて考えてみりゃ、お前の親御さんが殺されてないのは、人質の価値があるからか。三つ子ちゃんを殺したのは、復讐心を宿らせるため。目的は、“力比べをするため”。……たった、それだけ」


 そこまで言って、アルコは思い溜め息を吐いた。自らへの失望が溶け出しているような、震えた溜め息だ。


「全部じゃない。そうだな。俺は人質を取ってない。むしろ差し出したようなもんだ。そして、お前はそれが壊れるのを恐れて、対処されるまで俺との力比べを拒否し続けた。あぁ、俺がやってることは、本当に」


 アルコが天を仰ぐ。虹の端と端の色をした目が、曇っていた。


「本当に、人質を取らないだけの魔王だ」


 その評価は、俺が言ってはいけないと自制した、そのものだった。


 ちがうっ、違うんだ。何が? だから俺は言いたくなかったんだ。絶対に傷つくから、苦しめるから。あ、あ、あぁ……。やっぱり、聖剣を壊すのなんて、止めとけば良かった!!


 心臓がバクバクして、血の気が引いた。暗く、狭くなっていく視界の中、アルコは砕けた聖剣を手に取って、割れた面同士を合わせた。すると驚いた事に、聖剣はほのかに虹色に光って、くっついてしまった! 欠片も光になって聖剣に引き寄せられて一緒になっている。……さすが、聖なる剣。不可思議だなぁ。

 初めての光景に現実逃避してたら、アルコが聖剣を見つめて、光が大人しくなった剣身を撫でた。


「なぁ、イリス。俺は、勇者に相応しいか?」


 ──は?


「魔王と同じような事をしてるって、それ、勇者の行いじゃないよなぁ……」


 イリス? 勇者? 相応しい?

 いろんな疑問が湧き出てくるのに、ある可能性が過ぎった俺の頭は、怒りで瞬時に満たされた。気づけば俺は、アルコの胸ぐらを掴んで顔を上げさせていた。


「やめんじゃねぇよ」

「っ、え?」


 やっちまった。やっちまったからには。止められない。


「お前、俺の前に“勇者”と名乗って現れたってことはさ。あの魔王とも一戦交えたことがあるってことだよな?」

「あ、あぁ……。『聖剣に選ばれた者となら、面白くなるだろう』って。いり、聖剣を落して負けちまったけど、『悔しければ我の城まで来るがいい』って、偉そうに言われた……」

「そう。なら、同じだな」

「同じ……? お、俺は、人質を取られたりはしてないぞ……?」


 俺もアルコも、魔王のくだらない力比べの対象にされている。なのにお前だけ、俺に心を折られたからって、逃がさねぇぞ。


 呪ってやる


「知ってるか、アルコ。審判をしてくれたジャバラの兄は、魔王に騎士としては再起不能にさせられた」

「なっ!? ……一線を超えられた被害者がいるとは、噂で聞いていたが、そうか……」

「これからも、俺がモタモタと修行してる間に増えるだろうな。被害者。そしてお前は、そんな俺よりも弱い」

「……何が、言いたい?」


 呪わせろ 呪わせろ 呪わせろ

 その怯えた顔に、頭に刻ませろ


「逃げんじゃねぇよ。犠牲者の無念を晴らせ。お前も犠牲者の──」


 生贄になれ


 その一言を口に出す直前に、背後から破裂音が炸裂した。

 実際にはそれは破裂音ではなく、手を打ち鳴らした大きな音だった。鳴らしたのは勿論、ジャバラ。振り返って表情を伺うけれど、感情が抜け落ちたような真顔で、思わず気圧されて掴んでいたアルコの胸ぐらを離した。ジャバラは目を伏せて、腰に手を当ててから口を開いた。


「たくさん動いて、戦ったからな。腹が減ったんだろう。そろそろ昼食にしようじゃないか」

「……」

「人間、腹が減るとロクな事を考えない。好きなもの食べて、心も体も満たされてから考え事をした方が、幸せになれるぞ」


 そこまで言って山の方へ振り返ったジャバラだったが、「あぁそうだ」と思い出したように言ってこちらを見た。


「ペチュニアに昼食の用意を頼んだから、そろそろ頃合いだと思うぞ」

「……ジャバラ最初、謝ってきたけどさ。アルコのこと止める気無かったんじゃないの」

「いやぁ? そんなことは無いぞ?」

「そういえば、聖女様は呑気に『用意しときますね』って言ってたな」

「ほら、私がお願いしたワケじゃない」


 アルコが証言するなら、嘘じゃないんだろうけど。なんかこう、釈然としない。あとあの人、何勝手に買い出しのジャバラに付いて来て山に入ってきてんだろ。下の村に居たのは知ってる(崖崩れに巻き込まれたり、復旧作業で疲労した人を癒しに来てた)けど、俺は仲間だと未だに認めてないんですけど。

 ……余計な刃を突き立てる事にならなくて、助かった。いくらイラついたからってアレは無い。ありがとう、ジャバラ。俺も気を取り直そう。


 ジャバラに片手剣を渡して、投げ飛ばした四つ折り盾を拾いに行く。戻ってきた頃にはアルコも立ち上がっていた。俺が腹部を凹ませた鎧は外して持っていくらしい。

 あぁ、そうだ。


「アルコ。お前も食べていくよな」

「え?」

「そうだな。そうしていけ。どうせ防具の修復に時間がかかる。肉を食って肉体の修復に励むといい」

「……お前らの食料を無駄に消費させるわけには」

「胸ぐら掴んで詰ったり、聖剣とかコレとかを壊したお詫びだよ」


 そう言って拾ってきた四つ折り盾を見せたら、すっごい嫌な顔された。そりゃそうだ。ジャバラが直してくれるって言ってくれたから安心だけど、遠慮なく壊されたら普通に気分は良くない。だから、食事に誘うんだ。それに。


「ジャバラが言ってたでしょ? 腹一杯になってから考え事はしようって。美味い熊肉をご馳走するよ」

「熊っ!? いいよな、旨いよな! 熊肉!」


 ジャバラの言ったとおりなら、この川原の上の方で、聖女様が火を焚いて待ってくれてるはず。スープ用に水も鍋で沸かしてくれてたら助かるけどな。

 熊肉は鉄板でしっかり焼いて食べよう。肉は俺が狩って捌いた熊で、昨日からハーブとか香辛料で風味付けした植物油に漬けてあるから、脂身無い部位だけど、きっと美味しいさ。


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