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我が家の食卓革命~転生三つ子が白いパンを焼くまで~  作者: 石磨 輝
三つ子がいなくなった後
50/70

お前は、同じなんだよ 1

今回の聖剣勇者編はちょっと長くなります。

 3つ目の道場での修行を終えた俺は、霧深い山奥で自己流の鍛錬に精を出していた。


 自分の体重の5倍はありそうな縦長な巨石。それを両手に1つずつ持って、持ち上げては下げてを繰り返す。ゆっくり、勢いを付けないように。あぁそろそろ腕がぷるぷるしてきた。だからあと、20回だ。自分を追いこめ。

 この間、大雨からの崖崩れで塞がれてた山道から、人助けついでに持ってきた巨石。これがいい負荷になって大助かりだ。重さ目当てに埋まってる巨石を掘り起こしたら、それこそ俺が崖崩れを引き起こしかねなかったからね。災害には違いないけど、人に被害が無かったから不謹慎でもない、よね?

 そんな雑念を抱いていたからダメだったのか。上げ下げのこり3回になったところで、足音が聞こえてきた。


 こちらに向かって走り抜けてくる、2つの足音。一つは明確に目的地が分かっている自信に満ちたもの。もう一つはそれを追いかける慌ただしいもの。──あーあ。ここ最近は平和だったのに。

 決めた分だけ上げ下げした巨石を慎重に下ろして、緩く両肩を回す。そうしてる間にも足音は迫ってきて、すぐそこまで来た。歓迎してない人が来た。

 岩やらぬかるみやらで走りにくい山道を走り抜け、茂みから顔を出したのは、短い白髪の青年。赤と紫で色が異なる両目は、同じ怒りの熱を帯びていた。


「よぉ……。三度、会いに来たぜェ? 復讐勇者、クガニさんよぉ……!」


 上がった息は走ったからじゃなく、興奮から来てるんだろう。茂みから現れた彼は厳つい顔面によく似合う、凶悪な笑みを浮かべている。


「テメェの修行先にわざわざ、会いに行ったのに。神がかった方法で橋を掛けたと聞いたから、急いで向かったのに。なぁんで熱烈なファンから逃げるかなぁア??」


 俺が彼から逃げ回ってるせいで、すっかり態度がゴロツキだ。最初は明るくて態度も良かったから、その辺りだけは申し訳ない。……けど、しょうがないじゃん。俺が嫌がってるのに、全然引いてくれないんだから。


「お前の力比べに付き合う気は無いって言ってるだろ。聖剣勇者、アルコ」


 肩書きと一緒に名前を呼ぶと、俺よりも筋骨隆々な彼はもっと凶悪に笑った。そして背中に担いだ剣を鞘ごと持って、俺に見せつけるように翳した。腰から下げた聖剣と同じくらいのサイズの、長身な片手剣だ。


「一回だけって、言ってんじゃァん。丸腰相手じゃコッチもやる気が起こんねぇから、剣を貸してやるって言ってるしさぁ! なぁ、一回だけ! ホントのホントに一回だけ! 俺と力比べしてくれよぉ!」

「あのさぁ……。その貸そうとしてる剣が軽いから、使いにくいって言ってるんだよ。それを持つくらいなら素手で相手するって言ってるのに、話を聞かないのは、わがままなのはどっちだよ」

「うっせぇ! 剣士が丸腰相手に戦えるか!! この剣だってなぁ、聖剣と勝るとも劣らない名剣なんだぞ!! 切れ味抜群だし、何より片手剣では最重量級だ! 俺の愛剣舐めんな!!」

「別に剣をバカにしてるわけじゃないって」


 鞘から抜かれ、わずかな太陽の光を受けて鈍くも煌く剣身からは、確かに力を感じる。手入れが行き届いた剣は使用者の実力を存分に引き出してくれるだろう。彼の言うとおり、良い剣には違いない。ただ、俺には合わない武器ってだけ。

 「剣を取れ!」「取らない」って不毛なやりとりをしてたら、もう一つの足音がやっと来た。薮から顔を出したのは、魔術師・ジャバラ。肩で息をしている彼は申し訳なさそうに目を伏せた。


「すまん、クガニ。止められなかった」

「いいよ、別に。相手にしなきゃいいだけだから」

「んだとぉ……? 一回だけって言ってんのにかァ?!」

「そういう人って、結局何度も要求してくるんでしょ」


 手合わせして、勝っても負けても「もう一度!」って。なんてことないかの様に強請るんだ。だから、一度だって許さない。絶対に嫌だ。

 拒絶を示す為にプイッと顔を背けたら、勇者は愛剣を鞘に収めて、それごとグイッと押し付けてきた。痛ったい! 顔にグリップ当たってる!


「調べはついてんだよ、クガニぃ……。テメェ、そこの魔術師様とは力比べしてるらしいじゃねぇか! 魔法と戦うのは良くて、剣はダメだって、どんな了見だァ!?」

「魔法対策の修行の時は、自分の拳でやってるし」

「話の腰を折って悪いが、魔法相手に素手はとんでもないからな?」

「今の魔王は魔法より腕っ節じゃねぇか! 俺との方がいい修行になるだろ!!」

「ほらその発言。一回で終わらせる気、無いよな」

「一回くらい試せよ!! なぁ!! やらず嫌いすんな!!」


 ……。得物を持たせようとしないなら、今ので譲歩しても、良かったけどなぁ。

 勇者がまた剣を鞘ごと押し付けてくるのを、握らされないようにと手の甲で押しのける。それを数回やってたら、ジャバラが重い溜め息を吐いた。


「クガニ。聖剣勇者が言っていることも一理ある。いくら拒絶したくとも、一度も譲歩しないのは誠実じゃないぞ」

「な……! 待ってジャバラ。俺だって譲歩の条件は出してる!」

「押し切られるのが嫌なのは、よく分かる。よーく分かるとも」


 腕を組んで深く何度も頷くジャバラ。かつて研究成果を横取られ、泣き寝入りさせられかけたジャバラが言ってるから説得力がある。けど、だからって……。

 ジャバラは腕を解くと両手を腰に当てて、また 溜め息をつく。


「しかし、こうして押し問答を繰り広げ続けるのも考えものだ。これ以上、君の修行が阻害されることが無いようにも、君自身が動くべきだ」


 ……厄介は、向こうからやってくるのに。あぁでも、振り払うのも大事か。でもやっぱり、嫌だなぁ……。


「幸い、私は《修復》の魔術が扱える。協力しよう。一度だけという約束も守らせよう。怪我をしても近くに癒しの力を持つ聖女様もいる。だから、クガニ」

「おぉ! 協力に感謝するよ、魔術師様!」

「……なんで」


 信頼してるジャバラに裏切られた心境でいるけれど、ジャバラは大丈夫だって安心させるように力強く微笑む。


「自分の意見が取り入れられないのは勿論だが。君が嫌なのは、聖剣勇者の大事な剣を壊してしまう心配だろう? ならばその心配と不安。私が剣に最上級防護魔術を付与することで払拭しようではないか! それなら、壊す心配をしなくてもいいだろう?」

「……わかったよ」

「えぇ!?」


 そこまでしてくれるなら、もう、しょうがない。俺が折れて相手するしか無いじゃん。それに、ジャバラの防護魔術はまだ突破出来てない。俺のパワーで勝てないもので覆ってくれるなら、壊す心配が無いなら一度くらい、いっか。


「クガニ、お前……! そうならそうだって言えよ~! 知ってたら俺だって、壊れても胸が傷まない剣を持ってきたのに~!」

「片手剣が軽くて嫌なのも、てかそっちが重要な理由だよっ!」


 うわっ、うっざい。いい笑顔で言いやがって。親しげに肩叩いてくんな。バシンバシンって派手な音の割には痛くないけど。……ていうか、さ。


「お前、壊れても胸が傷まない剣とか、あんの?」

「……無いけど、さぁ」


 さっきまでデカかった声を弱々しくして、「そこはね、ほら、武器って消耗品だし」と目を伏せて言う聖剣勇者は、親が武器鍛冶職人らしい。自分の命を守る道具に、親も誇りを持って作ってる武器に、壊れて気分が良い物なんて無いよな。


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