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我が家の食卓革命~転生三つ子が白いパンを焼くまで~  作者: 石磨 輝
三つ子がいなくなった後
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目標を同じくする人 3

 今いる領地を治める貴族様の、御子息なジャバラ。帝国で冷やし方についての研究をしてたら、留学先の皇子に研究結果を横取りされそうになった。奇抜な方法で抵抗したら不敬罪に問われて、国に帰ったら家を勘当された。まとめるとこんな感じか。

 ……主張の仕方が本当に奇抜だな。研究成果を盗んだのを皇子の素質じゃなくて、悪霊のせいにしたのが、不敬罪でもすぐに開放された要因かもだけど。


「家が私を追い出したというよりは、私が彼らの負担になりたくなくて飛び出した、というのが正直なところだがな」

「……せっかく金かけて留学させたのに、それだけでいいんですかね、処罰」

「謹慎中のところを今朝、無理やり出てきたからな! 今見つかれば、ほぼ奴隷な契約を結ばされて、強制従軍だろうな! 君の仲間にならなければ!」

「えぇ……」


 なんで俺の仲間になったら、ほぼ無罪放免なんだよ。そんな疑問が顔に出ていたんだろう。ジャバラが口をまた開く。


「実はな。あの迷惑魔王に困らされているのは、武力が自慢な我が国も同じなのだ。もう、八人か。私の兄の一人も、あいつに再起不能にされている」

「!!」

「存在して困る存在を討伐しに死地へ向かうのなら、国と契約を結ばなくても許されると考えついたのだよ」


 「そうすることで、家族に私の進む道を認めてもらおうとしたのさ」と締めたジャバラ。喋り過ぎで喉が乾いたか、つばを飲んで誤魔化そうとした音が聞こえた。

 家族に認めてもらおうって話は、結局よく分からなかった。だって特に見下されてたわけじゃなさそうだし。どちらかといえば、偶然俺が近くにいるって話を耳にしたから、兄の仇を取ろうと飛び出してきた。そんな話に聞こえた。


 一息ついたところで、ジャバラがベンチから立ち上がって、伸びをした。


「ふむ! 喋り疲れた! というわけで、近くで飲み物を買ってくるから待っていてくれ!」

「俺も欲しいので、一緒に行きます」

「おや」


 買い食いに付き合おうと立ち上がったら、ジャバラに目を丸くされた。なんだよ、俺だって喉くらい乾くわ。とか思ってたら、クスッと笑われた。


「君ならてっきり、『ここで解散じゃないのか』なんて言うのかと思ったのだか」

「……そうした方が良かったです?」

「まさか! 付け入る隙は大歓迎さ」

「馬鹿じゃねーの」


 あ、うっかり口悪くなっちゃった。でもジャバラはご機嫌に腹から声出して笑って、市場の方へ歩き出した。俺もそれについて行く。


「年齢も、まぁ私の方が上だろうが、近いのだから気にせず砕けた口調で話したまえよ。そもそも私は既に、君と同じ平民だ」

「あぁ、そっか。じゃあそうする」

「ふ、ふふふふ」

「何、急に笑って」


 親しくなろうって話に乗ってあげたのに、ジャバラはまた可笑しそうに笑う。はぁ、ハッキリ言わなきゃ、ちょろいってずっと思われそうだ。いや俺ちょろい方だけど。


「知っているぞ。聖女も聖剣勇者も、君は仲間にすることを断ったんだろう? にしては、私には随分親しくしてくれる」

「そりゃあ、貴方……ジャバラのことは別に、遠ざける程じゃないから」


 ほんと最初以外、ジャバラに対しては不快感が無かった。俺が何を気に入ってるか、指折り数えて指摘していこうか?


「話を聞いてて、いいなって思う要素がいっぱいだったんだよ。研究熱心なところとか、目的のために変なことも躊躇いなくやっちゃうところとか、それが空回りしちゃったりとか。そして、家族思いなところとか」

「……他者から指摘されると、恥ずかしいものだな」

「ははっ、感情を隠そうともしないところとかも。あの子達に、そっくりだよ」

「ご、5歳児と同列に見られているのか? 19歳の私が、もしかして?」


 元貴族相手に、流石にちょっと失礼だったか。じゃあ、一番の理由を言おうか。


「俺がジャバラを受け入れた最大の理由は、“見据える先が一緒だから”、だな」

「見据える先……魔王討伐か。聖剣勇者は、違ったのか?」

「うん。あいつの目的は俺と剣を交えること。俺は刃物じゃなくて、拳とか打撃、投擲武器がいいのに、まったく聞き入れない。そんなところが無理だった」

「聖女は?」

「嫌いじゃないけど、最初は『復讐は無意味、下の子達は望んでないはず』とか知ったかぶりしてきたから、好きでも無い、かな」

「そうか、そうか」


 店まで歩き続けるジャバラは、にやけた顔で腕組みをする。満足そうでなにより。


「つまり君が望むは、“志を同じくする仲間”。なんて普遍的なのだろうか」

「普遍的なやつって、実は手に入れにくいものだよなぁ」


 まぁ、復讐の旅に仲間なんて集めてなかったけど。まぁ、だから、目的が一緒なら、吝かでもないよね。


 ジャバラが足を止めた。お目当ての店は露天のフルーツバー。カットした新鮮な果物の串や盛り合わせを中心に売ってて、その場で絞った果汁を氷と合わせたジュースも提供しているらしい。俺はレオジンを、ジャバラはプルアのジュースを買って、すぐそばのベンチに腰掛けさせてもらった。あー、柑橘系の爽やかさと甘酸っぱさがとっても美味しい!

 ジャバラもプルアのジュースをがぶ飲みして、プハーッ! って満足そう。氷をボリボリ食ったり、樽型ジョッキを額に当てて涼しんだり、これで元貴族ってホントかよ。あと、それ涼しいか?


「贅沢だと思わんか?」

「うん、そうだな。俺の村では氷なんて、まぁ温暖な地域ってのもあるけど滅多に見なかった」

「この氷を維持するのに使われる従来の保冷庫には、魔王大陸から輸入する純度の高い魔石が使われている」

「!」


 あっ、だから帝国での研究内容、新しい保冷庫の開発だったんだ。自分の家族を痛めつけた魔王から魔石を買うのが、嫌だったから。……泣かせるなぁ。

 口の中の氷が無くなって、額からジョッキを離したジャバラは自嘲するように鼻で笑った。


「愚かだと笑うがいい。憎んでおいて、利を得て贅沢に耽る私を」

「え? だから頼らないように別の方法を探ったわけでしょ……。俺だって、一度覚えた贅沢を辞めるのは苦痛だったよ。知らないだけで魔王大陸産の魔石に、俺だってすごくお世話になってるかもしれないし」

「ふ、ふふ……。神に寵愛されるだけある、寛容さだな」

「本心から言ってるだけだって。あの子達が作ってくれた白いパンとか、脂焼きガジャ芋とか、ずっと忘れられない」

「ははっ、そういうことか」


 理解したようで、してないなこれ。『気を使わないように親しみが持てる事を言ってる』とか勘違いしてる。俺は本気なのに。まぁ、しょうがないか。

 ジョッキをベンチに置いたジャバラが、深呼吸してから腕を組んで、ふんぞり返った。


「さて、私には然程時間が無い。答えてもらおうか」

「あぁ、いいよ。一緒に行こ」

「君は私を連れて行k……え?」

「俺が今借りてる宿屋、2人用だから間に合うけど、どうする? 今から一緒に行動する? それとも、家族に挨拶してくる? 俺としては挨拶してきた方が良いと思うけど」


 意識的に話を性急に勧めたら、こっちを向いたジャバラが口をあんぐり開けて固まった。ははっ、してやったり。


「い、いいんだな? 言葉は確かに受け取った、今更仲間にしないなど言わせないぞ!」

「言わないってそんなこと。俺にだって得はあるし」


 これまでは修行が中心だったから良かったけど、3つ目の修行先での鍛錬が終わったら、金策も兼ねて冒険者ギルドで依頼を多くこなすつもりだ。その時、魔術師のジャバラがいてくれたら、助かる場面は多いはずだ。それに。


「魔法を相手に戦う修行がしたいから、その相手になってくれたら助かるよ」

「……ふ、ふふふ! 君はやっぱりハチャメチャだ! 火を、水を、風を相手に、どう拳で戦うというのか! あぁ面白い。木を引き抜いて真二つに裂き、簡易の橋にしたという話は本当のようだ!」

「あぁ、この領地に入る直前のやつね。濁流で流されて簡易で橋を架けたいって言ってたから、人助けしたわ」


 だから伯爵家の御子息が、俺がここに来たってことを知ってたわけか。目立つことしてたから。


「ふはははっ! 何でもない顔をして、とんでもない事を成す! 君と居れば退屈しなさそうだ! 決めた! 私は君の仲間になろう! 我が兄の仇である魔王を滅するまで、共にあろう!」

「あぁ。よろしく」


 横並びで座った俺等は向かい合って、硬く握手を交わした。魔術師といっても騎士の家系だからか、ジャバラの手のひらは硬かった。

 出会って30分で意気投合して、握手を交わして仲間になって。やっぱり俺はちょろいのか、判断が早いのか。

 なんて感慨に耽ってたら、ジャバラはすぐ横のフルーツバーに顔を向けて、「というわけです!」と元気よく言った。えっ敬語?


「私は彼と、クガニと共に魔王討伐の旅に出ます! 母上!」

「えっ、はは?」

「聞きました。国もその理由なら貴方を引き止めることはしないでしょう。今日のうちで皆に報告するように」

「はい、母上!」

「えーーっ!?」


 フルーツバーの店主が、領主の奥様!? なんで市場で露天やってんの!? あっだから保冷庫なんて高級品使えてんのね!? てっきり金持ち領地で普及してるんだと思っちゃったわ!

 あー、一つ目の修行先で冷静になる特訓してて良かった。じゃなかったら今、うっかりジャバラの手を握りつぶすところだった!


一つ目の修行先で精神統一を、二つ目で武術を。これからの修行先で純粋に腕力を鍛えます。

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