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我が家の食卓革命~転生三つ子が白いパンを焼くまで~  作者: 石磨 輝
三つ子がいなくなった後
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目標を同じくする人 1

サブタイトルは変更するかもです。

 露天の乾物屋で状態のいい品物を見繕っていると、熱い視線を感じた。興奮気味の足音が聞こえる方に目をやると、黒っぽいコートに身を包んだ男が、しゃがんでいる俺を見下ろして腰に手を当てた。


「やあやあ我こそは! あらゆる魔術を操る最強の魔術師! ジャバラなり!」

「お話はそこの広場で聞きますから、市場の往来で大声で名乗らないでくださいっ」


 あぁもうビックリした! 迷惑になるから早くお店からこの人連れて離れないと!

 てか、なんでこんなっ、クセが強い人ばっかり! 俺に話しかけてくんだよっ! すみません乾物屋さん! 明日また改めて来ます!!



 2つ目の修行先から紹介された山奥の道場へ向かう途中。食料調達の為に市場に来ていた俺は、いきなり大声で自己紹介を始めた変な野郎に絡まれた。魔術師なのに、名乗りはなんだか誇り高い剣士みたいだったな。剣士の名乗りなんて聞いたことないけど。


 市場を抜けた先にある広場で、空いているベンチに隣り合って腰掛ける。と、同時に深い溜め息を吐いてしまった。

 はぁ、どうして行く先々でこうも、変な人に絡まれちゃうんだろう。1つ目の修行先で聖女様でしょ。2つ目ので聖剣に選ばれたっていう剣士・自称勇者でしょ。そして、3つ目に至っては辿り着く前にこの魔術師。なんだ、この流れは。こないだやっと『戦え! 剣を持て!』ってしつこかった自称勇者から逃げてきたばっかりなのに。

 ……魔術師、ちょっとキラキラした目で俺のこと見てきてる。はぁ、約束したからには、話を聞かなきゃか……。


「それで、ジャバラさん、でしたっけ。俺になんのご用です?」

「あぁ。君はかの有名な“復讐の勇者・クガニ”だろう? その道に私も加えてもらいたく、申し出た」

「えっあっ、まともっ」


 常識的な声量と硬い物言いに驚いて、情けなく狼狽えてしまった。だって、さっきは変な人だったじゃん! 目を見開いて何も言えずにいたら、魔術師ジャバラはニヤリと笑った。してやったりって感じだ。……なんか、くやしい。


「君は目立つことが苦手だと聞いていたからな。大声かつ友好的な態度で近づけば、君は私を『大人しくさせるべき厄介者』と判断して、話を聞くことになるだろうと分析したのさ」

「悪目立ちは誰だって嫌でしょ……最初から普通にしてれば、俺だって普通に話を聞きましたよ」

「はっはっは! 猫をかぶるのは苦手でな!」


 「最初から本性を出した方が気が楽だ」と言って笑う魔術師の顔に、嘘は見えない。……まともな時もある変人、ってことか。というか、態度の変化で驚いて流しちゃったけど、気になることしか言ってなかったな、今。


「あの、名乗った覚えが無いんですけど、“復讐の勇者”って。有名、なんですか?」

「ん? あぁ、聖剣に認められたかの勇者と分別する為に、君の方はそう呼ばれているぞ。まぁ、“新武神の加護を受けし勇者”の方が有名さ。安心するといい」

「なら良かっ……いや、だから俺は勇者じゃないって」


 認めてないことを認められない事態に、頭を抱えてしまう。ただ魔王に復讐を決意した男だってのに。あぁもういいや、言いたい奴にはそう言わせとけばいいや。だから次に行こう。

 勇者呼びに大きく反応した俺を、可笑しそうにまた笑っている魔術師。声は控えめながらも堂々と胸を張って笑う彼に目を向けて、口を開いた。


「次の質問ですが」

「なんだ?」

「そんな、“復讐の勇者”について行きたいと、名乗り出る理由は、なんですか」


 覚悟を、聞き出す為に。


 質問を受けた魔術師ジャバラは、一度目を伏せて苦笑した後、ベンチの背凭れに上体を預けた。


「……端的に言えば、1つ、家族に認めてもらう為。1つ、己の力がどこまで通用するか、力試しをしたいが為。だな」

「随分、自分本位な理由ですね」

「嫌いか?」

「いや、好ましいですね」


 俺だって正義感でやってない。善意を押し付けてくる聖女や、俺と力比べをしようとする聖剣勇者と比べたら、よっぽど気楽だ。だからって、歓迎するワケじゃないけれど。


「しかしそんな理由では、魔王とはいえ殺しの旅に出ている俺についてこようとするには、いささか覚悟が足りていないと判断するしかないですね。……端的に言わなければ、どんな理由なんです?」

「詳しく語るなら、私がどこの誰なのかから語ろう。私は元・ハイツパステル伯爵子息。騎士家系に生を受けたにも関わらず、剣よりも魔術の才に満ち溢れている現・平民さ」

「フリでも遠慮一回くらいしたら……?」


 いや、話を振った時点で、興味を持っちゃった俺の負けなんだけどさ。俺から許可を得ると、ジャバラは自らの身の上を語りだした。


「ハイツパステル伯爵家はこの国、ズースカイティン王国に剣を捧げる一族。兄弟姉妹、剣の才がある者は皆従軍している。その中で私は異端にも、剣よりも魔術の才が飛び抜けて高かった。──あぁ、誤解の無いよう言っておこう。彼らは善人であり、私が魔術の道へ進むことに反対しなかったし、むしろ国の益となれと勧めてくれたぞ」

「そうなんですか。“家族に認めてもらう為”、とか言ってたので、てっきり」

「それはまた、別の件でだ」


 別の件、とか言うジャバラは迷うように目を泳がせていた。家族に認めてもらう、っていうのは、そもそも建前なのかもしれない。説明が長くなるからそう纏めただけで、って感じ?


「家族の後押しのおかげで、私は順調に魔術の腕を磨き、あらゆる属性の! あらゆる魔術を! 習得した!」

「あらゆる、属性!?」

「私は天才なのでな! まぁ、全てとは口が裂けても言えないが」


 俺は武神の加護を受けてる影響で、適性属性が一つも無いのに! 踏ん反り返りながら謙遜までするジャバラが、ちょっとだけ、妬ましい。俺だって、魔法でちょちょいと魔物を罠にかけて討伐してみたかった……。魔力さえあれば、扱いにくくとも一応適性以外の魔法・魔術は使えるらしいけど。草結びすら出来なかったな。


「とはいえ、出来ない魔術もそれなりにあった。適性が火・水・土・風の4種類ある、この私でさえ、な。それで私は国の支援を得ながら、留学をしたのだ。この国よりも魔術への研究が進んだ、アセイテゴルド帝国へ」


 アセイテゴルド帝国。まだ行ったことは無いけど、歴史が長くて火力の高い料理が名物な巨大な国、だったはず。知識を引っ張り出してたら、ジャバラは朗々と語りだした。


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