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思い出した

最終話です。

 思い出した。


 俺の前世が、何者だったのか。


 俺が、前世で、どうやって死んだのか。


 なんで、俺が、ターチとミーチと一緒に、三つ子として生まれたのかも。


 思い出した。



 俺は、日本人だった。16歳の、高校生で、ひとりの時間が好きな男だった。

 キャンプが好きで、自転車で一人でキャンプ場に行っては色んな方法で火起こししたり、簡単な物を作って、自然の中でのんびりするのを楽しみだった。たまに、家でやるには匂いが気になるものとか作ってたな。ニンニクたっぷり料理とか、ラードとか。

 そうだ。たまに家族も一緒にキャンプに行って、俺が主導したりしてた。だから、火打ち石での火起こしも普通に出来てたんだ。


 のんびりキャンプが好きだった俺も、平日は真面目な高校生だった。パートに行く母さんにママチャリを取られた日はバス通学してて、あの日もそうだった。


 信号が青になって、走り出した乗合バス。スピードが乗り出したところで、急ブレーキが踏まれた。右から、信号無視のトラックが来たから。

 止まりきれなかったバスの横っ腹にトラックが追突して、バスは横倒しになった。俺ら乗客も中で折り重なった。その時俺の上に居たのが、同じ高校の1年男子と、頭いいで評判の女子高の生徒。

 頭打って、押し潰されて動けないでいる俺らの上から、バスが薙ぎ倒したでっかい街路樹が、倒れてきた。そして、俺らは一緒に、ぐちゃぐちゃに潰れたんだ。



 今みたいに。



『なぜ……! なぜ、俺の家族を巻き込んだァー!!』


 なんの脈略もなく瓦礫になった家の中で、兄ちゃんの怒号を聞いた。それから、知らない男の声で、嘲笑と、なんか言ってるのが耳に入った。兄ちゃんよりも、俺らに近い場所にいるらしい。あっち行って。


 俺の上で横たわるターチとミーチは、俺と一緒に、屋根の梁で串刺しにされてる。もう、二人は先に事切れてるみたい。おれも、そろそろ死んじゃうんだろうな。絶対痛いのに、いたくないもん。神経がブチ切れてる。


『許さない……! 殺すッ! 殺してやるッ!!』


 知らない声が『そうだ! その怒りを、我輩にぶつけろ!』って叫んだ途端、トラックがぶつかってきた位の衝撃で風が吹いて、俺らの上に乗っかってた屋根が吹っ飛んだ。おかげで外が見えて、変な空だって気がついた。

 真っ黒な雲が低い位置で空を覆って、何かを先頭に雲が裂かれて、パックリ空いた間から青空が見えた。夜みたいに暗かった地上に太陽の光が差して、不安になっていいのか、安堵していいのか。

 ただ一つ、分かるのは、兄ちゃんが戦ってるってことだった。


 山のどこかが爆発したような音がして、何かが空に飛び出した。反対の方から人影が現れて、腹から太い枝を引き抜きながら飛んで、飛び出してきた何か、人型だアレも、とぶつかりあった。

 空中での鍔迫り合いは一瞬で、山から飛び出してきた方が押し負けて、吹っ飛んだ。勝った方は、そのまま空中に立っていた。──人じゃ、ない。なんだ、あの、禍々しいのは。


『精進せよ、新たな武神に寵愛されし若人よ。そして魔王である我輩と、見事な死闘を繰り広げよ!』


 頭に鬼の角を生やした禍々しい人型は、恍惚とした声でそう煽った。魔王と言ったか。元は武神で、無益な戦いをしすぎて、堕天させられたっていう。魔王になってからも、戦闘ジャンキーは治らなくて、迷惑をかけてたって噂。

 ほんとう、だったんだ。迷惑どころか、人命に、被害が、が、が


『そんな……ッ! そんなくだらない事の為に!! 俺の家族を殺したのか!!!』


 吹っ飛ばされて小麦畑に落ちた人が、兄ちゃんが、怒りと悲痛の入り混じった声で叫ぶ。もしかして、父ちゃんも、母ちゃんも、死んじゃったの? おれも、もうすぐ、死んじゃうよ? 兄ちゃんが、ひとりぼっちに、なっちゃうの?


『くだらない? 貴殿は武神より与えられし力を、無意味に腐らせようとしている。なんと惜しいことか! 貴殿が才を磨くことを拒絶するというならば、我輩はこう表そう。──親しき命を奪った、憎き仇の、首を獲りに来い』

『ふ……ふざけるなぁああアアッ!!!』


 空中に浮いている魔王が、真っ黒な雲の中に逃げていく。それを追って兄ちゃんが畑を荒らして飛びかかるが、空には届かず、失速する。


『あの、クソゴミ野郎……! 殺してやる! 絶対に! 殺してやる!!』


 怨嗟を吐きながら、兄ちゃんが落ちてくる。俺たち、三つ子の前に。

 俺らを見つけた兄ちゃんの顔が、憎悪から絶望に塗り替えられた。屋根で潰されて、腹に梁が刺さってる俺らに、気づいたから。


「ティーチ! ターチ! ミーチ! あぁ……、あぁっ!!」


 魔王に「なぜ殺した」って言ってたけど、本当に死んでるとは、思いたくなかったよな。見たく、なかったよな。ごめんな、兄ちゃん。自分で、自分の身を、守れなくて。


「にい、ちゃ……」

「!!! ティーチ!! ごめんねっ、俺のせいで、俺のせいで! 今すぐ助けるからね、だから、頑張って! 生きて! ティーチ!!」


 謝りたい。お礼を言いたい。でも、俺ももう、保たない、みたい。だから、これだけ、言わせて。


「おれたちのこと、わすれないで、ね」

「あっ……! あぁ、あぁ、当たり前だ、ティーチ! 兄ちゃんは、ティーチ、ターチ、ミーチのことを、絶対に、ぜーったいに! 忘れないからね!」


 瓦礫を退かす手を止めて、兄ちゃんは俺のそばに来てくれて、ボロボロ泣きながら力強く宣言してくれた。

 ありがとう、兄ちゃん。忘れないでくれたら、それだけで、俺らは、生きた意味がある。


「だい、す、き……」


 最後の最後に伝えたかったことを言ったら、もう、体に力が入らなくなった。目も見えない。息も、出来ない。最期まで生きてた耳で、兄ちゃんの慟哭を、受け止めていた。





「「ティーチ、起きて」」


 ターチとミーチの声が聞こえて、意識が戻った。戻ったのか? あれは夢だったのか? そうだよな。だって突然過ぎたもん。俺の悪夢だったんだ。


「残念だけど、ティーチ。僕らは死んだんだ」

「前世の時と同じで、でっかいものに押しつぶされて。私たちも折り重なって、ね」

「……そっかぁ」


 二人の言ってることをすんなり受け入れられたのは、俺らが立ってる場所が、真っ白い空間だったから。こんな場所、見たことない。だから、死んだんだって信じられた。

 てか、気になること言ってんな、ミーチ。


「やっぱ、あの時俺の上に乗ってきたの、お前らだったのか」

「ごめんね、ティーチ。いや、先輩? 話したことないけど」

「私は高校すら違うしね」


 あー、確信。あの時見たバスの中の映像は、本当に俺の前世の、死ぬ間際の記憶だったんだな。


「他人同士の私たちが一緒にこの世界に飛ばされたのは、くっついて死んじゃったからなのかしらね」

「ねー。日本で死んじゃったのは残念だったけど、おかげでこっちでの人生は寂しくなかったよ」

「まぁ、恵まれてた方かもな」


 前も16歳で、今世は5歳で死んじゃってるから、あんまり良いとは言えないけど。あー、そういえば。


「流行ってたよな、異世界転生物。俺ら、アレしてたんだな」

「だね。日本での記憶をほっとんど無くしてたから、知識とか魔法のチートなんて出来なかったけど」

「ドアマット物とか、悪役物じゃないから、別にいいじゃない。楽しかったわよ、白いパンを作るまでの道のり」

「俺も」

「僕も!」


 俺はあんまり読んできてなかったから、この世界にも原作があったかどうかは知らねぇけど。まぁ、あったとして、俺らはモブ、NPCでしかなかったろうな。この世界に、大して影響与えてなかったんだからよ。

 なんて思ってたら、何か考え込んだ表情のミーチが、口を開いた。


「ねぇ、ティーチ、ターチ。この世界の原作に、心当たりは無い? 私、あるような気がするの」

「原作ぅ? んな都合よく、お話のある世界に転生したのか、俺たち」

「うーん、実は僕、あるような気がしてて……」

「マジかよ」


 こめかみに人差し指を当てたターチが、「思い出せるかな~」って言って悩みだした。悩むってことは、ホントに心当たりあんじゃん。うそじゃーん。


「……私ね。私たちの人生は、何かの物語の前振りでしか、なかったのかもって、思ってるの」

「は?」

「……兄ちゃんの旅立ちの、動機付け、ってこと?」

「そう」


 え、ちょ、なんでターチついて行けてんの? そんなに簡単に、自分の人生を俯瞰できんの? ……これが、死ぬまでの数分の差か?


「ひっどい物語よね。あんなに優しいお兄ちゃんを、復讐の鬼にするんだから」

「兄ちゃん愛が深いから、魔族だっけ、皆殺しにしちゃうよ。少なくとも、魔王は確実に討伐しにいくね」

「なんなら、こんな状況にした新しい武神様のことも、殺しにいくぞ」


 俺の発言に、ターチとミーチはきょとんと目を丸くした。ビックリした? でも、魔王は武神に寵愛されているから兄ちゃんに興味を持って、俺らと父ちゃん母ちゃんを殺して動機付けした。だから、俺の考えにも一度は到達すると思うんだよな。

 ちょっとして、ターチとミーチが吹き出した。釣られて俺も吹いた。


「有り得るなー。神様が堕ちて魔王になる世界だから、こっちから神様の次元に行ける方法もあるかもね」

「自爆覚悟で神殺しをしそう。お兄ちゃんなら不可能を可能にしちゃいそうだし。でもやっぱり、お兄ちゃんって不憫ね」

「それな。やっぱ、神様に愛されるなんて、ロクな事になんねーな」


 神様云々について、二人に「えー?」って否定されたけど、そうか。お前らは聞いてなかったか?


()なる理の世の知識、か。智の神も愚かで酷な事をする。その為に魂を輪廻から誘拐してくるとは。……戻るが良い。元の輪廻に』


 兄ちゃんが「なぜ俺の家族を巻き込んだ」って叫ぶ前。魔王はそう言っていた。その言葉を信じるなら、どうやら俺らも智の神様ってやつに愛されてたらしい。誘拐してくるくらいには。だから、魔王は日本に返してくれるってさ。元の輪廻に、ってことだから、日本人として戻れるかどうかは、分からないけど。


 武神様に愛された兄ちゃんは、魔王に目をつけられた。智の神様に愛されたらしい俺らは、憐れまれて5歳で殺された。

 マジで、神様に愛されたところで、ロクな事にならねぇな。


 でも、このまま地球に帰るつもりは、ない!


「なぁ! 俺、幽霊になって、兄ちゃんにとり憑こうと思ってんだけど、お前らどう!?」

「唐突だねぇ!? いや、ま、確かに兄ちゃんのことは心配だし、それもアリだけど」

「じゃあ決まりね! お兄ちゃんが闇落ちしそうになったら、枕元に立って叱ってやるの!」


 もう闇落ちしてそう。とは流石に言わなかったけど。せっかく二人もノリ気になってくれたんだ。さっそく、兄ちゃんのとこに行くぞー! 兄ちゃんの気配を探せー!


お読みいただき、ありがとうございました。


物語を続かせるなら、誘拐エンドもアリでした。ただ、今回は最初から虐殺エンドを想定して伏線を張っていたので、回収させていただきました。


当作品をおきにいり登録、ご評価いただけた皆様、そしてここまでお読み頂けた全ての皆様。本当にありがとうございました!

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