次は何から、作ろっかー!
美味しいステーキとスープ、傑作の白いパンをゆっくり味わいながら昼食を食べ進めた。テーブルに着くみんなの表情は笑顔でいっぱいで、『幸福とは、このことか』なーんて、らしくないことを考えちった。
フォークを置いて、丸いパンをちぎって食べた母ちゃんが、モグモグしながら確かめるように頷いた。
「やっぱり、親の贔屓目無しでも、スッゴく美味しいわ」
「「「でしょー!」」」
「……そうだね。子供の頃、親戚に分けてもらった白いパンよりも、美味しい」
「「「ほんとー!? すごいー?」」」
「あぁ、まったく負けてないよ」
父ちゃんの親戚ってことは、領主様で、お貴族様ってことだよな! その貴族の家で食べられているパンより美味しいって! 焼きたてだからってのはあるかもだけど、平民の農家がお貴族様と同じクオリティのパンを食べられてるってのが、革命だよな!
褒められてニヤけてたら、自分の分のパンをもう全部食べちゃった兄ちゃんがすっからかんなパンかごを見ながらニマニマしてた。
「これからは、山から帰ってきたらこのパンが食べられるんだね……! ますます頑張れそう!」
「ん?」
「え?」
「あれ?」
兄ちゃんの発言に、三つ子で順番に首を傾げた。そんな俺らに兄ちゃんは顔を上げて、俺らを見渡して、目も口も開いちゃった。そんな『絶望だ!』みたいな顔されてもなぁ。
「うそ……ダメぇ?」
「もう、クガニ。このパンを作る為に使った小麦粉の量、分かってる? いつもの2倍よ、2倍!」
「うっ……」
「「「そんなにー!?」」」
ちょっと盛ってるって思いたい程のコスパの悪さだな、おい。今回は俺らの夢を叶えるってことで融通利かせてくれたけど、もうこんな贅沢は当分出来ないんだろうな。まぁ、全粒粉100%でもリッチな材料にすれば同じようにフカフカになってくれるだろ。……そんな、簡単な話じゃないかもか? ラードとか、混ざりにくそうだもんなぁ。
「そうよー。だから、この白いパンは、本当に特別な日にだけ焼きましょうね」
「「「はーい!」」」
「その時はまた、俺らにやらせてよー!」
「ちゃんとレシピも描いたんだよー!」
「次はもーっと! 美味しく焼くよー!」
「ふふふっ、頼んだわよ!」
まっかせてー! そう声高に宣言しながら、三つ子揃って左胸を拳で軽く叩いた。そしたら大人組みんな、笑ってくれた。
昼食を終えて、午後も張り切って麦踏みやらジャーキー作りやらを手伝った。朝からずっと動いて、はしゃいで、疲れてるはずなんだけど、夜になって蒸し風呂から上がっても、眠たくなかった。ずっと、妙な興奮が胸の中を燻っていたから。
妙な? いや、これが何から来てるかは分かってる。夢が叶ったからだ。達成感から、興奮してんだ。
そう気づいたのは、三つ子揃って井戸水を煮沸消毒するついでに夜風に当たって、満月を見上げてる時だった。
「ねぇ、ティーチ、ミーチ」
「「なに?」」
「……僕ら、白いパン、焼けたんだね」
藁の敷物の上で座って、山の上にある月を見上げてるターチが、震えた声でそう言った。あぁ、言いだしっぺだもんな、ターチは。喜びもひとしおだよな。
「そうだな。足りない材料も、一から作って。短期間だったけど、頑張ったぜ」
「ね。ハラハラする事もあったけど、父さん母さんお兄ちゃん皆に、喜んでもらえたよ」
感動してるターチに追随する為に、俺とミーチも苦労と喜びを語った。あぁ、言葉にしたら、目頭が熱くなってきやがった。頑張ったもんなぁ……。
何から作ったか、指折り数えながら、振り返ってくか。
「最初は、水からだったな」
「そうよ! どんな料理だって、おいしい水が有ってこそだもの!」
「その目的で作った手作り浄水器が、兄ちゃんにヒットするのは予想外だったけどねぇ」
井戸水も別に汚いワケじゃないけど、作ってみたいから作った手作り浄水器。結局透明度が変わらなかったから煮沸消毒だけでもいいやってなったけど、川から直接水を汲む兄ちゃんにとっては、濾過する時間が短縮できるのは画期的だったらしい。作って良かったわ。
「んで次が、クネドリーキか。茹でパンの」
「だね。最初はベーグルを作りたかったんだけど、小麦粉が貰える保証が無かったから、方針転換をしたんだ」
「パンを茹でて完成に持ってくなんて、ビックリしたわ。じゃがいもでも作れるのは儲け物だし」
「そっから片栗粉も作って、おやきみたいなやつも作ったりな。アレ俺好きだわ」
「普通の蒸し芋より大変だけど、フィリングも入れれて美味しいもんね」
「あれが毎日おやつでも良いくらい!」
パンに詳しい人でも、まさか茹でて完成のパンなんて知らない人も居るだろうな。ターチってパンに物知りでスゴイやつだぜ。おかげでパンの開発に大人組も協力的になってくれたし。
「おやつといえば、水飴が作れたのはデカかったよなー」
「ホント! みんなお酒好きすぎて、せっかく甘い麦汁があるのに水飴を作らなかったなんて、信じられない!」
「ミーチ、それ僕らが勝手に考察したやつ。まぁ、工場長に『革命だ』って言われたし、砂糖の代わりを作ったのは偉大だよね、僕ら!」
これはターチの言うとおり、俺らの自慢になり得る再発見だろうな。ただ、後ろ盾がほぼ無い俺らが売り出しても、技術を真似されて利益を横取りされるだろうから、水飴こと水甘の話は、慎重にならないとな。
「最後に作ったのは、ラードか。匂いは結局どうにも出来なかったな」
「これは片栗粉と一緒で、元からあったけどね。石鹸、上手くできるといいなぁ」
「それよりも、ハッシュドポテトよターチ! ティーチが食べたかったアレ! 揚げ焼きをなんとか脂焼きって表現して、コロッケと一緒に作ってさ!」
「そうだった! スッゲー旨くて、俺ちょっとだけ前世の記憶蘇ってたぜ!」
「「な、なにそれー!?」」
驚かれたから、「水飴とかパン食べた時に、なんか思い出さなかった?」って聞いたら、「「そんな奇跡、無かった」」ってさ。なんで俺だけ? 三つ子なんだからそういう事あれよ。まぁ、大した記憶じゃなかったし、あってもなくても一緒か。
時間が経ったから消毒し終わったお湯の鍋を火から下ろして、別の鍋を焚き火に翳した。一息ついたら、ミーチが口を開いた。
「ねーねー、次は何作るー?」
「もう次ー? てか、俺の朝ラック20%再現の話、忘れてね?」
「僕のモルトシロップの事も」
「あーごめんゴメン! じゃあ、まずはそれね。朝ラックって何があるの?」
「ジュースと、スクランブルエッグと、ホットケーキ……。メインはグリドルとマフィンと……」
「多いわね」
「しばらく退屈しなさそう」
割りと色々あったよなー。野菜もあったような。まぁ再現度20%だから、細かいことは気にしないつもりだけど。朝メニューが出来たら、グランドメニューもサイドメニューも再現してこー!
ラックのメニューを思い出しつつ指折り数えてたら、ターチが「あ!」って言って目を見開いて、俺らを見た。
「そういえば、春になったら魔力の検査するんだったよね!」
「魔法適性検査、ね。楽しみね! 私、何が適性なんだろ!」
「個人的にだけど、適性はバラバラがいいな。役割分担できるから。てか、適性って種類分かってんのかな」
「あー。オーソドックスな6属性じゃなくて? 毒とか音楽とか、織物とか、そんな感じ?」
「織物って変なチョイスね。そういうとこの話、後でお母さんに聞いてみましょ!」
話題をコロコロと変えながら、俺ら三つ子の夜は、更けていった。流石に途中で兄ちゃんに呼び戻されたけど。
よーし! これからもモノづくり、楽しんでやってこー!
次回、最終話。