兄ちゃんと半日キャンプだ!
次の日。「兄ちゃんから絶対に離れないこと」と約束をして、クガニ兄ちゃんと一緒に山に入った。目的は水、及び川だから、向かう先は谷だ。
初めて入る場所で、草や石、ぬかるみに足を取られつつ進んでいく。川が目当てなら山に入らなくてもいいだろうって? ついでに山の幸も取ってこようって計画だから。俺たちの背負い籠の中には既に、薪になる枝や果物がそこそこ入ってる。昼飯は川辺で焼き果物パーティだ!
「ティーチ、ターチ、ミーチ、大丈夫? 疲れてない?」
「「「ま、まだ歩けるー」」」
「よし、がんばれ! もう少しで目的地だからな!」
「「「おー!」」」
遠くの方からザーザーと、水の流れる音がする。もうすぐ川だ! そう思ったら、この足の裏の痛みもなんとか耐えられる!
兄ちゃんの激励から体感5分後。服にくっついてくる植物の種を毟り取りながら歩くと、見えてきた。石だらけの地面に、幅の広い浅めの川。昨日の夜中から朝方にかけて弱い雨が降っていたせいか、流れる水はほんのりだけど、茶色く濁っていた。おおっ! これは実験のしがいがありすぎる!
「「「わー!」」」
「やっぱり濁ってるなぁ。釣りはムリだ。それに増水してる。あ、流れも早くなってるから、絶対に川には入らないこと! 守れる?」
「「「まもるー!」」」
「ホンット、君らはいい子だなぁ」
「「「えへへ~」」」
クガニ兄ちゃんが兄ちゃんだからな! 俺たちのこと見てデレデレしてくれる人のこと、愛し返さない理由無くない?
川辺に仮拠点を設けて、それからもう少し川に近い場所を、兄ちゃんがシャベルで広く浅く穴を掘った。浅くって言っても、チビッ子の俺らの膝より低いくらいの深さで、掘ったそばから川の濁った水が染み出てきた。
「「「す、すご~い!」」」
「水ってね、皆同じ高さになりたがるんだ。だから川のそばを掘ると、そこに水が、川の高さと同じだけ流れ込むって寸法だ。そして、流れが無いから、だんだん泥が沈んでいくんだ」
「「「へー!」」」
「ティーチ、ターチ、ミーチ。泥が沈んだ水の上澄みを、葉っぱで掬って、この鍋に入れてくれるか? 兄ちゃんは火起こししてくるから」
「「「任せて!」」」
「頼りがいがあるなぁ、お前らは!」
俺らの気合の入った返事にニッコニコな兄ちゃんは、少し離れた場所に移動して、石で即席の竈を作って、火起こしを始めた。俺らのこと、全面的に信じてくれるの、スゲー嬉しい! さあ、期待に応えないとな! まだまだ染み出す水をじっくり、眺めよう!
穴に流れ込むのは川と同じ、茶色く濁った水。その水が川の水位と同じになると染み出るのが弱くなって、だんだん、味噌汁の味噌みたいに泥が沈んでいった。三つ子互いに顔を見合わせて、タイミングを見計らって、頷きあう。そうして待って、水が澄んできた!
「「「掬おう!」」」
上澄みをそこらで摘んだ幅広い葉っぱで掬って、片手鍋に入れていく。荒れないように、ゆっくり。掬って少なくなった分、水位を同じにしようと川から濁った水がまた染み込んできた。それが澄んでくるのをまた待って……。
「やっぱり、泥水をろ過するなら、この方法がいいのかもな」
「そうよね。川からこの穴に来るまでに、石も砂利も砂も通ってきてる。だから綺麗な上澄みができるくらいには、ろ過されてるんだわ」
「泥水になら、有効だね。でも、井戸は泥水じゃないよ。下手に砂を通すより、煮沸して炭で臭み抜きするだけでも、十分かも知れないね」
「そうだな。でも、計画したからには、やっぱり作りたいよな?」
「「うん!」」
水を汲みながらのヒソヒソ会議で、当初の予定通り、砂と砂利を持ち帰る事にした。違う場所に穴を掘って、掘った分だけの砂と砂利を、持ってきてた麻袋に入れた。兄ちゃんに変な目で見られてる気がするけど、気にしない、気にしない!
《砂・砂利 ゲット!》
木の棒を刺したり皮のまま火にかけた果物たちは、甘さが増して美味しかった! 柿・栗・オレンジ。名前は違くても知ってる食べ物が多くて、この世界でもそこそこ楽しく生きてけそうだぜ!
「兄ちゃん、魔物、出てこなかったなー!」
「ちょっと怖かったんだけど、よかったー!」
「もしかしてお兄ちゃん、なんかしたのー?」
「「したのー?」」
「ん? まぁ、ここら一体に威嚇して、近寄らせないようにはしたかな」
「「「スゲー!」」」
……威嚇??? 覇気とか何か? 兄ちゃんってもしかして、この山の主???