兄ちゃんを、仲間にしたぞー!
兄ちゃんだけじゃなく、俺らももしかしたら別の神様から加護を受けてるかもしれないって話をされた、夜。
兄ちゃんが間違いなく特別な存在だと判明したのはいいものの、俺らまでとか、どんだけ神様俺たち家族に構うの? 決定したわけじゃないけど。神様に愛されるとか、連れてかれてったりとか変なものが見えるとか、ろくなことにならないイメージなんだけど。事実、兄ちゃんは苦労してるし。俺らも愛されちゃったなら、家族に隠し事しないといけない今、苦労してるな。……あれ? ってことは、俺たちも魔法使えないかもしれないってこと?
考えることが多くて不安になって、眠れなくなってたんだけど、兄ちゃんに頭をやさしく撫でられるとそれが吹っ飛んで、自然と瞼が重くなってった。すやぁ。
5歳児らしく深い睡眠をとって、起きた朝! 今日は昨日のリベンジだ! 色々ありすぎて濃かったんだけど、ラード作りも兄ちゃんが帰ってきたのも、ついにハッシュドポテトを作ったのも、兄ちゃんが本当に特別な存在だったって知ったのも、全部一日の出来事だったんだよな。情報量多すぎ! だけどそれを受け止めちゃう5歳のやわらか脳みそ!
てなわけで、昨日から引き続きボアの処理をやってる兄ちゃんの横で、俺らもラード、いや石鹸のための作業をする。俺が水を沸かして壺を煮沸消毒する係。ターチがボア脂を刻む係。ミーチがモンレの葉っぱから水蒸気蒸留で香り水を取り出す係。“焚きラード”にならないように、水は脂と同量くらいにしてみようか。
「ね、ねぇ、ティーチ、ターチ、ミーチ。また、昨日みたいなボア脂、作らない……?」
「兄ちゃん、俺たち、石鹸作りたいんだー」
「石鹸使ったら手を洗うとき、痛くないからさー」
「それに香りまで着いたら、素敵だと思わなーい?」
「……そうだね……」
兄ちゃん、あからさまに落ち込むじゃん。ジャーキーにする肉から脂を削ぎ落とす手の動きが、すごくゆっくりになっちゃった。もう、言わねぇと分かんねぇかなぁ。
「脂を抽出した後、脂かすが出るじゃん。それ炒めてカリカリにしたら、昨日と同じものできるよー」
「!!! そっか、そうだね!」
気づかせてあげたら、兄ちゃんは分かりやすく元気になって、ボア肉をどんどん細長く切っていった。ニッコニコで。ジャンクフードって、中毒性高いよな。欲しがる気持ちは分かるぜ、兄ちゃん。
それから作業を黙々とこなしてたんだけど、ボア肉を塊からジャーキーサイズに切り出し終えた兄ちゃんがまた、こちらに話しかけてきた。「君らは何を作ろうとしてるの?」って。三つ子で連携してモンレの香り付き石鹸を作ろうとしてるんだって言ったら、兄ちゃんは苦笑して、「言い方が悪かったね」って言った。どした?
「最終的に、何を作りたいの?」
「「「……どういうことー?」」」
「ほら、だって、君らの発明は、結構脈略がないもの。ろ過器に、ガジャ芋の茹でパン、水甘に、脂焼きっていう焼き方。ほらね。それにミーチのやってる蒸留法、いつ教わったの?」
あーあーあー。まさか、兄ちゃんに追い詰められるとは思ってなかったなー。内心焦ってなんも言えなくなってたら、兄ちゃんも困った感じで笑っちゃった。
「怖がらないでよー。別に、秘密を明かしてほしいってワケじゃない。兄ちゃんはただ、君らが何を作りたくて、今こんなに頑張ってるのかを、知りたいだけ。できることなら、手伝いたいんだ」
三つ子にそれぞれ目配せする兄ちゃんの顔は、確かに、慈愛に満ちていた。言葉に偽りはないんだろう。隠し事に深入りするつもりはない。でも、最終目標は聞かせて欲しい。兄ちゃんは、そう言っていた。
三つ子揃って目を合わせて、アイコンタクトだけで会話する。
『話していいか?』
『庶民でもパンは焼いても大丈夫だって知った』
『今なら、話しても大丈夫』
『『『だって、兄ちゃんだもん』』』
結論がついた俺らは、頷いた。見てた兄ちゃんは微笑んでくれた。
「あのな、兄ちゃん。俺らなー、“白いパン”を、食べてみたいんだー!」
「白くなくても、甘くて、ふわっふわなパンが食べてみたいんだー!」
「だから、綺麗なお水とか、甘いのとか、油が欲しかったのー!」
「そっかー。白いパンってことは、小麦は精製されてないとだねー。石臼回すのは、兄ちゃんに任せろ!」
「「「ほんとー!? やったー!」」」
よっしゃー! ほんっとにうれしー! 兄ちゃんが、ホントの味方になってくれたー!
あれ? それじゃあ今、俺らが隠し事してるのって、“前世の記憶がある”ってことくらい? その前世の記憶も、名前も思い出せないくらい朧気すぎて、大したものじゃねぇし。あー、すっげぇ気楽になった!
「「「石鹸作れたら、白いパン、一緒に作ろー!」」」
「うん! 仲間にしてくれて、嬉しいよ!」
パワー自慢の兄ちゃんがいれば、ホントの百人力! もう何も、心配ない!
無敵感に心を躍らせながら煮込んだ脂身。出来たラードは昨日のより白っぽく、柔らかく出来た。でも、匂いはそんなに薄まらなかった。兄ちゃんに聞いても、大抵こんなもんらしい。貴重な水をたくさん使って、匂いが薄まらない? じゃあ最初に使った焚きラードでいいじゃん。はー、損した。
ミーチの方は葉っぱを増やしたおかげか、ちゃんと香りが濃縮された水が蒸留できたみたい。灰汁と脂と香り水を混ぜてーっと。型に流して、固まったら乾燥させて……え? 3ヶ月かかるの? そういやそうだった。なっがーい。