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我が家の食卓革命~転生三つ子が白いパンを焼くまで~  作者: 石磨 輝
第四目標! 油脂を手に入れろ!
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焚き方失敗しても、タダでは起きねぇぞ!

「やってくれたわね、ティーチ! こんな美味しそうなラードで石鹸なんて、勿体なさすぎて作れないじゃない!」

「ごめんってー!」

「怒ってるのか褒めてるのか、分かりにくいなー」


 「そこに直れ!」って言われて素直に正座する俺の正面で、ミーチがガミガミ怒ってる。でもターチの言うとおり、内容はお前どっちだよ。


 俺が作ったラードは、どうやら“焚きラード”ってやつっぽい。香ばしくて風味の強い、調味料としては最高なタイプだ。

 でも、俺らが欲しかったのは、香ばしさのない、脂らしい脂だ。モンレの葉の香りがする石鹸のために、もう少し色も白い方が嬉しかった。つまり、俺の炊き方は間違っていたことになる。このままじゃ石鹸から焼肉の匂いしかしないんだから、そりゃミーチも怒りますわ。

 正座してる俺の横で胡座かいてるターチが、体を地面に投げ出した。


「でももう僕、今日はラード刻みたくないよー」

「……ゴメン。全部炒めちゃって、ゴメン」

「そこは、確認しなかった私たちも悪いわ。……急いては事を仕損じるって諺があるくらいなんだし、一旦落ち着きましょう。私の香り付き蒸留水も、成功してるか分からないしね」


 深呼吸したミーチが背後を見やる。釣られて見た先には、弱火で焚かれる木製で四角い蒸し器。不思議な点は、蓋がボウルに変わってて、中に水が入ってることかな。あの水で2段目で蒸されてる葉っぱから出る蒸気を冷やして、エキスを一緒に蒸されてる受け皿で受け止めてるらしい。今の時点でも香ってるな、モンレの葉っぱ。爽やかで、葉っぱらしく青い匂いも。


「葉っぱの量が足りてるかどうか、刻んだ方がいいのか。蒸す水の量、いつまで蒸せばいいのか。分からない事しか無いわ。取り出したエキスに香りがあるかどうか、石鹸との成分的な相性も、ね。……だから、まぁ、猶予をくれてありがとうとでも、言っておこうかしら」

「なんでそんな上から目線なんだよ!」

「成功してるかもしれないからよ!」

「シュレディンガーの猫だねー」


 蓋を開けるまで、生きてるか死んでるか、分かんねぇっていうアレか? うっせぇ! オメェあれ、思考実験であって、不幸になった猫はいねぇんだからな! 簡単に確認できるコレじゃねぇからな!


「……成功してて、欲しいけどよぉ」

「……正座、解いていいわよ」

「やったぜ」


 あっぶねぇ、痺れるとこだった。もうじーんってしてるわー。んっ? なんだミーチ? その拗ねたような顔は。成功を祈ってやったのによー!


 焚きラードを鍋から壺に移して、鍋に残ったラードで何を作るか話し合ってたら、山の方から“どーんっ どーんっ どーんっ”と、3回太鼓の音が鳴った。山に入った兄ちゃんが帰ってくる! わーい!


「作れちまったもんはしゃーねぇ! このメッチャ旨そうなラードを使って、兄ちゃんに旨いもん食わせてやろうぜ!」

「「「おー!」」」


 というわけで、昼ごはんは兄ちゃんが帰ってきた後の夕飯の、試作だ!

 メニューは力尽きてたターチが言ってた、“コロッケ”だ。って言ってもパン粉も揚げ油も無いから、焼きコロッケみたいな感じになると思う。今取り出したばっかのラードを揚げ油にしろって? 確かに。


「揚げ焼きコロッケ、衣は片栗粉。って感じか」

「いいね。とにかく、母ちゃんからガジャ芋貰ってくる!」

「茹でる為の鍋もね!」


 ん? おいおい、片栗粉まで出てくるなら、もう、ハッシュドポテトも出来るじゃねぇか! 同じタイミングで思い至ったらしいミーチと顔を見合わせて、笑顔で頷きあった。


「塩も、後で貰いに行きましょ!」

「おう! ありがとな!」

「水飴作り、今後も手伝ってよね!」

「あったりまえよ!」


 その後、蓋付き鍋を抱えて走ってきたターチも、笑顔で鍋の中を見せつけてきた。あったのは見慣れたガジャ芋と玉ギネ、そして小さな皿に入った白い粉。塩だ。ターチもハッシュドポテトのことを思い出してくれたみてぇだ!


 コロッケに似たような料理は、割と結構食べてる。スコップコロッケみたいな感じで、パン粉は乗らない石窯焼き。代わりにチーズが乗ってる時もあるから、ポテトグラタンって言った方が近いかも?

 美味しい匂いに誘われたか、丁度昼飯時だからか。ターチに続いて母ちゃんも外で作業してる俺らのとこにやって来た。……鍋、持ってきすぎちゃったかな。ハッシュドポテトは、またお預けかなー。


「脂を出した残りカスがあるから、ガジャ芋と肉かすの石窯焼きを作るの?」

「「「違うよー!」」」

「あれ? 違うの?」

「おう! せっかくボア脂が作れたから、たくさん使うんだー!」

「石窯じゃなくて、鍋で焼くんだー!」

「形も手のひらの大きさの、葉っぱみたいな形にするのー!」

「「「手で掴んで食べられるよー!」」」


 俺らの提案に、母ちゃんは目を丸くした後で、「ガジャ芋と、肉かすの、焼き物?」と、ボソッと呟いた。そんな感じー!


 三つ子で話し合いながら、記憶を頼りながらなんとか出来た、でんぷん粉衣のガジャ芋の焼き物。出来立てのラードを使って揚げ焼きしたから、もうとんでもないくらい旨かった! コクの深さが、玉ギネの甘さが、ボアの風味が、表面のカリカリ加減がすごい! 焼くんじゃなく、多めの脂で揚げ焼きにするのが美味しさの秘訣で、贅沢だ! これはもう、コロッケ! 誰がなんと言おうと、これはコロッケだー!


「「「早く、兄ちゃんにも食べさせてあげたーい!」」」

「ふふふっ、直ぐに叶うわよ。でも、別の野菜をもうちょっと混ぜましょうね」

「「「はーい……」」」


 コロッケらしさが消えちゃう……。いや、コロッケは他の野菜も優しく受け止めてくれるだろうけど。あぁ……。


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