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我が家の食卓革命~転生三つ子が白いパンを焼くまで~  作者: 石磨 輝
第四目標! 油脂を手に入れろ!
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美味しいラードが、できちゃった!

 石鹸のためのラード作り。お湯を沸かしてるのとは別に、2つ目の竈の薪に火を移して準備してたら、ミーチが戻ってきた。たくさんの葉っぱが盛られたザルを抱えて。


「採ってきたわよー!」

「おつかれさまー。花って言ってたけど、葉っぱなんだな」

「モンレの葉っぱだね。もしかして、いい香りのお花、咲いてなかった?」

「そうなの。雪は無くても、やっぱり冬ね。咲いてないわ。しょうがないからモンレの葉っぱを摘んできたわ」


 長袖が必要なくらいにはしっかり寒いからな。咲いててもあんまり香らなかったのかな。それなら確実に香るモンレ、レモンがいいよな。葉っぱだけど。……そういや、レモンってクエン酸で酸性だよな。灰汁のアルカリ性と中和しない? いやでも、葉っぱだし、そんな気にしなくても大丈夫だよな。

 心配を自己完結させてる間に、ミーチは葉っぱの山に鼻を突っ込んで、めいいっぱい吸った。上げた顔は、満足そうな表情だった。


「葉っぱでも十分、いい香りだしね!」

「「そうだねー」」


 普段から、箱蒸し風呂に蒸気を入れるときに一緒に煮立たせてて、知ってるからな。この葉っぱの香りがいいことは。「お茶の葉石鹸みたいになるかもな」って言ったら、「それもすごく良い!」ってミーチに喜ばれた。やったぜ。

 竈のそばにザルを置いたミーチは、辺りをキョロキョロしてから、家の方に足を向けた。


「蒸し器とお皿、それからボウルを借りてくるわね」

「なんで?」

「煮出すんじゃなかったの?」

「葉っぱを摘んでて思い出したの。“水蒸気蒸留”をね!」

「「すいじょうきじょうりゅう?」」


 水蒸気蒸留。水蒸気で葉っぱや花を蒸して、蒸気となって出てきたエキスを回収する方法らしい。蒸し器と受け皿と、受け止めた蒸気を冷ますものがあれば、簡単なものなら出来るとのこと。


「要は、いつもは逃がしちゃう蒸気を、受け止めて、お皿に受け止めるのよ!」

「わぁ簡単。そんなんで香りの素できんの?」

「初めてやるから知らないわ! でもやるの!」

「いいんじゃない、ティーチ。蒸気ってことは煮沸されてるしさ。ミーチ、火傷に気をつけてね」

「分かってるわ、ありがとう。そっちもラード抽出頑張ってね!」

「「うん」」


 香りの素の抽出かぁ。それを全部石鹸に使うとは限らないから、まだ余ってる小さな壺、消毒しとこ。


 火が消えないように見張りつつ、ボアの脂身を刻むのを手伝ったら、刻み終わった。やっとだぜ。500gくらいか、でも粗挽きのひき肉くらいのサイズに切り刻んでたから、ホントに時間かかった。


「僕、ラードが出来たら、肉かすとガジャ芋を混ぜてコロッケを食べるんだ……」

「一番大変なとこ、頑張ってくれてありがとな。休んでてくれ」

「うん。危なくなったら助けるね」


 ずっと包丁を握ってヌルヌルと戦ってたターチが、疲れ果てた顔して死亡フラグ立ててた。死ぬなよ。あとそれメッチャ美味しそう。お疲れ様でした。


 よし、そろそろ俺が本格始動だ!

 ボウルに積まれた粗刻み脂身を、50gくらいの少しの水と一緒に両手鍋に入れて、竈の火にかける。えっと、中火で10分、いやそぼろ状になるまで煮詰めてくぞっと。ちなみに焚き火での中火は、薪が燃えきって炭になった状態で、ちょっと燃えてる感じ。ガスコンロみたいに燃えさせるのは火が強すぎるぞ。メラメラ燃えてるのがいい時もある(米炊く時とか、さっさと水を煮沸したい時とか)だろうけど、今回は違う。焦がさないように気を付けよう。


「おお、脂身からどんどん液体が……!」


 パチパチ言ってる脂身をなるべく鍋肌に付くように寄せてたら、真ん中に脂が溜まってきた。焼けたいい匂いが食欲を湧かしてきて、もう辛いぜ。腹の虫を無視してヘラでグリグリ、混ぜていく。するとみるみる内に粗刻み脂身は小さくなって、代わりに脂が溢れ出てくる! すんごい! なんでこんなに液体になる脂が、肉の中に収まってられるの!? 40度くらいで溶け出すくせに、不思議ー! ……あ、細胞膜か?


「ケホッ……。あ、アク出てきた」


 煮込まれて溶け出してきた脂の上に、白いもわもわ、アクが浮かび上がってきた。ある程度塊になってきたら、お玉でクイッと掬って別皿に移した。アクはもれなくコンポスター行きよー。

 脂身が油の中でそぼろ状になってきたら、両手鍋を火から下ろす。寒空の下で少し置いておいて、その間に用意した濡らした布を被せたザルを乗せた壺に、ちょっと冷めた鍋の中身を注いでいく。ダバダバーっと中身を布被せザルに載せたら、手とヘラで布を畳んで、そぼろをギュッギュと押し潰して絞った。


「あっちー……」


 そういや俺、油が油だけで沸騰してるのって、見たことねぇかも。火災は煙に引火してんだよな。……あれ? 今って結構危ない事してる? ろ過ここで終わらせたいんだけど。

 弱気に一瞬なっちまったけど、ミーチにどやされたくないから、布被せザルを取り替えた。今度は鍋にザルを置いて、壺の中身を鍋に注いだ。

 完成を悟ったターチとミーチが集まってきた。見守られながら布をヘラで畳んで絞って、ザルから脂が滴る音が聞こえなくなったら、ザルを外した。


「「「おー! 脂っぽい色ー!」」」


 鍋にあるのはサラダ油並に黄色い、透き通ってるラードだ。2度も濾したおかげで、余計なもんが入ってない!

 これが、俺らが協力して初めて作った、ラード! 豚、じゃなくてボアをステーキにした時の香りが、すごいする!


「「「美味しそうな香りー! ……アレ?」」」


 ここでこんなにラードの主張が強かったら、モンレの葉の香り、かき消されない?


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