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我が家の食卓革命~転生三つ子が白いパンを焼くまで~  作者: 石磨 輝
第一目標! きれいな水を手に入れろ!
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兄ちゃん! おかえり!

 お昼すぎ。山からどーんっ、どーんっ、どーんっと、太鼓の音が3回した。兄ちゃんが山を降りてくる合図だ!


 兄ちゃんは農家の長男だけど、人間離れした腕力を活かして、畑を荒らす害獣や魔物を山に入って狩ってくるんだよ。で、基本は1泊2日で山に篭って、討伐した魔物を持って降りてくる。皮とか爪とかの素材とついでに肉も大半をギルドで換金するんだけど、ちょっとはウチにも持ってきてくれるんだ。

 一週間の半分近くを山で過ごす兄ちゃんだけど、そこまで保つ量の水を持っていってるのは見たことない。つまり、水は現地調達してるってことになる。いったい、どうやって?


 夕方になると、2日ぶりに兄ちゃんが帰ってきた! 疲れた顔をしてたけど、駆け寄る俺らを見て、パッと笑顔が咲いた! やったぁ!


「「「兄ちゃん! おかえりー!」」」

「ただいま!」


 ギルドから長いあぜ道を歩いて帰ってきたのは、ウチの長男のクガニ。黒髪青目の俺たちとは違う金髪青目で、見れば見るほど顔が父ちゃんにソックリな15歳。イケメンなのに害獣・魔物も狩れちゃう腕っ節の強さまで持ってるから、そりゃあもう、集会場でモテモテだろうなぁ。気疲れした感じがソレだもん。


 5歳児三つ子が揃って駆け寄って、兄ちゃんが背負ってた革袋を持たせてもらう。おおおっ! ずっしりしてる! 今日は何の肉かなー!

 聞けば分かるのに予想してキャッキャしてる俺たち三つ子を見下ろす兄ちゃんは、優しい笑顔を浮かべてた。優しいっていうか、デレデレ? 犬猫を見たときのアレみたい。はっはっは! かわいかろう、かわいかろう! だって俺たち、兄ちゃんのこと大好きだもん!


「兄ちゃん! 兄ちゃん! お風呂の用意出来てる!」

「今日は僕が火起こししたんだよ! あと、モンレの葉っぱも摘んだ!」

「私とティーチは箱をピッカピカにしたよ!」

「ありがとう、ティーチ、ターチ、ミーチ。夕飯の時間まで、ゆったりさせてもらうよ」

「「「うん!」」」


 革袋を家から出てきた母ちゃんに預けて、その奥にある蒸し風呂スペースに兄ちゃんを連れて行く。ウチには蒸し風呂が2つある。押入れくらいデカイ四角い箱蒸し風呂と、椅子にカバーが掛かったみたいな形の1人用箱蒸し風呂。兄ちゃん専用なのが、後者の方だ。


 木で作った、首から上が空いてる箱蒸し風呂。すのこを敷いた座る場所の下には焚き火と水を沸かす鍋があって、ソコから蒸気を出して温まるんだ。サウナみたいだけど、サウナより湿度がムシムシ高くて、温度は体温よりちょっと高いくらい。こっちの箱蒸し風呂は首から上が外にあるから、のぼせにくいんだって。俺らはまだチビッ子で、押し入れサイズのデッカイ箱蒸し風呂だけしか入ったこと無いから知らないけど。


 土や草の汁に汚れた装備や服を木箱に入れて、腰に布を巻いただけの格好になった兄ちゃん。別の濡らした布で俺たちが身体を擦って、汗や土を落とす。触るとよく分かるけど、引き締まった筋肉が、それだけで鎧になってる! 15歳の肉体かコレ!?

 さあ、身体を綺麗にしたら、いよいよ蒸し風呂に入ってもらおうじゃないか! 観音開きの扉を開けて、上の蓋も開けて。ぶわっとレモンの香りの蒸気が溢れるその中に潜った兄ちゃんが椅子に座ったのを確認して、扉を閉めた。


「「「どーお? 気持ちいい?」」」

「うん、あったかくて、いい匂いで、気持ちいいよ」

「「「よかったー!」」」


 箱蒸し風呂を布で磨いた甲斐が。井戸水を汲んで、ガーゼでゴミを濾した甲斐が。火打ち石で着火して、消えないように薪と炭をくべた甲斐が。兄ちゃんの満足気な顔で、俺らの疲れも吹っ飛んじゃうぜ!

 でも……。


「「「……」」」


 朧げだけど、日本で生きていた記憶がある俺らは、気になっちまう。モンレの葉っぱの香りに負けない、土の匂いが。

 ガーゼで濾したし、一回煮沸もした水ですら匂いがする。これから装備や服を洗う水も、きっといつもどおり匂いがする。

 三つ子揃って顔を見合わせて、頷きあう。やっぱり早急に、水の浄化を進めないといけない。


 その前に、コレ聞いとくか。


「ねーねー兄ちゃん。兄ちゃんって、山の中でどうやって水を確保してんのー?」

「水筒持ってってるけど、足りないよねー?」

「何日も居るから、井戸掘ったのー?」

「んー? 飲み水確保は、川の水を掬って煮沸したり、濁ってる時は川のそばの地面を掘って、染み出てきた水の上澄みを煮沸したり、かな。あとは雨水を溜めたり、ね」

「「「そーなんだー!」」」


 川辺の地面を掘って、上澄み、か。あぁ、砂も小石もある。だから濁った川の水もろ過されるのか。思い至った俺らはまた顔を見合わせて、頷きあった。そんな俺らを兄ちゃんが不思議そうに見てきてた。


「どうして急に水のことを?」

「えっ?! えっ、えっと、俺らも、いつか山に入るでしょー?」

「お水飲めないのやだなーって思ってー」

「だったら兄ちゃんに先に聞いとこーってー!」

「なるほどね。じゃあ、近いうちに川に行ってみようか?」

「「「行くーー!」」」


 よっしゃ! ちょっとドキッとすることもあったけど、順調に素材を集められそうだ! 兄ちゃんっていう、最強のボディーガード付きで!


 その日の夕食は、兄ちゃんが狩ってきた二角ウサギ肉のステーキと、付け合せの野菜、そして久しぶりの茶色パン。あぁ、ガーリックバタートーストが食べたい。今のままでも、今日のはとっても、ご馳走だけどさ! いつもは芋と野菜だけなんだから!


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