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我が家の食卓革命~転生三つ子が白いパンを焼くまで~  作者: 石磨 輝
第三目標! 甘いを作る!
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お裾分けしたら、すごい話聞いちゃった!

「ごめんくださーい!」

「「「こうじょうちょー! お裾分けしにきたよー!」」」

「おーう。よく来たな、上がってけ! って、お裾分けってなんだ?」

「この間教えていただいた麦汁のレシピをアレンジして作った、“水甘”です」

「「「とってもおいしいよー!」」」


 出来た水飴、及び水甘を、半分をウイスキー工場のおじさん工場長にお裾分けしに来た。大した量じゃないけど、「出来たよ」って報告も兼ねてさ。ちなみに今日は歩いてきた。やー、お隣って言っても、畑が広すぎて道のりが遠いぜ。

 リビングまで案内されたから、椅子に腰掛けてから工場長に瓶と木のスプーンを渡した。俺らの手のひらサイズの小さな瓶に入った、茶色くてとろっとした液体。早速中身をスプーンで掬った工場長はその香りと甘さに、暫く押し黙っていた。


「こ、これが……麦汁を煮詰めたものなのか……?」

「そうだぜ! おいしいだろー!」

「あ、でも、教えてもらったレシピに、茹でた大麦も入れたから、ちょっと違うよー!」

「カサ増ししたの! これで美味しかったから、ガジャ芋でも作れると思うー!」

「なんだって!?」


 びっくりだよなー! いつも自分が作ってるものに、こんな甘いものが作れる可能性があったなんてってさ! しかも大麦じゃなくてガジャ芋でも作れるかもって聞いて、また驚いてるし。……そういえば、芋焼酎みたいなのって無いのかな。麦焼酎も。作り方知らねぇけど。たしか麹とか要るよな。ってことは米が……無いわ。

 水甘を掬ったスプーンを口に咥えたまま、工場長は瓶に入った水甘をしげしげと眺めていた。それから唾を飲み込んで、兄ちゃん、そして俺ら三つ子に目をやった。


「……これを、売る気は?」

「「「これからカジャ姉ちゃんに教えるよー?」」」

「バッカ! 軽々しく秘密を漏らすな!」


 調味料屋のカジャ姉ちゃんにレシピを教えるって言ったら、怒られた。父ちゃんにも母ちゃんにも止められたんだけど、やっぱりダメだったかー。

 頭を抱える工場長に、兄ちゃんが苦笑して口を開いた。


「やはり、そうですよね」

「ったりめーだ。果物じゃない甘味なんて砂糖かハチミツかで、なかなか手に入らない嗜好品! ウチのウイスキーよりもずっと高ぇ代物だって、分かってるだろ?」

「はい、そうですね……」

「こいつぁ、革命だ」

「「「かくめいー?」」」


 5歳児三つ子の俺らは、とりあえず話に参加してみるも、よく分からないといった風に首を傾げて見せた。

 ……まー、そうですよねー。砂糖とハチミツがあんなに高いのに、今ある技術の転用で作れるんだもん。時間はかかれども、怪我のリスクなく、安全に甘いものが。糖度は砂糖より高くないけど、な。

 っていうのを工場長が話して、深刻そうな顔で兄ちゃんに続けた。


「コレはお前らだけじゃ絶対に抱えきれない。領主に話を通しとけ。この村にゃ悪いことを考えるやつは居ないが、魔が差して儲けを掠め取る奴も、居ないとは限らん。それに、領が儲かる話を領主に通さないのは、背信の疑いがかけられちまう」

「そうですよね……。実は、父さんが書いた手紙を、これから出すところなんです」

「そうか、スマン、杞憂だったな。……まぁ、お前の父ちゃんは現領主の従兄弟なんだ。クガニ自身のこともとんでもねぇ開墾者として知ってんだろうから、悪いようにはされねぇさ」

「「「かいこんしゃー?」」」

「おっと、知らねぇか? 開墾ってのは、山を切り開いて、畑にすることでな。そしてお前らん家の畑、アレの8割は、お前らの兄ちゃんが一人で、たった一人で! 山から畑にしたんだぞー!」

「「「えーーーっ!?」」」


 あ、あのバッカでかい畑の、8割が!? 8割って言ったら、いやもう殆どじゃんか!! なんで兄ちゃん、そんな無謀なことを!? 山を切り開いたって、絶対魔物とも戦ってたよな!? 俺らが知らないって、5年以上前だよな!? つまり、10歳未満で何してんの?! なんでやっちゃったの!?

 工場長から兄ちゃんの方に、バッ! と振り返ったら、吹き出された。


「はははっ! わっかりやすいなぁ、君ら。……力加減の練習の為だよ。物を持つときはどう加減すればいいのか、木を切り倒すのにはどこまで力を込めればいいのか、とかね」

「「「兄ちゃん、頑張ったんだね」」」

「スゲェだろ、お前らの兄ちゃんは!」

「「「うん!」」」


 兄ちゃんのあの腕力って、最初から使い勝手が良かったわけじゃなかったんだな。そらそうか。今だってたまに暴走するもんな。今朝も卵を割るのに一個、潰してたし。チートなだけじゃなく、加減を把握する努力もあって、普通の生活が成り立ってたんだな。頑張った兄ちゃんも尊敬できるんだけど、その環境を用意できた周辺もスゲェや。周辺……?


「なぁなぁ兄ちゃん。いとこってなにー?」

「従兄弟は、近い親戚、だね。えっと、俺らの父さんは、今の領主様のお父さんの、下のご兄弟の息子なんだ」

「えーっと……?」

「おじいちゃんの、お兄ちゃんが」

「前の領主さまってことー?」

「そういうこと」

「「「へー!」」」


 なるほどなー。領主ってことは、お貴族様ってことだよな。その親戚だから、父ちゃんは元聖女の母ちゃんを娶ってもセーフだったんだ。まぁ、俺ら孫世代からはもう完全に平民の農民だから、特別扱いなんかされないだろうけど。兄ちゃんが個人的に特別?


 水甘をお隣りさんにお裾分けしに来ただけなのに、領主様に話が通る話になったり、兄ちゃんが畑の8割を開墾してたことを知ったり、実は俺らがお貴族様の親戚だったって事実が判明したり。なんかすごいな、今日。まだ始まったばかりなのに。


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