甘いの作り、取り掛かるぜ!
大麦麦芽が出来るまで! ダイジェストでお送りするぜ!
大麦の粒を水に浸けて、一晩経過。2日目。膨らんだかな? くらいで、特に変化なし。水を入れ替えて、終わり。浮いてた粒も見捨てずに水に漬けといた。
3日目。特に変化なし。父ちゃんに聞いたら、冬の今の気温だったら6日は発芽しないとのこと。ここは国の中でも南部だから、雪らしい雪が滅多に降らない地域。あったかめだから6日くらいで大丈夫みたい。
7日目。毎日、3回ずつ空気に触れさせつつ水を替えたおかげか、粒から根っこがちょっと生えてきた! 水桶からザルに上げて、あまり重ならないようにほぐしてから、大きめの布を被せた。先生役の父ちゃんによると、暗いところがいいらしい。
9日目。グンッと伸びた毛根が熱を持って、暖かかった。すげぇ、生きてるって感じだった。根っこ同士が絡まないように都度広げ直して、湿り気の為にジョウロで水を振りかける。
10日目。朝と夜の2回、父ちゃんが根っこの生えた大麦の粒を縦に切って、中を確認してた。見たら、粒の中で茶色い芽が出る準備をしてて、朝から夜でその長さが伸びてた。
12日目。水やりを控えたその日の夜。切った粒の中で芽が殻を破りそうになってたから、木枠の網に広げて、置いといた。夜、だからな。13日目の朝から、天日干しを開始した。
17日目。ずっと晴れてて、風もさほど強くなかったおかげで、粒が乾いてくれた! カラカラになった大麦の粒を網からザルに移したら、根っこを外す為に擦りつけるように手で回してく。ここは三つ子の分割作業。一人がザルで根っこをザリザリ外したら、二人がもう一つの使用済みザルから根っこを外してく。コレ、ザルがステンレスとかなら良かったんだろうけどさ、木製の編み編みザルなんだよ。隙間にすっげー挟まってんの。それで目が詰まっちゃうから、こうしてる。
そうした苦労もあって、大麦の粒から根っこは外せた! あとは軽く炒って、焙煎して……! ベースモルトの完成だ!
「「「父ちゃん! 大麦麦芽、コレ出来てるー?」」」
「見せてごらん。……うん、初めてにしては、いいね」
「「「やったー!」」」
先生役の父ちゃんからお墨付きを頂いた! これで水飴とモルトシロップが出来るぜ!
「大麦から甘いものを作るんだっけ? 具体的にはどう作るか、考えてるかい?」
「勿論!」
「いっぱい時間あったからね!」
「だからお父ちゃん! もうちょっと大麦ちょうだい!」
「「ちょうだーい!」」
三つ子揃って上目遣いおねだりしたら、「麦汁を作るんだったね」って言ってから、皮を取った大麦を分けてくれた! 話が早いぜ父ちゃん! 持ってきてくれた藁ゴーレムちゃんたちも、ありがとな!
17日間もあった。だから麦汁の作り方は2件隣のウイスキー工場で教えてもらった。ミーチの記憶にある水飴の作り方とちょっと違うらしいけど、今回は工場から習った方法を参考に、作ってくぞ。
大麦麦芽と皮むき大麦が別々に入ったザルと、それとは別のザルを1つ。それを分担して持って、地上倉庫に向かった。
「まずは……どうすんだっけ?」
「麦芽を粉砕するんだよ」
「この、石臼でね!」
皮むき大麦のザルを持ってるミーチが、背の高い石臼を指さした。倉庫から父ちゃんがたった今出してくれたそれは、地面に敷かれたゴザの上にセットされた。
上下別れた重い石の上には持ち手が付いて、中央には投入口が開いてる。溝が付いた面でゴリゴリすり潰して、出来た粉を受け止める箱も付いてる、便利な石臼だ。いつもは天日干ししたハーブや野菜を砕いてるそれで、大麦麦芽を潰してくぞ!
「じゃー、私はこっちの大麦を茹でてくるから。ティーチ、ターチ、頑張ってねー」
「そっちもなー」
「やけどに気をつけてー」
「ありがとー。ばいばい!」
ここからも分担作業。俺ら二人で大麦麦芽を粉にして、それを茹でて冷ました大麦と一緒にお湯に入れて、混ぜる。それを一晩置いとくんだ。ウイスキー工場のおじさんから教わったのは別に茹で大麦を入れるレシピじゃないけど、より多く作りたいからデンプン要因で大麦を加える。石臼は1個しかないから、今回は皮むき大麦はすり潰さないことにした。
おさらいしたところで、麦芽をすり潰してくぞ! いくぞ、ターチ! せーのっ!!
「「ふぎぎぎぎぎ……っ!」」
「……貸してみなさい。最初は重たいから、調子が良くなったところで交代しようね」
「「ありがと、父ちゃん!」」
投入口から麦芽を入れて、二人で意気揚々と取っ手を掴んで回そうとしたけれど、スッゲー重くて動かなかった! 見守ってくれてた父ちゃんが手を貸してくれて助かったけど、5歳児の力のなさを思い知ったわ……。
大人の男の力なら容易く動く、石臼の上部。ミシミシ、ガリガリ、ゴリゴリ。色んな音を立てながら石臼は回って、だんだん、砕けた麦芽が上下の石の隙間から出てきて、箱にパラパラ落ちていく。出来た、出来た! モルトパウダー、出来た!
「そろそろ、軽くなったよ。止めないように、気をつけて回すんだよ」
「「はーい!」」
父ちゃんから動かしてる最中の石臼の取っ手を貰って、先に俺から回すことになった。勢いを殺さないように、かと言って早くなりすぎないように。音を聞いて、リズムを合わせて。たまにターチが麦芽を穴に注いでくれるのを見ながら、石臼を回していく。
ごく自然に、無になってた。すっごい集中してたなって自覚したのは、ターチが箱に落ちた粉砕麦芽を、布を被せたザルにかき集めた音を聞いたから。ザラザラザラーって。
「ターチ、代わる?」
「んー? 麦芽はもう、全部石臼に入れちゃったよ?」
「んっ? そうなの? 言ってくれれば、代わったのに。面白いぞ」
「言ったけど、聞いてなかったんだもん」
「ホントに? ごめん」
「いいよー。ティーチ、こういう作業、好きだもんね」
「そう? 知らなかったー」
でも、確かに、マルチタスクよりはシングルタスクの方がずっと楽だし、火起こしとか、そのあとの世話とかも、結構好き。無になれるのが好きだから、夢中だったのかも。
「次、石臼やる時は、ターチからでいいぜ」
「ありがと。そうしようね」
「うん」
さて、そうこう話してるうちに石臼の隙間から粉砕麦芽が出てこなくなってきた。また父ちゃんに頼んで石臼を綺麗に片付けたら、家の中まで粉砕麦芽を持ってくぞ。水飴作りは、まだまだこれからだ!