骨も話も、煮詰めていくぜ!
村の中央に行ってきた日の翌日。顔を洗いながら、俺らが何を作ろうとしてるのかを思い出していた。
水飴、モルトシロップ、ハッシュポテト、壺焼き芋。あとボア骨スープ。それから干し肉。今のところ、作りたいものって、こんな感じだっけ? まぁ、忘れちまったんなら重要じゃなかったんだろ。
んで、今取り掛かってんのが、ボア骨からの出汁取り。昨日のうちに骨を折ったり(骨髄が良い出汁になるから)、洗った(結構血が出たね)から、兄ちゃんが朝からボア骨を茹でて、アクを取り除いては水を足す作業を繰り返していた。俺がおねだりしたドでか寸胴鍋が早速活躍してて、嬉しいよ。
延々とアクが出てくる鍋の世話をしてる兄ちゃんのそばで、父ちゃんから分けてもらった大麦を眺めてた。
「……君ら、何してんの?」
「「「大麦みてるー」」」
「それは、分かるんだけどさ……」
カゴに敷いた晒し布に包んだ大麦の粒。それを囲んで見つめてる俺ら三つ子を、兄ちゃんが珍しく怪訝な目で見てきてた。
小麦の麦踏みも、干し肉作りの手伝いもせずに、何してるって? 大麦を観察してんだよ。ちゃんと父ちゃんからも許可貰ってんだぞ。午後からは麦踏み手伝えって言われてっけど。
「母ちゃんに聞いたんだけどさー、大麦を粉にしても、でんぷん粉と一緒で、パンにはなんないってー」
「無理やりパンにしても、美味しくなかったってー」
「でもきっと、茹でたりお茶にする以外にも美味しい食べ方があると思うのー」
「ふふっ、本当に君らは、美味しいものが大好きだね」
「「「そうだよー!」」」
なんてったって、最終目標が“白いパン”だからな! 贅沢してぇんだ俺らは!
「いももちに入れて、薄くしてボア脂で焼いたら、旨いんじゃねー?」
「うわっ、ティーチ、それすっごく美味しそう! 食感が出るね!」
「他のに混ぜるのがアリなら、細かくしたお肉と混ぜて焼いても美味しいねー」
「細かくした……? 歯切りのいいお肉なら、サンドしても食べやすいな……」
「スープで炊いた大麦と野菜と干し肉を、牛乳でクタクタに煮込んでも美味しそうー」
「このスープで炊く……? とろとろにしたら、具合悪くても食べられそうだ……!」
俺らの呟きにいちいち反応してくれた兄ちゃんは、盛大に腹を鳴らして、また顔を赤くしてた。三つ子で笑って「「「食べ盛りー」」」って言ったら、ツーンッてされた。「だって美味しそうだったんだもん」ってさ!
味見をしたスープが臭かったのか、顔をしかめた兄ちゃんはお湯を別の鍋に一旦捨てて、新しい水を水瓶から直接注いだ。流石腕力チート級。軽々しくやってるぜ。入れ替えた水が沸くまで、臭いお湯を捨ててきた兄ちゃんも傍に持ってきた椅子に腰掛けて休憩しだした。
「出汁の出来上がり、多分お昼すぎまでかかるけど、今日はこれでスープにしようね。大麦炊いちゃおうか」
「やったぁ!」
「でも兄ちゃん、お野菜入れないのー?」
「玉ギネとか、ジャンジとか、レロルとかー」
「え、い、入れたことなかったけど……」
「「「そーなのー?」」」
おっと、ストロングスタイルの豚骨だししか、まだ無いのか? でも料理上手なご家庭なら、もう香味野菜入れてたりするよな。ストロングスタイルも、それはそれで旨いだろうし。なんてのが脳裏に過ぎってたら、兄ちゃんは肩を揺らして小さく笑ってた。
「美味しいものや便利なものを作ってきた君たちを、兄ちゃんは信じてるよ。よし! ハーブと玉ギネ、あと甘味要因でジンニンも持ってこようかな! すぐ戻ってくるけど、鍋が吹きこぼれないように見ててね!」
「「「はーい!」」」
わーい! 嬉しいお言葉、いただきだぜ! 元々ブラコンシスコン気味な兄ちゃんだから、きっともう疑われることはないぜ! ゲームで言ったら好感度MAXだな!
でっかい寸胴鍋が置かれた即席かまどの火は、燃料の薪が燃え尽きかけて小さくなっていた。「兄ちゃんったらうっかりものだね」って笑って、ミーチを残して俺とターチで薪を取りに行った。そういや、とんこつスープって言ったら俺は白濁系のイメージだけど、昔は福岡も清湯スープ、透き通ったのが一般的だったんだよな。煮込み時間も6時間と3時間で違うらしいし。
一応、燃え過ぎないように追加の薪は一つだけにして、ちゃんと燃え移るように火吹き棒で息を吹き込んだ。そんなこんなしてたら、兄ちゃんが野菜を持って戻ってきた。カゴいっぱいだぁ。
「「「おかえりー」」」
「ただいま。そうそう! さっき父さんに確認したけれど、ウイスキーって発芽した大麦から作られてるんだって」
「ウイスキーが?」
「甘い香りのお酒が?」
「発芽した大麦から?」
あぁ、そうか。酒なんて飲んだことねぇから忘れてた。ジャーキー作りでも使ってんのにな。そうだ、ウイスキーは大麦麦芽からだ。ビールも大昔はパンから出来てたらしいし。ホップってこの辺りにあんのかな。それとも別の植物で風味付けしてんのかな。興味がなさすぎて、村にあるかどうかも知らねぇや……。
「ウイスキーって、甘いのー?」
「いや、蒸留酒だから甘くはないよ。でも発酵させる前の麦汁は甘いらしいから、それを濾した液を煮詰めたら、甘いものが出来るかもね」
知らなかった! 麦汁って、甘いんだ!
まさかの兄ちゃんからの情報提供に、三つ子で顔を見合わせて、ニンマリしちゃったぜ!
「「「作っちゃう~?」」」
「んっ、えっ、あれ? や、やる気になっちゃった?」
「だって兄ちゃんが言ったんじゃん!」
「大麦は美味しいもん!」
「だからきっと、甘くなっても美味しいわ!」
水飴を作るきっかけとして、これ以上ない話の流れだろコレ! 逃してたまるか!
「「「甘いを作るぞー!」」」
話が上手くいきすぎて怖いくらいだが、作れるかどうかは別の話。油断せずにいくぞー!