立てるわ! ろ過器計画!
「何を作るにしても、清潔な水は必須よ!」
今日も今日とて、野菜の天日干しの手伝いの最中。三つ子の紅一点、ミーチがそう切り出した。必死なのは分かるけど、目が怖いって。
木枠の網の上に置いたジンニン(思いっきり人参だ)を重ならないように広げながら、前世っぽい日本の記憶を朧げに思い出した俺たち三つ子は、“白いパン”の為に何が出来るかを会議していた。
「確かに、白いパンを作れたとしても、泥水でやってちゃ茶色パンになっちまうからな」
「今ある水源は雨水と井戸水だしね。泥とまでは言わないけど、生水を一回一回煮沸消毒しなきゃいけないのって、大変だもんね」
「う~ん、塩素とか凝着剤? が無いし、作り方も分からないから、結局煮沸に頼るでしょうけど……。でも、ただの生水を煮沸するのと、濾過した生水を煮沸するのとでは、気分が違うわ!」
「「土の匂いも気になるし!」」
ミーチの熱のある主張に、俺もターチも深く頷いた。
蛇口を捻ればきれいな水が出るって環境の日本は、言わずもがな、浄水技術が世界トップクラス。言われて知っていて恩恵に与りながらも、その仕組みを詳しくは知らなかったりする。
知ってることといえば、ダムから浄水場に水を引いて、泥や砂を沈めて殺菌。細かい汚れや匂いを活性炭で吸着して、後から雑菌が発生しないように塩素も入れて、みたいな。貰ったダムの下敷きに載ってたことしか知らないわ。大量の水を全部煮沸消毒なんて出来ないから、塩素とかの薬品で安全なものにしてるんだろうな。
でも、色々考える、その前に。
「水の話をする前に、規模感の話しねぇ? まさか、ラノベみたいに村の改革に乗り出す、なんて言わないよな」
「え、そこまですんのヤダ」
「私もヤダ。自分たちが贅沢できれば、それでいいもん」
「「だよなー」」
田舎の、山の近くの、農家の、5歳児が、村の改革? 冗談じゃない。そんなの誰が支援してくれんだ。信用してくれんだ。真剣に向き合ってくれんだ。実績も無いのによ。
調子に乗ったら、権利問題とかトラブルが起こったときの責任問題とか、貴族様に目をつけられたりとか、面倒なことに巻き込まれかねない。自分の身は自分でしか守れない。手の届く範囲しか、俺たちは何もできないし、しちゃいけないんだよ。子供だから。
……大体、そこそこ裕福っぽいし、この村。だって、高価だけど、買おうと思えば塩も砂糖も手に入るんだ。質はそんな良くないけど。知識チートは出来なさそう。俺ら自身も馬鹿しかいねぇし。
「まとまったな。俺らは俺らの為だけに、生活向上させるぞー!」
「「おー!」」
母ちゃん似のターチとミーチが、おんなじ笑顔で賛同してくれた。……あれ? そういや俺らって三卵性三つ子? 俺が父ちゃん似ってことは、そういうことだよな? 生命の神秘だぁ。
別のことに意識が飛んでたら、ターチが自分の前に並んだ細切りニンジンを眺めて、「よし!」と頷いた。
「じゃあ水に関する最終目標は、煮沸消毒するタイプの浄水施設を、ウチの為だけに作るって感じだね」
「そうね。次に決めるのは浄水する範囲だけど、飲み水と料理、洗い物、お風呂でも綺麗な水が欲しいわ」
「大きく区切ってっけど、それ日常生活ほとんどじゃね?」
「そっか、そうだね」
井戸水は別にケチらなくてもいいし、なんか考える前に全部沸かせばいっか。あ、沸かした蒸気を蓋で受け止めて貯めれば、蒸留水じゃん。10分は最低沸かしとかないとだし、ただの水蒸気にしとくのは勿体無い!
「折角なら、大きくしたいね。大は小を兼ねるしさ」
「沸かすのに時間が掛かってもしょうもないし、広い鍋、いえ縁のある鉄板で!」
「誰がそんなデッカイやつを扱うんだよ。沸かす部分は小さくていいって。あ、その沸かした水を、保存する水瓶も必要だな」
「容器もろもろは木製になっちゃうかな。壺欲しいけどねー」
「他にも浄水する方法ってあるかしら。きれいな水はあればあるだけいいものね」
「「なー!」」
その後も会議は続いた。細切りや輪切りにされたジンニン・チャガボ・クオラを木枠の網の上に乗せながら、きれいな水を手に入れるまでの道具や手順を整理した。
《手作り浄水ろ過器》
準備するもの
・砂 ・砂利 ・砕いた木炭 ・ガーゼ
・ボトル ・受け皿
・焚き火 ・鍋 ・水瓶
手順
①砂などは別々に、汚れが出なくなるまでキレイに洗う。
②ボトルは水が出る底に小さな穴を1つ、開けておく。大きめの漏斗みたいな形にする。
③ボトルに底から順にガーゼ・砕いた木炭・ガーゼ・砂利・ガーゼ・砂の順に詰めていく。
④汚水を上からゆっくり注いでいく。
⑤濾過された水がある程度貯まったら、煮沸消毒を約10分行う。
⑥消毒を済ませたら冷まして、水瓶に貯めていく。
浄水する為の道具を手に入れる場所・方法
・砂、砂利
川から拾ってくる。
・木炭
家のかまどから。
・ガーゼ
ハンカチとか、着なくなった服の切れ端から。
・ボトル、受け皿
木材で工作する。
・鍋、水瓶
いつも使ってる物を借りる。
「「「完璧だ!」」」
ご満悦な俺らを見て、藁ゴーレムが首を傾げた。……えっ、お前らってもしかして、知性ある? こっわ。犬くらいの知性で頼む。