砂糖って、こんなに高いの!
兄ちゃんが帰ってきて、茹でパンを食べてもらった、次の日! 俺らは村の中央にやって来た! 兄ちゃんに好きなもの買ってもらう為に!
俺は骨から出汁を取る為のでっかい鍋。
ターチはモルトシロップ。
ミーチは水飴。
ミーチは『お砂糖みたいに甘いもの!』って目をキラキラさせて、ターチは『いつものパンに入れても甘くならないくらいの甘いやつ……』って不安そうにおねだりしてた。兄ちゃんはそんな二人に「甘いのが好きだねぇ」ってニコニコして言いつつ、財布の中身を気にしてた。やっぱ高いんだな甘味って。「山の果物じゃ、だめ?」とか代替案を出してくるくらいには。ごめんな、兄ちゃん。精製されたものが欲しいわ。
俺のおねだり品は雑貨道具屋で直ぐに見つかって、買ってもらえた。まぁ俺専用じゃなくって、家族共用になるからな。寸胴鍋みたいなの、高かったけど。
次に向かうは調味料屋さん。スパイス屋さんって言った方がカッコいいか? そこまで荷車で送ってくれた兄ちゃんは俺らを下ろすと、「ギルドからお金下ろしてくるね」って言って、一人で走って行ってしまった。……よっぽど、高いのか。
「先に中に入って、値段確認しようぜ」
「「そうだねー」」
ここで確認だが、この国の貨幣は7種類だ。日本貨幣での感覚も添えると、こんな感じ。
・鉄貨 1円相当
・銅貨 10円
・大銅貨 100円
・銀貨 1、000円
・大銀貨 10、000円
・金貨 100、000円
・大金貨 1、000、000円
・白金貨 10、000、000円
白金貨なんて、王様レベルしか持ってないし使わないでしょ。一千万円の価値のある貨幣とか、使いづらくてありゃしない。俺らがこれから貰えるだろう小遣いだって、穴の空いた鉄貨とか銅貨までだろうし。ちなみに大金貨と白金貨には穴が空いてない。紐に通して持ち運ぶ、なんてことをしないから、らしいよ。
この村で俺らが使ったのことあるの、せいぜい銀貨までなんだけど。こないだランタンオイル15瓶分買った時に使ったな。小さいガラス瓶1つ辺り、約67円。本当は1瓶銅貨7枚の70円相当が、まとめ買いで銅貨5枚分50円相当が値引きされてる。お得だぜ!
小さな瓶1つで一家の灯りが7日間保つランタンオイル(早朝と夜しか使わないから)。村生産で一日銅貨一枚なランタンオイルに比べて、国内3つ隣村からの塩は1袋1kgくらいで銀貨二枚2000円。完全に輸入品の砂糖に至っては──
「「「ひ、一瓶、金貨1枚!?」」」
「良い反応いただきました~♡」
50gも入って無いかもしれない、赤いリボンで可愛いラッピングされた小さな瓶。ほんのり茶色いが白と言っていい砂糖が、これだけで、10万円!? どこの富豪が買うんだよ! この村には居ねぇぞ!? なんで仕入れた!?
子供の手が届かない位置に置かれたそれを見上げる俺らを、スパイス屋のお姉さん、カジャがカウンターから楽しそうに見ている。ちょっと意地悪じゃな~い? フンッ!
「お砂糖って、こんなに高いんだなー」
「どうしてー? 遠くから運んでるからー?」
「お砂糖の材料も高いのー?」
「そうねぇ。材料というより、潰したり煮詰めたりって作業が大変みたいよ。しかも、かなり遠い国から、山を越えてやってくるし。盗賊や魔物・魔獣たちの脅威を乗り越えてくるから、高いのよ。……中抜きもされてるだろうしね」
最後にボソッと呟かれたのは、聞かなかったことにしよう。聞かせたくなさそうだし。
そっか、製造コストも輸送コストもバカみたいに高いのか。でも、砂糖しかねぇのか?
「それに、砂糖って薬みたいなところあるからね。気分がいいから私は飾るように砂糖を置いてるけど」
「「「そーなんだー」」」
そういや聞いたことあんな。江戸時代あたりまで、砂糖って医薬品だったんだっけ。だから水飴が身近で、みたいな。で、江戸時代に砂糖を混ぜた、飴細工が流行った云々かんぬん。
「なぁなぁカジャ姉ちゃん。もっと安い甘いやつってないの?」
「砂糖みたいに白くなくていいんだけど……」
「サラサラじゃなくてもいいよー!」
「砂糖じゃなくてもいいなら……」
俺らのリクエストに応じて、カジャ姉さんはカウンターから出てきて棚を探してくれた。俺ら五歳児じゃ、棚に手が届かねぇからな。まだ器用じゃない手で触って壊したら大変だし。ていうか、天井からハーブ吊るしすぎだろ。お姉さん、こっち来る時に頭にわさわさ当たってたぞ。
「やっぱりお小遣いじゃ買えないけど、こっちはどう?」
「「「これって、ハチミツ?」」」
「そうよ」
棚を物色してたカジャ姉さんが俺らに見せてくれたのは、琥珀色の艶やかな蜜。ハチミツだ。取り出したところの値札を見たら、ランタンオイル並の小さい瓶でも大銀貨5枚。5万円だ。砂糖よりはずっと量もあるし、良心的だ。でも高い。
「季節物だし、養蜂は大変だからね。でも隣村で輸送は楽だから、この値段で済んでるわ」
「そうだよなー」
「……でも、高いねー」
「兄ちゃんにおねだりするには、高すぎるー」
「そう思うんなら、大人しく果物で我慢しなー。今ならオレンジとかリンゴとか並んでるんじゃない?」
兄ちゃんのお財布事情を慮るなら、その通りなんだよ。でも、もうちょい粘りたい。水飴、ねぇのかな。モルトシロップとか、偶発的に見つかってねぇのかな。
「果物から砂糖って作れないのー?」
「そもそも砂糖って何から出来てるのー?」
「なんだっけ、樹液からだっけー?」
「んー、サトウオオネとか、サトウノキとからしいけど……」
砂糖大根とサトウカエデらしきもの、からか。サトウキビとかはまだ無いのか?
「「「ここで取れるものからじゃムリなのー?」」」
「この村で甘いものが生産できるなら、私はもっともっと裕福になってるわねー」
「「「そっかー」」」
十分すぎるくらい充足してると思うんだけどなぁ。ここを噂の王都にでもしたいのか、カジャ姉さん。
でも、そっか。水飴も、モルトシロップも、今のところ無いのか。少なくとも、この村には。
フハハハー! 無いなら、作ればいいのさ!