茹でパンとボア肉! いただきまーす!
早く俺らに会いたすぎて昼飯を抜いちゃった愛しい兄ちゃんの為に、いももちを作った俺ら。兄ちゃんにもガジャ芋の薄切りや混ぜるのを手伝ってもらったから、昨日より早く出来上がった!
さっき父ちゃんからちょっと貰った猪の脂でいももちを焼いたら、これがもう絶品! 塊肉をソミュール液に浸しながらイチャイチャしてる父ちゃん母ちゃんたちにもお裾分けしたら、家の中に戻って、おやつ替わりにいももちを食べてた。ラード風味がいいねー。ちょっと獣臭く思えるのは、思い込み?
さて、黙ってると父ちゃん達の手伝いに行きかねない兄ちゃんにリラックスしてもらう為にも、俺らがここでお喋りしなきゃなぁ!
「なぁなぁ兄ちゃん! ジンニンのガジャ芋包み焼き! おいしーい?」
「勿論! 元々ガジャ芋は煮ても焼いても蒸しても美味しくて使いやすいけれど、これは更に可能性を感じるよ!」
「「「でしょー!」」」
「今の、温野菜を包んでるのも美味しいけれど、ほぐした味付け肉なんて包んだら……ハッ!」
想像しただけで兄ちゃんはヨダレを垂らして、また『ぐぅうう~』って盛大に腹の虫を鳴らした。食べながら別の料理を思い浮かべて、お腹空かせるなんて!
「「「も~! 兄ちゃんの食いしん坊~!」」」
「た、食べ盛りだもん!」
また耳を真っ赤にしてそっぽを向いた兄ちゃんが面白くて、俺らはもっと笑っちまった。父ちゃんと母ちゃんに頼み込んで、ほぐし肉の分を分けてもらおう。それを次の山狩りでのお弁当にしてもらってさ!
俺らが一頻り笑って落ち着いてきた頃、とんがらせた唇を元に戻した兄ちゃんが微笑んで、俺らの顔を見渡した。
「それはそうとさ。今回の依頼報酬は結構弾んだから、ろ過器やこの包み焼きの発明のお礼に、プレゼントしたいなって思ってんだ」
「「「プレゼント!」」」
「うん。村の中央で好きなもの買っていいよ。お値段ともちょっと相談だけど」
「「「やったー!」」」
ろ過器作る前と同じ、またボーナスチャンスだ! 今回はターチとミーチに大きなチャンスが……! あっという間に白いパンが焼けるぞ! 全粒粉の茶色が許せるなら! 俺はそれに合わせるスープの為の、でっかい鍋でもおねだりしようかな! 骨から出汁とるぜ!
三つ子集まってヒソヒソ話してたら、兄ちゃんは笑顔を引きつらせて、「さ、サイズも相談させてね……?」って釘を刺してきた。
「それじゃ、明日までに考えといてね」
「「「兄ちゃんは何買うのー?」」」
「俺? 俺は……父さんと母さんって、何あげたら喜ぶかな」
「「「自分の買えー!」」」
これから寒くなるし、布団を新調でもしたらー! 兄ちゃんが風邪引くところなんて見たことないけど!
小腹を満たした兄ちゃんはこのあと、ボアの皮を鞣すって言って、皮に付いた肉や脂をナイフで削いでいった。皮に穴を開けられないから、俺らが出来ることは、特にない。
兄ちゃんがボアの皮から肉や脂をナイフで削いで鞣していく様を横目に、俺ら三つ子は焚き火の近くで薪割りをした。今日は台所に外のボア捌きの暖房や蒸し風呂、いつもの井戸水の煮沸消毒の為の焚き火で、鉈と持ちやすい木材で丸太を6等分にしていった。かなりの数を消費したからな。使えるまでに乾燥させるのに丸一年とか、結構時間かかるのに、贅沢しちまった。灰も余すことなく肥料や洗剤がわりにしなきゃ。
焚き火を真ん中にして全員近くにいるのに、会話は無い。けれど気まずさも無い。家族の距離感って、こんなもんよな。各々作業してるわけだし。さ、ミーチが置いた丸太に鉈を軽く突き立ててっと。ターチが上から木材でタン、タン、タン。カコンッ。
役割を入れ替えながら薪割りに没頭してたら、夕飯準備の時間はとっくに過ぎてたらしい。十分に熱された鉄板に置かれた獣脂がジュ~ッと焼けて、溶けて立つ肉の匂い。聴覚と嗅覚を刺激されて、やっと空が夕焼けに染まってるって気付いた。俺たち三つ子の腹が、空いてることも。
「「「おなかすいたー!」」」
「ふふふっ、そうよね。薪割りありがとう。薪と斧を片付けて、手を洗ったら座りなさいね」
「「「はーい!」」」
「今日はぶつ切りにしたから、早く焼きあがるわよ! 急いでー」
「「「わかったー!」」」
大人組は厚切りとウェルダンが好きなのに、珍しい。あ、あれか。ガジャ芋茹でパンで挟むから。固くて噛み切れない、なんてのが肉でも解消されてるぜ!
肉が焼けるジュ~ッって音と、香ばしい匂い。肉の世話をする父ちゃんの手さばきを眺めつつ、外に出したテーブルの上に食器を並べて、中央にガジャ芋茹でパンの籠を置いた。今日はいつものステーキとは違って、焼けた分から食べてっていいって! あと、今日くらいは野菜食べなくてもイイってさ! 肉とパンだけの、ストロングスタイルだ! チーズ欲しい!
「「「いっただっきまーす!」」」
一枚の茹でパンを糸で更に薄く切り、間にボアのぶつ切り肉を挟んだ。バーガーにしたそれにかぶりつけば! むっちむちなバンズに、塩と名前の知らないハーブが効いて美味しい肉が! 滲む肉汁が!
「「「おーいしー!」」」
味の強い肉を、上下の茹でパンが優しく包み込んでる。味のバランスがいいぞ、これ!
兄ちゃんたち大人組は茹でパンをボアの脂で焦げ目がつくまで焼いて、お行儀よくナイフとフォークで切って食べてた。そっちはそっちで美味い脂を余すことなく楽しめていいな。
「形を保った潰し芋って感じね。肉と合わせるともっと美味しいわ」
「……これ自体に味がそこまで無いから、肉のパンチを受け止めてくれている。いいな」
「柔らかい食感って、正直食べた気がしてなかったんだけど、これは肉をもっと進めさせる良いパートナーになってる! ガジャ芋が元だから腹にもたまりそう! 美味しいよ、ティーチ、ターチ、ミーチ!」
「「「へへへー!」」」
食レポしてくれてるー! 美味しいって言ってくれてるー! うれしー!
けど、挟んで食べるのも美味しいぞ! ほら、やってみて兄ちゃん!