兄ちゃんに茹でパン作り、お披露目よ!
ジンニンと一緒に茹でて、先に茹で上がったガジャ芋をお玉で掬ってざるに移して水を切ってたら、兄ちゃんが家の中に入ってきた。うっそ、そんなに時間経ってた?
「ほんとに、台所で料理してるんだねぇ。すごいや」
「兄ちゃん、ちゃんと蒸し風呂であったまった?」
「もしかして、火が消えちゃった?」
「一人だけでも、ちゃんと火のお世話しとけば良かったね……」
「違うって。皆が忙しそうにしてる中じゃ、落ち着かなかっただけ。それでもしっかりあったまったから、大丈夫だよ。ほら」
「「「ホントだ、ほかほか~!」」」
差し出された兄ちゃんの手に触れたら、確かにほかほかで暖かかった。決して、兄ちゃんが見た目以上の筋肉ダルマで、新陳代謝がいいから、とかじゃないよな?
「ねぇ、ティーチ、ターチ、ミーチ。兄ちゃんにもパン作り、手伝わせてくれる?」
「「「いいよー!」」」
「まずなー、お湯をきったガジャ芋を潰すんだー!」
「そしたら卵とかでんぷん粉とかを入れて、混ぜるのー!」
「粉っぽくなくなるまで混ぜたら、バゲットみたいな形に整えてー!」
「「「火が通るまで茹でるのー!」」」
「ほ、本当に茹でるんだなぁ……」
まだジンニンを茹でてる、お湯がボコボコ沸騰してる鍋を見て、兄ちゃんは目を丸くしてた。ふふーん、びっくりだろー!
兄ちゃんに手伝ってもらった結果、作業時間はいももち(温野菜のガジャ芋包み焼き)よりもずっと短縮された。茹でたガジャ芋を潰すのも、他の材料と混ぜるのも練り合わせるのも、全部兄ちゃんの右手で直ぐに終わっちゃった。兄ちゃんのパワーと熱さを感じにくい分厚い皮膚と、繊細な力加減のおかげで。俺らが昨日、あんだけ苦労したのはなんだったのかってレベル……。っぱ、一家に一台、兄ちゃんだな!
太めの麺棒の形に整えるのは俺らに任せてもらって、煮えたジンニンを取り出した鍋のお湯に、生地を入れた。今回は打ち粉をした布で包んでな。
「「「あとは待つだけ~」」」
「これでパンが出来るなんて……。殆どガジャ芋だったけど」
「そうだぜ! だからパンっていうか、むっちりしたガジャ芋って感じになるぜ!」
「昨日お試しでこの生地で温野菜を包んだものを作ったんだけど、美味しかったよ!」
「これなら顎もこめかみも痛くならないで、お腹いっぱい食べられるよー!」
「なるほどなぁ。茹で上がりが楽しみだよ」
「「「ねー!」」」
おっと、ボッコボコに沸騰させちゃダメなんだった。火加減気をつけよー。
大体25分くらい経ったら、ガジャ芋のクネドリーキをお湯から取り出して、網に上げてから包んでた布を外す。一連は熱さ耐性バグレベルの兄ちゃんにお任せした。お~! 湯気がモクモク! すごーい!
まだ熱いうちに、糸で切り分けてっと。おおっ! こないだの残りパンのクネドリーキよりも中身詰まってて、むっちむち! アッチチチッ!
「「「できたー! はい、兄ちゃん! 一切れ味見どーぞ!」」」
「ありがとう!」
俺が代表して兄ちゃんに一切れ手渡したら、心底嬉しそうにした兄ちゃんはふーふーしてから、一口パクりっ。モニュモニュ咀嚼して、「思ってたより、パンだ」って目を丸くした。だろー?
「これで完成かぁ。確かにこれだけ柔らかいなら、3人も食べるのに苦労しないね。自分たちで解決策を見つけるなんて、すごいよ、ティーチ、ターチ、ミーチ!」
「「「へへへー!」」」
「ふふっ。この茹でパンに合わせて、こっちも肉も柔らかくしなきゃだね。筋切りと肉たたき、頑張らなきゃな!」
「「「散り散りにしないでねー?」」」
「わ、わかってるよ……」
前科あるからな、兄ちゃん。二角ウサギの肩肉をブチュッと潰して、あたりに肉片が飛び散ったから。外でよかった。
出来上がったガジャ芋の茹でパンに布を被せて、外でボアを解体してる父ちゃん母ちゃんのとこに向かった。うぅ、寒い。そろそろ冬だ。あ、もう皮は剥がされて、肉が大きめに解体されてる。内臓は兄ちゃんが山で取り出して、もう埋めてあるんだろうな。二角ウサギの時もそうだった。
解体してる場所では、暖房と解体ナイフについた脂を溶かし落とす為に、焚き火で鍋の湯が沸かされてる。母ちゃんたち、寒くなさそうで安心したー。その他にも“ソミュール液”っていう、兄ちゃんが山から摘んできた良い香りの葉っぱや塩、水、そしてウイスキーを混ぜて煮立たせた液が入ったボウルが、解体した肉を入れる壺の隣にあった。アレに一晩漬けて、明日はジャーキー作りを手伝うことになるんだろうね。
「「「茹でパン、できたよー!」」」
「あら、まだ夕方にもなってないのに、早いわね!」
あ、ホントだ。全然明るいや。切ったジンニン茹でちゃったけど、意味なかったかー。
「……肉を焼くときに、溶け出した脂で一緒に焼けばいいさ」
「それもそうね」
「「「父ちゃん、いい考えだね!」」」
「父さん、母さん、手伝えることある? っ、あ」
手伝いを名乗り上げたとたん、兄ちゃんの腹が、結構派手に「ぐぅううぅ」って鳴った。思わずって感じで腹に手を当てた兄ちゃんの耳が、真っ赤になってた。
「……あと、早めに夕飯になっても、俺はいいと思うんだけど」
「まぁ、お昼抜いちゃったの? しょうがないわねぇ。ねぇティーチ・ターチ・ミーチ。昨日の包み焼き、作ってあげられる?」
「「「できるー!」」」
付け合わせに茹でてたジンニンをちょっと潰して、塩を混ぜたら、ジンニンのガジャ芋包み焼きが出来る! そうと決まれば、さっさと芋を切って茹でるぞー!
「薄く切ったそばから茹でれば、さっさと火が通るんじゃねー?」
「それいいねー! ティーチ、切るの任せたー!」
「私は先にジンニン潰しとくねー!」
「役割分担、上手くやってるなぁ」
「「「兄ちゃんは、潰すの手伝ってー!」」」
「はーい!」