ガジャ芋からでんぷん、取り出すわよ!
サブタイトルは誤字じゃないです()
朝ラックを再現するだとか、水飴を見つけるとか、モルトシロップを作るとか。各々目標を定めたけれど、直近の目標を忘れちゃいけない。『ガジャ芋入りクネドリーキ』及び、『おやき・肉まんの再発明』だ。
「蒸し器があるから、下の鍋でクネドリーキを茹でながら、上の蒸気で肉まんが作れる。小龍包でも、焼売でも、肉団子でもいいぞ」
「テレビで見たよ、ある豆腐屋さんが水で戻してすり潰した大豆を蒸気加熱する時に、ついでに団子も蒸しちゃうって話!」
「20分も茹でるんだもの。活用しない手は無いわ。ただ、何を蒸すかよね。小麦粉もお肉も、たくさんは分けてくれないわ」
「「「……結局、蒸し野菜かぁ」」」
いや、悪い訳じゃないんだけどな? カボチャとかニンジンとか、甘くて好きだぜ俺。
兄ちゃんが居ないのに肉を贅沢に食うのは違うけど、兄ちゃんには旨いもん食って欲しい。その為に一回練習で作りたい。でも、無い袖は振れないし……。
「一回、効率は捨てようぜ。ガジャ芋のクネドリーキが出来るかも分かんねぇんだし」
「そうだね。小麦粉はともかく、いつも食べてるガジャ芋なら、多めに使っても許してくれるだろうし」
「なんなら私たちで育ててもいいわよね。そろそろお試しで世話させるかって話、お父さんとお母さん、してたわよ」
じゃがいもなら三つ子の力を合わせれば、きっと上手く育つ。クネドリーキ以外にも、俺の目標のハッシュドポテトも作れる。ついでに片栗粉も作れる! 楽しみだー!
「んっ? 片栗粉なら、今でも作れるか」
「あ、そうだね。擦りおろして、水に浸せば、作れるハズだよ」
「ふふんっ! 濯ぐには大量の水が必要よね! ろ過器を閃いた私に感謝しなさい!」
「「ありがたや~!」」
思い立ったが吉日! 父ちゃんに言って麦踏みを切り上げさせてもらったら、母ちゃんに擦りおろし器とたくさんのボウルと布巾、そして出来の悪いガジャ芋を分けてもらうようにお願いした。「どうしてわざわざコンポスト行きを?」って首を傾げられたけど、そこは三つ子揃ってかわい~く、「「「ひみつー!」」」って言って誤魔化したわ。
藁ゴーレムちゃんたちが畑仕事を頑張ってるおかげで、種芋にもならない悪いガジャ芋は少ないみたい。でも20個くらいあったから、俺らで管理する水瓶の近くに持ってきてもらった。水がたくさん必要だからな!
話し合った結果、俺が悪くなってるところや芽を切って捨てて、大丈夫なところをミーチがおろし器で擦りおろして、ターチが井戸水をろ過したり煮沸する係になった。
「これ、熱いし重いしで、僕が一番重労働じゃない?」
「代わりに火起こししてやったじゃん。俺もナイフ使ってて危ねぇぞ」
「ずっと力を入れなきゃ擦れない私だって大変よ。皆それぞれ大変なんだから、どうしてもじゃないなら文句言わないでよね」
「ぶー」
まぁ、切り分けるガジャ芋の数が少ない俺が一番楽なのは自覚してるから、終わらせたら煮沸消毒した水を冷ますの手伝おう。
ミーチによって擦りおろされたガジャ芋を3枚の布巾で包んで、水を張ったボウルの中に入れて、もみもみする。するとあっという間に水が赤みがかったガジャ芋色に染まっていくんだけど、より濃く抽出する為に、10分しつこく揉み続けた。
「2kgくらいかしら。結構な量が擦りおろせたけど、これからどれほど片栗粉が取れるんでしょうね」
「搾りかすの方が多そうだよな。20分の1とかか?」
「つまり100gくらいってこと? うーん、3%しか取れない海水からの塩と比べたら、楽?」
「「調味料が高いわけだぁ」」
もう溶け出さねぇだろってなるくらい、水が赤いガジャ芋色に濁ったら、漉し布を絞りきって、デンプンが沈むまでボウルを放置する。搾りかすのガジャ芋は干し網に広げて乾かして、大丈夫そうなら明日の鶏たちの餌に、ダメならまたコンポスター行きだ。傷んだところは大きめにカットしといたけど、な。
水瓶から減った分だけ井戸水を煮沸消毒して補充しながら、デンプンが沈むのを待つ。沈んだら水を捨てて、新しく水を入れてかき混ぜて洗って、またデンプンを沈ませて、水を捨てて、沈ませて。水が濁らなくなったら、白く残ったデンプンを平皿の上に広げた。うん、100gくらい出来たな。ここから乾くまで放置だ。
ふー! ぶっ通しで作業が続いて、すっかり日が傾いてるぜ! 寒くなってきた。そろそろ冬だなー。
「ティーチ、ターチ、ミーチ! 蒸し風呂の用意しておいて!」
「「「はーい!」」」
ちょうどいいタイミングで父ちゃんに遠くから言われて、俺たちはまだ元気に燃える焚き火を、トングで慎重に、蒸し風呂の焚き火部分に運んだ。俺が蒸気用の水入り鍋を運んできて、ターチが火加減を見て、ミーチが箱蒸し風呂の中を軽く布で磨いてった。ふう! 今日もいい仕事したぜ!
風呂の用意が出来たら、母ちゃんと一緒に三つ子揃って箱蒸し風呂に入った。兄ちゃん専用のとは違って、こっちは顔を出す穴は無くて、クローゼットくらい大きい箱だ。すき間風が通るくらいには緩い作りだから、窒息することは無い。
照明は入れてない暗い箱の中では、じっくり蒸気に当たる以外にすることはない。だからいつも、自然とおしゃべりする事になる。今日の話題は、午後の俺らが何をしてたか、だ。
「肥料になるはずのガジャ芋で、でんぷん粉を作ってたみたいだけど。どうして?」
「「「えっ、見てたの?」」」
「そりゃあ、火事にならないか見張らなきゃねぇ。まぁあなたたちのことだし、特に心配はしてなかったわよ。遠くからでもテキパキしてたわね」
「「「ふふーん!」」」
“遠くからでも”、か! あっぶね! 声聞こえる距離だったら、5歳児らしくない喋り方なのがバレてた! 今が暗闇で助かった! 表情が読まれなくて済んだ!
なんとかやり過ごせて安心してふんぞり返ってたんだけど、母ちゃんが「でも」なんて続けるから、また怖くなった。まだ、何かあるの?
「……もしかして、小麦粉の代わりに、でんぷん粉であの茹でるパンを作ろうとしてるの? なら考え直しなさい。あれは火を通してもトロトロになって、パンにならないわ」
暗くて見えないけど、多分真剣な顔して、母ちゃんが忠告してくれた。そうだ、片栗粉は、でんぷん粉はもう普通にあるんだった。とろみ付けに、芋団子ももう、あったじゃん。作んなくてもあるのに、なにしてんだろ。
「あ、あのな、か、で、でんぷん粉だけでじゃなくてよ、ガジャ芋に混ぜてまとまるようにしたら、パンっぽくなるんじゃないかって!」
「蒸して潰したガジャ芋をまとめる為にでんぷん粉を入れて、でっかい芋団子作ろうってなってね!」
「でっかい芋団子の中には、蒸し野菜を入れるの! そしたら茹でる時間が短くなるでしょー?」
「うふふ、そうなのね。それは美味しそう! あ、でもその包んだ料理は、茹でるより両面こんがり焼いた方が、美味しそうかも?」
「「「おいしそー!」」」
確かに! いももちは焼く! クネドリーキどこいった!?
俺たちのアイディアを気に入ってくれた母ちゃんが「じゃあ明日のお昼ごはんは、一緒に作ろうか!」って誘ってくれたから、三つ子揃って「「「うん!」」」って元気に頷いた! 明日も実験だー!