第二幕3話 魔棟《三号棟》
完全復活!!
「よいしょっと」
物を持ながら壁登るって結構きついな、とりあえず今の時間は……もう夕暮れ過ぎだな。
「戻るか、」
床の扉を閉め、カーペットを引き直し、俺は小屋を出た。
「お、戻ったねアル。」
「マルタさん。一通り清掃と修繕を……」
「あーったくそんなのはどーでもいいよ。……どうだった? あの小屋の下、見たんだろ? その本はあそこにあったもんだしね。」
……見たらダメなわけではなかった、よかった。
「なんとなく、聞いたことがあった気がしました」
「そりゃそうだろうよ。何せその本は『世界三代童話』の一つ、その原本さね」
童話、
「えっ、じゃあ」この中身って……
「ほぼおとぎ話さ、一応、歴史書らしいけどね?」
持って帰ってきた意味、なくなった……。
「ま、とりあえず着替えて、三人を呼んできな! 飯にするよ。」
精神的な疲れにより、ふらふらと2号棟へ向かう。
「……ん?」
ふと窓の方を見ると一人の女性が庭の真ん中に立っている。
「あれは、精霊術か。」
魔力を直に魔法に変換する魔法と違い、魔力を精霊に渡すことで代わりに魔法を使用してもらう、それが精霊術。
厳密にはもっと応用法があるらしいし精霊との契約次第で自由にやれるらしいけど、
「俺なぜか精霊には好かれないんだよなーって、あの人エルフか」
眺めているとその人物が人ではなく、エルフと呼ばれる種族なのに気づいた。
エルフは特に魔術師より精霊術師の方が多い、確か神に対しての信仰よりも精霊に対しての信仰が高い、とかだった気がする。
……やっぱり精霊術って綺麗だな。綺麗だ。
なんて考えているとエルフの人がこちらを向いて話しかけてきた。
「 」
「なんて言ってるかさっぱりわからん」
まあまず窓越しなのとかなり距離があることで聞こえるわけが……
「いつまで見ているのか聞いているんですが、」
ん? っていつの間に後ろに!
「こんにちは、いえ、もうこんばんはですね。私はシア、シア・ルウェンティです。あなた名前は?」
「アルレルト・グレアです、、。」
シア・ルウェンティ、確か去年の剣舞祭で圧勝したっていう『剣聖』の称号持ち。
「アルレルト……ああ、アルスの弟」
「あ、兄を知ってるんですね。」
「……えぇ、私に唯一勝てるかもしれなかった人だもの。」
アルス兄さん、すげえ
「すいません。あまりにも綺麗な精霊術だったので、気を散らしてしまったのなら申し訳ありません。」
「私は大丈夫。ただ、精霊たちはあなたがこちらを見てからずっとざわついて、宥めるのに苦労したわ。」
「昔から精霊にあまり好かれないっぽくて。それじゃ、もう行きますからお邪魔してすいませんでした。」
頭を下げ、その場を後にした。
「おーい、3人ともー」
あれ、二号棟の談話室にいると思ったんだけどいない。部屋にもいなかったし、どこいったんだ? ……まさか三号棟の中に入ったとか、
「……ないと思うが、一応行くか、」
三号棟、『魔棟』とも呼ばれていて良くない噂が多い。なんでも、三号棟を建てる時に魔物が大量発生したとかなんとかで、
「あんま行きたくないよなー」
三号棟へと伝わる渡り廊下、いつもは結界とバリケードによって塞がれているのだが、ちょうど人一人通れるぐらいの穴が空いている。
自身に【身体強化】【認識強化】【魔法耐性】を付与し、片手剣を生成。
俺は不安感と焦燥感を手に暗闇へと踏み込んだ。
三号棟に入った俺が思ったのは、埃すごっ! 暗っ! モンスター多! だった。
ここが学園内の寮だというのを忘れさせるレベルでモンスターが湧いている。真っ直ぐ廊下を歩いているだけで狩狼と呼ばれる小型のモンスターと近縁種である黒狼が襲ってくる。しかもかなりの量。
後から後に湧いてくるモンスターを捌き切るのはかなり体力を消費するため、途中で「ここ全体焼き払って……」とか思ったけどそれをしたら何言われるかわからないからやめた。
ってか、やっぱ多いわ! しかもちょっとデカいの混ざり始めたし!
「中型種か。」
確か暗黒狼……いや、毛並みが影狼っぽい? ってことは間をとって灰狼?
「どっちにしろやれば解決。」
聖属性中級魔法「[聖十字]!」
目の前に立ち塞がるいぬっころどもに向けて指を構える。それぞれの頭上に十字架が現れ貫いていく。
やっぱり狭いとこでの戦闘は全体攻撃に限るな。と言っても二匹も避けてしまった。いずれも中型
……飛び込んでくる、絶対に。2匹なら挟み込んでくるかな。
なら、片側だけに障壁。もう片方は、剣でやろう。
挟んできた、背中と前。予定通り後ろに障壁、前のやつに対して剣を構える。
二体が同時に飛びかかる。俺は踏み込みながら懐へ潜るとガラ空きな腹に剣を突き刺す。
魔石が割れた独特の音を確認し、振り返る。
「ちゃんとぶつかってくれたな」
後ろに回り込んでいたやつは障壁と頭をぶつけ、転げ回っている。その喉元に容赦なく剣を突き刺す。
「よし、引き続き進んで……今ここが2階だから、次の階が頂上か。一旦端まで行ってから、戻ってくるか。」
おれが一歩踏み出したその時、目の前に広がる闇から黒い突撃槍が飛来する。
「おわっ、あぶっ!」
なんとか避けた……けどなんで急にこんなもの……
『良く避けました。及第点ですね。』
俺は視線を闇の中へ戻し、すぐさま《鑑定》を発動する。
__________________
LV.73
???
魔族
???
暗触
黒煙
露獄
__________________
知らん能力ばっかだな。ってか表記増えてる。……レベルねー、……まいっか。
『何か考え事ですか? 天崎時雨君。』
こいつ、
「お前、なんで俺の名前を」
『貴方は危険だ。死神を倒し、その魂までもを浄化させ、何より……』
未だ闇から姿を見せない奴はこちらへ槍を向け続ける
『貴方の"血"は早急に消さねばならぬのです。』
そのまま槍が飛んできた。
「ランスって、飛ばすもんじゃないだろ!」
俺は身を屈めながら初級魔法を連打する。だが、それらは全て、奴が纏う闇に吸い込まれていく。
『魔法は意味がないことぐらい理解しているでしょう? 我々は魔素を直接吸収し魔法を使う。魔力すらも私たちの力になる。貴方とは最悪の相性でしょう?』
確かに、言われてみればかなり最悪だ。
俺は基本的に一人で戦う際は魔法を主体に動く。剣も確かに使えるがあまり好かないところがある。だからこそパーティーメンバーも物理、近距離の3人だ。
今回はそこを突かれた。
「ぐっ、」
飛来するランスが右腕に掠る。皮膚が焼ける痛みを感じながら目の前の階段を駆け上がる。
『逃げてばかりではつまらないですよ』
何十もの槍先がこちらへ向かってくる。
『最後に一つ、冥土の土産として、名を名乗っておきましょうか。我が名はノーティス、以後お見知り置きを、』
俺は己の無力さを感じながら数多の槍に突き刺された。
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