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第6話 家庭は笑いが絶えないのが良い

「なっ! なっ! なぁあああああああああ!?」

「なに?! このデッカイのーーー!!」

「こっ、これは一体?!」


慌ててるのは、薄っぺらな二枚目ジュリアンとキャサリン嬢。

それにハゲデブの町長である。

俺の部下の衛兵達はさすがにもう少し冷静。


「この巨大な図体、九つの首!」

「これは間違いなく山で暴れていた魔物ヒュドラ!」

「死んでいる!

 誰が一体と言うか、何故ここにヒュドラの死体が……」



「何を言っている。

 黄金勇者様が倒したに決まっているでは無いか」


銀鎧の俺の従者が言う。


その通りである。

俺は瞬間移動で東の山まで行った。

朝の散歩と言うヤツだ。

ついでに魔力を出してる魔物を全て剣で切り殺していたら、あのヒュドラが出てきたのである。


「そんな……バカな……」


薄ぺっら男は青くなって震えている。

もう死んでるってのに魔物を見ただけで怖いのか。

臆病なヤツだな。


「勇者様お一人で倒したのですか?」


町長が驚愕の表情で訊くので俺は素直に答える。


「そうだよ、メンドくさかったぞ。

 こいつ一本首を切り落としても、まだ暴れやがんの。

 しょうがないからハジから叩っ切ってやっと動かなくなってから運ぼうと思ったら又重いんでやんの。

 朝の運動は大事と思わなきゃやってられなかったな」


「あのヒュドラをたった一人で倒すなんて」

「百人の討伐隊が誰一人帰ってこなかった、ってのに」

「やはりこの方は本物の黄金勇者」


部下どもが呆然と俺を見つめる。

トーゼンだな。


「さすがです。

 ヒュドラの体からは貴重な材料が多数取れる。

 この一体だけで宝の山と言えます」


俺の従者が言う。

そうだよ。

お前が昨日そんな事言ってたからワザワザ運んで来たんだ。


町長が息を呑む。


「お宝……ヒュドラの内臓は毒物やら何やら貴重な薬品の材料になった筈。

 外面を覆う鱗も防具として使えばお宝クラス……

 勇者様、ヒュドラの処分はどうなさるので。

 王都にこの巨大な図体を運ぶのは大変でしょう。

 良ければ私の方で何とかいたしますが……」


「うーん、任せてやっても良いけど……」


俺はチラリと町長とその横にいる薄っぺらな二枚目とキャサリン嬢に視線をやる。


「お前の娘ってば、俺をニセモノ呼ばわりしたヤツにくっついてるしな~」


キャサリン嬢は薄っぺら男の隣から慌てて飛びのいた。

俺が驚くほど素早く、俺の横に現れてイロっぽい仕草で俺の胸に飛び込んで来る。


「勇者様、ワタシ変な男に近くに寄って来られて怖かった。

 ああっ、勇者様のおそばに居ると安心しますわ」


「勇者様、私は信じておりましたぞ。

 勇者様をニセモノかもしれないなどとタワケた事を言い出したのはあのバカ者です。

 私は一切関係ありません」


「そんな町長、アナタは以前言ってくれたでは無いですか。

 娘と結婚すれば我らは親子、ジュリアン君も自分を父と思ってくれ、と」


町長も薄っぺらを突き放すが、薄っぺら男は町長に付きまとう。


「そんな事言った覚えは無い。

 勇者様、違うんですよ。

 コイツのデタラメです。

 こいつ村でも有名な貧乏家庭なんです。

 イヤですねー、貧乏人はすぐウソをつく」


「ほー、この男貧乏なのか」


「はい、親父が商売に失敗して借金をこさえまして。

 コイツの顔を見れば分かるでしょ。

 貧乏だけどまぁまぁ造作は良い。

 母親も貧乏だけど美人なもんで、周囲の男にタカって暮らしてるんです。

 このガキも顔が良いから女教師に取り入って勉強が出来るなんてフリをして奨学金をせしめてる小狡いヤツなんですよ」


へー。

親が親なら子も子だな。

小狡い男は顔を真っ赤にしている。


「違うっ!

 母を侮辱するな!

 女手一つで僕を育ててくれたんだ。

 それに報いる為、僕は必死で勉強した。

 奨学金はその結果だ  

 卑怯な手段なぞ一切使っていない」


「へー、そうですか」

「こいつ男のくせに半分泣いてるぜ」

「自分の悪事が暴かれたモンで泣いて誤魔化そうってか」


貧乏人が何か言ってる事に俺の部下が対応している。

さすが俺の部下達、相手がろくでもない卑怯者でもちゃんと対応する良い奴らだ。


さってと俺はもう行くとするか。


「ああ、勇者様どちらへ?」


歩き出した俺を町長が追ってくる。


「朝メシだ。

 朝の運動で腹が減ったからな」

「分かりました。

 キャサリン、すぐに勇者様のお食事をご用意してあげなさい」


キャサリン嬢は俺と薄っぺらな二枚目を交互に見てグズグズしている。

その顔には少し同情したような色がある。


「キャサリン嬢、行かないのか?」


俺が声をかけると飛び跳ねた。


「はいっ、勇者様すぐ参ります」


「キャサリン、キミは……

 君と僕は愛を誓った筈じゃ無かったのか」


貧乏人が何か言っている。


「キャサリン、君だけは分かってくれると信じている。

 僕は狡い事なんかしない」


「なっ、なに言ってるのよ、貧乏人。

 アナタを愛した覚えなんか無いわ」


「そんなキャサリン、キミまで僕を貧乏人と罵るのか?」


「ワタシは…………

 ジュリアン、アナタの家が貧乏なのは事実でしょ。

 貧乏な人を貧乏と言って何が悪いの!

 ワタシがアナタを愛してるですって。

 そんな訳無いじゃない。

 貧乏人に少しだけ夢を見せてあげようと思っただけよ」


部下達は少し引いている様だ。


「うわー、女こえー!」

「言いすぎじゃねーのか。

 ジュリアン、この世の終わりみたいな顔してるぜ」

「しかし、アイツ普段ハンサムなモンだから、ショックを受けた顔すると、少し変顔になっておもしれーな」


町長が引導を渡す。


「ジュリアン君、これ以上娘に付きまとうな。

 キミは振られたんだ。

 大人しく諦めたまえ」



俺は朝メシを食っている。

隣にはキャサリン嬢。

あーん、と俺が口を開けるとスプーンを差し出す。

町長が次々と俺の前に食い物を運ぶ。


「どうぞどうぞ。

 近くの食事処から運ばせました。

 お口に合えば良いのですが……」


見ればステーキやら、鍋やら、豚の丸焼きやら積み重なっている。


「朝からそんな重い物、要らないよ。

 町長普段そんな物食ってんの?

 だから太るんだぜ」


「そうですな~。

 ワシってばダメな男ですな~」

「そうよ、お父様はダメダメよ」


キャサリン嬢はそう言いながら、俺の身体に抱き着いて来る。

薄いドレスの上から胸を押し当てて微笑んでみせるのだ。

そんな状況が思いっきり目に入ってるハズなのだが、父親である町長はニコヤカに笑っている。

まぁいいか。

笑顔が絶えない家庭とは良いモノだしな。


だが一人笑ってない奴がいる。


「キャサリン……君はそんな男に何故……」


泣きそうに歪んだ顔をしているのはジュリアンとか言ったか、薄っぺらな二枚目男。

コイツは呼ばれてもいないのに、メシの席まで着いて来てのだ。

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