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第5話 ニセモノはいないのが良い

俺は早朝に目覚めた。

昨日は早くに寝たしな。

隣には金髪美少女が寝ている。

ふむ、なんだか泣いたような跡が顔にあるな。


美少女の泣き顔と男の習慣で俺は元気になっている。

このままキャサリン嬢に襲い掛かりたい気持ちもあるのだが。

コイツにもうやらないと宣言してしまったしな。


別の事で気晴らしするとするか。

俺は黄金の鎧を身に纏って、町長の屋敷から外出する。

特殊能力を使う。

瞬間移動。

一度行って、チェックした場所で在れば何処であろうと一瞬で訪れることが出来るのだ。

目的の場所に出かけた俺はしばらく歩き回って、目的の物を発見する。


俺が町長の屋敷に戻ったのは一時間ほど後だ。

出かけるのも帰るのも一瞬で済むのだが、見つけるのに少し時間がかかってしまった。



俺が屋敷に入ると入り口の広間で見知らぬ男が大声を出していた。


「どう言う事です、町長殿?

 僕とキャサリンは結婚の約束をしている。

 貴方だって、僕が婿入りするなら結婚を認めると言っていたでは無いですか」

「それはだな、ジュリアン」


町長は少しきまり悪げにしている。


見物していた俺の部下に訊ねる。


「誰だ、アレ?」

「あっ、勇者様。

 何処にいらしたんですか?」

「朝の散歩だ」


「アレはジュリアンと言って……少しばかりムカツク輩です」

「家は貧乏人の一人息子なんですが、頭が良くて、顔が良い。

 ウマいとこキャサリンに取り入って、婿入りするってもっぱらのウワサだったんで」

「そのまま次の町長になるつもりだったんでしょう」 


言われて見てみると、ジュリアンとか言う輩は確かに整った顔。

俺様の様に男性的では無いが、形の良い眉と長い睫毛。

薄っぺらな二枚目タイプだな。


「お前は確かに学門所で20年に一度の秀才と呼ばれてるそうだからな。

 一度は婿にしても良いかと思ったんだが。

 相手はあの黄金の勇者様だぞ。

 国王でさえ頭を下げると言う英雄なんだ。

 そんな英雄にキャサリンは見染められたんだ。

 縁が無かったと諦めろ。

 ……俺は上手くすれば……貴族の仲間入り……そうすればこんな田舎ともオサラバよ」


町長の台詞である。

最後の方は小声ではあるものの、本音がダダ漏れ。


部下どもは言っている。


「けけけ、ジュリアンめ、いい気味だ」

「アイツ面だけは良いからな。女に次々手を出してるの、みんな知ってるっての」

「あんなんが次の町長になられたら、たまったモンじゃねーよ」


良く分からんがエセイケメンは嫌われていたようだな。

町長に見限られるのも自業自得と言うモノだ。

無視して自分の部屋で休もうと思った俺だが、そこにキャサリン嬢が現れてそうもいかなくなった。


「ジュリアン?!

 アナタ何しに来たのよ」

「キャサリン!

 良かった無事だったのか、迎えに来たんだ」


「無事って……

 あのね、私はもうアナタとは何の関係も無いの。

 父が気に入ったと言うからアナタと結婚してもいーかな、なんて思った時もあったけど。

 アレは一時の気の迷いだったんだわ」

「な?!

 落ち着いてくれ。

 キャサリン、キミはおそらく騙されてるんだ」


「何を言ってるのよ」

「キャサリン、考えても見ろ。

 黄金勇者が本物とどうして分かるんだ?」


「なんですって?」

「……なんだと?」


キャサリンだけでは無い。

町長までその言葉に目を見張る。


「昨日から町に流れてる噂を聞くに、どう聞いても勇者と言うのにロクでも無い話ばかりです」


「それはまぁ……

 しかし彼はあの山賊団を倒し、町へと引きずって来たんだ。

 その辺の小物に出来る芸当じゃない」

「そうよ、そうよ」


「でも、ヒュドラは倒さなかったんでしょう。

 昨日東の山に向かったものの怖くなって途中で引き返したと聞いてます」

「いや、勇者様は今日にでも又行くと言っていた」

「………………」


「口先なら何とでも言える。

 毎日、明日には倒すと言っていつまでも先延ばしにする。

 詐欺師の常套手段では無いですか」

「と言うと……あの勇者は何者なのだ?」

「ニセモノ、詐欺師だって言うの?」


「おそらく山賊の一味。

 仲間割れでもしたのでしょう。

 こんな辺境では誰も勇者の顔を知らない。

 そこに付け込み、黄金勇者を騙ったのです」

「むう……在り得ない、とは言えんか」

「そんな……だってもうワタシ……あの男に……」


部下どもが俺の顔をジロジロと見てるのを感じる。


「まさか……この人?!」

「いや充分在り得る、とゆーか本物の勇者とゆー方がおかしい」

「……美少女の聖水の尊さを理解してくれる方、ニセモノとは思いたくないが……」


俺は聖水の尊さなんかまったく理解してないぞ。


「むっ、キミが黄金勇者と名乗ってる人間か?

 どうした、僕の推理を聞いて逃げなくていいのかね」


薄っぺら男が俺に気がついて指を差す。

キャサリンまで同調した。


「アナタ、いやアンタ勇者様のニセモノってのはホントなの?!

 だとしたら……だとしたら……昨日の事と一昨日の夜の事はどうしてくれんのよ!」

「すこし落ち着け。

 まだ本物の可能性も無い訳じゃ無い。

 勇者様、その疑う訳では無いのですが……

 何か本物の勇者であると言う証拠や証明をお持ちでは無いですかね」


町長が二人を止めるが、その視線は完全に俺を疑っている。


「くだらん。

 俺が黄金勇者だ」


俺が吐き捨てると、薄っぺら男は言う。


「だから!

 それをどう証明するんだ」


「そうよ、そうよ。

 もしニセモノならタダじゃおかないわ。

 ジュリアン、ゴメンなさい。

 ワタシ、このニセモノに騙されていたの。

 こんなバカなワタシ許してくれる?」

「勿論だ、キャサリン。

 悪いのはこの男だよ。

 僕がキミを責めたりする筈が無いだろ」


「ありがとう、そうよねジュリアン。

 アナタは本当に優しいモノね。

 こんなニセモノの金ぴか男とは違うわよね」

「フッ、こんなのと一緒にしないでくれよ」


キャサリン嬢が男にしなだれかかり甘えている。

肩に顔を擦り付け、お腹に指でのの字を書きだしている。

薄っぺら二枚目の方はだらしない笑顔でそれを受け入れている。


「むう、証明できないとすると……

 どうやら結論が出た様ですな。

 そこの衛兵達、そのニセ勇者を捕まえろ」


町長が言い、部下の衛兵達は迷っている。


「どうする?」

「この人に従え、ってのはガイス隊長の指示だし」

「だけど、ニセモノなら捕まえない訳にも……」


迷いながらも、ジリジリと俺を囲もうとしている。

はぁ、どうにもしょうがない奴らだな。


その時広間に入ってきたのは、銀の鎧を着けた俺の従者だった。

出番が遅いぞ。


「さすが、黄金勇者ゴルドラック様。

 あのヒュドラをこんなに早く倒すとは、驚きです」


「ヒュドラを倒した……?!」

「キサマ何を言ってるんだ。

 お前もこの偽勇者の仲間、騙りだな」


「くだらん、庭に出て見れば分かるぞ」


俺は愚かな奴らに言ってやった。


皆が庭に出ると、そこには巨大なバケモノが倒れていた。

九つの首を持つ巨大な蛇の魔物。

その九つの頭は既に胴体から切り離されている。

ピクリとも動きはしない。

ヒュドラの亡骸である。

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