第3話 町の光景はキレイなのが良い
さて翌日、俺は従者に起こされた。
「勇者様、もう昼時です」
「ううー、もうちょい寝てる」
「町長が昼食を一緒にと言ってますが……」
従者が視線を向けると、その方向には町長の娘キャサリン嬢がハダカで寝ている。
実のところ俺の従者は顔までスッポリと兜で覆っていて、目の動きなんか分からないのだが。
まぁ、鉄の面の方向でなんとなく分かる。
昨夜その娘に好き放題したのでしょう。
父親に対してどうするつもりです。
そんなフンイキが感じられる。
「あ、あー、飯くらいは一緒に食ってやるか。
そーだ。
お前、町長にこう言っといてくれ」
従者に伝言を頼むと、俺は『黄金の鎧』を身に着ける。
こいつは便利なモンで、身体に異常があると全て治しちまう。
体力、スタミナも回復させるらしい。
俺の中にあった眠気と飲み過ぎたアルコールの影響は吹っ飛んだ。
キャサリン嬢相手にとことん使った下半身の疲れも消え失せた。
さすが俺様の為に国中から選ばれたアイテムと言える。
俺様はキレイサッパリ、爽快な気分で食事の席に向かう。
町長は椅子にも座らず、揉み手をして俺の事を待っていた。
「勇者様、おはようございます。
それで、如何でしたか?
その……娘は気に入って戴けましたか」
「ん……まぁまぁ。
テクが無いんだよなぁ」
一瞬町長の顔が怒りに震えた気がしたが、気のせいだったようだ。
現在は愛想笑いをしながら、俺の顔を卑屈に伺っている。
「それはその、娘は処女だったのですから。
そう言わないであげてください。
これから……勇者様のお好みに仕込んでくだされば……」
やっぱり少し怒ってるみたいだ。
ハゲた頭部の血管がピクピクとしていてキモチワルイ。
この町長には、俺の従者がこんな話を吹き込んでくれたハズである。
黄金勇者には現在正式な妃も居なければ愛妾もいない。
もしも妾にでもなれたなら、その女性は貴族扱いされるだろう。
更にまかり間違って正妃にでもなったなら。
扱いは女王レベル。
この国で権力を握る事も、有名人となって人々の敬意を受ける事も可能である。
「あの娘、処女じゃ無かったぞ。
テクが無いから経験は少ないんだろうけど」
「な、アンタ人の娘を弄んでおいて!
言い逃れをするつもりか?!」
一瞬激高する町長。
血管から今にも血を吹き出しそう。
その後ろから耳元に囁く俺の従者。
「町長、お忘れか!
貴族ですぞ、貴族。
もしも上手くすれば……貴方の娘はこの国の女王並」
「が……ぐふっ……ぐぁああああああ!
ハァ……ハァ……ハァ。
勇者様、キャサリンには後で叱っておきますので。
王都へ戻る際は、良ければお連れになって下さい」
引きつりまくってるのに愛想笑いを浮かべるもんだから、町長の顔はオモシロ凄い事になってる。
ハゲ頭に浮かんだ血管なんかぶっとくピクピクうごめいてるし、眉は吊り上がってる。
なのに口は笑みの形にしようとしてるのだ。
わははははは、バカみたいだな。
「ん、考えておこう」
俺は町長に言っておいた。
「は、ははははは……はは。
お願いいたします、勇者様」
俺は町の通りを歩きながら訊いていた。
「で、なんだっけか」
「ヒュドラです。
九つの頭を持つ、恐ろしき魔物」
俺がこんな辺境に来た理由である。
「勇者様、この街の東側に険しい山がありまして、その奥に魔物が現れたんです」
「討伐隊も組織されたんですが、誰一人帰って来ません」
「我々、町の衛兵では到底敵わない大型の魔物です」
俺の部下の兵達が口々に説明してくれる。
現在俺達は、その東の山の方へと歩いている。
まぁ、現在倒しに行く気は無いが、ルートの確認だな。
大通りだが、女性だけが歩いている。
しかもイロっぽい人妻も、ロリな少女も皆膝上のミニスカートなのだ。
あの町長、町の人間達にキチンと令を出したのだな。
うむうむ、散歩するだけで楽しくなってくる。
俺の部下達も嬉しそう。
良い事すると気分が良いモノだ。
しかしアレだな。
たまに老婆が歩いていて、それもミニスカートなのが困り物だな。
町長め、老婆は例外にしても良いくらい分かりそうな物じゃないか。
やはりハゲデブ男の能力の限界だな。
ところが一人の少女が俺の前に立ち塞がる。
猫耳をした少女。
目は金色に光るが他は普通の女性と変わらない。
手の先と膝から下だけ白い毛が生えているな。
なかなかカワイイ少女だ。
「オミャエー、オミャエがうそんこ勇者だな」
「おい、なんだこいつ猫耳付けてるぞ」
「勇者様、獣人ですよ。
王都ではほとんど見ませんが、辺境には割といます」
へぇー脱がしたら、どうなってるんだ。
気になるな。
「……記憶力無いのか……
勇者様、先週遠征しました。
アレが獣人の国です」
「ああ、あの犬耳した女がいた処。
翼生えた女もいたな」
翼の付け根触ってやると感じやがんの。
「そっか、アレか。
魔物の一種かと思ってたから、気付かんかった」
「オミャエー!
獣人を魔物扱いするのは差別だぞ。
イケニャイんだぞ。
そんニャ事平気で言うなんて、やっぱりオミャエ勇者じゃニャイにゃ」
ザワっと町を歩く娘たちが立ち止まる。
勇者様じゃ無い?
まさか……ニセモノ!
道理で品が無いわ。
小声でそんな囁きが聞こえる。
「………………」
「……まさか勇者様?」
俺の部下の兵士達まで少し動揺した雰囲気。
銀鎧の従者がキッパリ言う。
「馬鹿か、貴様ら。
この方の鎧を見れば分かるだろう。
黄金の鎧など他に手に入ると思うか」
「そう言えば……」
「そうだ、この人が山賊を退治もしたんだ」
「あの人数を倒して連れてくるなど、本物の勇者以外ありえない」
その従者と衛兵のやり取りを聞いて、町娘も納得する。
そうなの。
確かに何人もの山賊を掴まえて来たのを見たわ。
じゃあ、やっぱり勇者様。
あの獣人、勇者様に逆らうなんて。
所詮獣人なんだわ。
まっとうな人間じゃ無くて……ケモノみたいなモノなのよ。
そんな雰囲気を感じ取ったのか、ネコミミ少女の顔色は悪くなる。
「どうしたニャ、ミンニャ。
この男のせいで困ってるんでしょ。
お婆ちゃんまでミニスカにさせられて恥ずかしい、って言ってたじゃニャイ」
「どうしますか、勇者様」
「なんなら、この娘捕まえて牢に入れましょうか」
「獣人なら大した罪を犯して無くても、牢にぶち込めますよ」
俺の部下達が言う。
すでにネコミミ少女に向かって歩き出そうとしている。
と、そこに新たな乱入者が現れた。
「ゴメンなさい、ゴメンなさい。
姉が失礼しました」
この少年もネコミミを着けている。
耳とズボンからはみ出したシッポは黒い毛でおおわれている。
毛色は違うが、整った顔だち。
よく似た美少女、美少年の姉弟。
姉の方が元気そう、弟は大人しそうだが賢そうな雰囲気。
「ニャッ?!
どうして、どうしてミーくんが謝るの。
なにも悪いコトして無いでしょ」
「バカ!
姉さん、今は頭を下げるんだ」
「お許しください、お許しください」
と、ネコミミ少年が頭を下げる。
ふーむ。
兵士達はどうしたものでしょう、と俺に問いかける風情。
俺は少年に話しかける。
「少年、キミに免じて許してあげなくも無い」
「本当ですか勇者様、ありがとうございます」
「ただし、条件がある」
「ハイッ、勇者様。
なんなりとお申し付けください」
「ならば、姉のスカートをめくるんだ」
「……えええっ?!」
「軽くまくった程度じゃダメだぞ。
ガバっと、付け根まで見えるようにするんだ」