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1-7話 活動拠点

「マジでさ、感謝してるぞケニイ。困ったことがあったらなんでも言ってくれ」


 村を歩きながらディーンは俺の背中をポンと叩く。


「いえいえ、俺が出来るって証明する必要もあったでしょ?」


「別にちょろっとヒールが使えるくらいでも文句はないさ。悪い奴じゃなかったらここは誰でも歓迎してくれる」


「師匠とかアイテムボックスのこととかは……」


「黙ってるよ、ま、腕の良いヒール使える良い奴が村に来たって俺が言っときゃすぐに馴染めるだろ。お前次第だがな。……ところで髪の毛増やせるのってマジか?」


「やっぱり気にしてたのか」


「ものは相談なんだがよ、ちょっとずつバレないように増やせねえか?」


「ええ……面倒くさいなそれは」


「馬鹿だな、頭をマッサージしたらちょっとずつ髪が生えてきたって噂を流して証人の俺がいたらどうだ?俺は顔が広いから髪が生えたら騒ぎになる。大口の客を捕まえられるぞ?」


「別に金には困ってないし、怪我とかで困ってる人を助けたいんですけどね……」


「甘いな。ケニイよ、お前の力は大したもんだし役に立てられるなら、そうした方が良い。だが、便利な力にはそれだけ厄介ごとも舞い込んでくる。

 お前がやりたいことをやる為にも権力を持ったハゲた連中に恩を売っておいた方が賢いぞ」

「なるほど……」


 困った時に助けてくれる権力のある人を味方につけておくってのは賢いな。偉い人は男で年取ってて、年取ってるってことは大概ハゲてるからな。

 でも、ディーンは自分のハゲが治したいだけだと思う。


「貴族の奥様のシワ取りなんかも良いだろう。下手したら権力者よりも力になってくれる可能性がある。女の美しさのこだわりは半端ねえからな。独自のネットワークがあるから話はすぐに広がって人気になるぞ」


「出来れば注目は集めたくないんですけど……本当に困った人に届けたいので。商売とかそこら辺はからっきしなんですがね」


「なら、そういうのが得意なやつを紹介してやる。ちょっとクセのあるやつだが誠実ではあるから安心しろ」

「助かります」


「……っと、話してる間についたな。ここだ」


「お〜結構大きい家ですね」


「元商人の爺さんの別荘だ。息子が街の方に住んでててその爺さんも奥さんもここの村出身だから孫の顔みたさに専用の別荘を建てたんだよ。

 今は夫婦ともに街の方に住んでるから、貸し家として出してるんだ。因みにさっき言ってた得意なやつってのはそいつだ。

 俺は一応管理人ってことで鍵を預かって時々掃除してる。入ってみるか?」


「是非確認させてください」


 ディーンが鍵を開けて家にいれてくれる。少し埃っぽいが、しっかり掃除すれば問題ないだろう。

 日当たりも良さそうだし、周囲の家からもほどよく距離がある。ここならのんびりと過ごせそうだ。


「風呂、トイレもそこそこ良い魔道具使ってるから魔石さえ買えばすぐに使えるだろう。寝室がゲスト用も含めて3部屋。広いリビングにキッチン、書斎、地下室、庭もあるぞ」


「良い物件ですね。賃貸料はいくらなんですか?」


「月に金貨1枚だ。ま、そこら辺は交渉次第だがな」


 ざっくり計算して日本円だと10万くらいか。手持ちの金でもしばらくは余裕ありそうだな。仕事して商人の息子に現代の便利なものを売っても良いし。


「交渉してみます。その人に会わせてもらえますか?」


「じゃあ街の方に行くか」

「今からですか?」


「住む場所がないなら早い方が良いだろ?俺の家に泊めてやっても良いが、落ち着く場所が欲しいみたいだしな」


「助かります」


 フットワークが軽いな。


 早速、街に向かいその商人の店に押しかける。

 うわ……エストニール商会って王都にも支店があったが、ここが本店だったのか。古くて歴史のある建物だな。


「よお、サイモンいるか?」


「ディーンさん、少々お待ちを……」


 店内に居た従業員に声をかけると、その従業員は奥へと入っていく。


「ディーン、そっちから来るなんて珍しいな。どうした?」


「へへ……ちょっと紹介したいやつがいてな。ケニイだ」


「ああ……ソフィーのお嬢様を助けたっていう少年か」


「なんだ、もう知ってるのか」


 鼻の上に乗せたツルのないメガネをした細身の神経質そうな男性が俺のことを一瞥する。

 身長は190センチ以上あるだろう。


「商人は耳の速さが命だからな」


「こいつが、お前の親父さんの家借りたいって言っててよ、街で店もやりたいってんで相談に乗ってやってくれ」


「貸すのは良いが、商売の相談を聞いてやって一体何の得があるんだ?」


「言うと思ったぜ。だがな、お前もこいつと仲良くしておいて損はないと思うけどな」


「ほお……詳しい話は奥で聞きましょうか」


「なんと……カルラの傷が治ったのか。それは嬉しいことだなディーン。俺も薬や包帯の手配は出来ても治すことは出来なかったからな」


 ディーンはサイモンに俺の事情や能力を説明して、商売をするに当たってどうしたら良いかを質問する。


「ケニイ、こいつは損得にうるさいが悪い奴じゃねえし、口も固くて信用出来る。何が出来て何が出来ないかを具体的に説明した方が具体的なアドバイスが返ってくると思え」


「はい」


「まっ、こっから先は商談だから俺は席を外すぜ。終わるまで待ってるからよ。今夜はカルラの快気祝いだ」


「分かりました」


 そう言って親指を立てて笑顔で部屋を去った。


「さて、真面目な話に移るが、商売で稼げる手段があるのに低価格でサービスを提供したいというのは理解に苦しむ」


「はい……」


「普通はな。だが、ヒールとなると話は別だ。教会のクソどもには苦い思いをさせられたことがあるし、この街としても君のような人間がいると助かるのは事実だ。要はバランスだな」


「見たところあなたは儲かっているように見えるのでお布施が払えないってことはないと思いますが……」


「まあ、聞け。奴らは偉そうなことを言ってるが教会のヒールの能力はピンキリだ。

 一番上手いやつでもカルラの傷は治せんだろう。

 それに金持ちを優先する。貧乏人が金をかき集めても金持ちや貴族の予約が入ってるとか言って相手にはしない。

 先払いを要求する癖にちゃんと治せてなくても文句は言えない。ヒールを悪用してるだけの詐欺師みたいなもんだ」


 金にうるさいとは思っていたが、ヒールの対象を差別して文句も言わせないときたか。本当にとんだ殿様商売だな。


「ガキの頃、お袋が病気になってな。治してもらいにいったんだが、ヒールを試したが効かないとか言って具合が悪い中散々待たされたんだ。

 治療に金払ってるんだから無理なら無理と言えば良いだろ?それを分かっててヒールをかけて金を払わされたんだ」


「病気にはヒール効かないのは治癒師の間では常識ですがね。かなり悪徳ですね」


「ああ、俺はガキだったから知らなかったんだ」


 症状にもよるが、ヒールよりも使い手が希少な解毒のキュアが病気には効く。どっちも使えるのは俺くらいだろう。旅の中で出会ったことがないし、聞いたこともないからな。

 キュアは体質系の病気には効果がほとんどない。例えばアレルギーなんかは一時的に反応を抑えられても、アレルギーそのものを消すことは出来ない。


「だから、教会の奴らに内緒で格安でマッサージ屋を名乗ってそんなことやろうなんて、ふざけたやつの協力はしてやる。出来ることを教えてくれ」


 サイモンはメガネを上げながら悪い笑みを浮かべる。

 俺は整形やハゲ治療なども出来ることを教える。


「なるほどな……こうしよう。本当に必要な治療には安めに、贅沢な個人的な悩み、治す必要が必ずしもないものに関しては高めにしよう。

 そして表では飽くまでマッサージ屋という体裁を取る為に実際にマッサージを行う。行う必要がなくてもだ」


「どうやって裏ではヒールや整形していると知ってもらいながらも口裏を合わせてもらうんですか?」


「噂を流したり口裏を合わせるのは俺と領主の力で何とかなる。君は流れ者だから知らないだろうがこの街には教会がないだろ?」


「そういえば……」


「昔はあったんだ。私腹を肥やす悪徳神父に街の人間がとうとうキレてぶっ壊したんだ。神父は悪さがバレて本部で罰を受けたが流石に壊すのはまずかった。

 本部の判断でこの街からは撤退したんだ。だからこの街の人間の教会に対する恨みは凄いし、安くでやってくれる君を裏切ることはまずない。だが、保険としてマッサージ屋もちゃんとやっておけ。施術の効果ですってな」


 テルオラクル様、その辺も考えてここに送ったのかな。


「金払いが良さそうで困ってるやつは俺が紹介するから、稼ぎは心配要らんだろう。高い金払わせたくなくても、金は必要だ。持ってるやつから持ってないやつの治療を続ける必要のあるやつの為にもらっておけばいい」


 俺自身、詐欺を働いているような気がしていたが、その言葉に救われる。


「後は客のプライバシーの保護だな、普通にマッサージを受けに来る客もいるだろうが、店に来ている事自体バレたくない人もいるだろう。

 店の中では個別に幕などで仕切って客同士見えないようにする。権力者、有力者は出張した方が良いかも知れんな」


 病院でも個別に診察するし、そういった配慮は必要だな。


「店の場所だが……マッサージ屋もいいが、宿屋にしてはどうかと思う」


「え?宿屋ですか?」


「ああ。マッサージ屋があって、そこに行くとなると、身体の不調か、何か問題があって治してもらうって丸分かりだろう?

 それを知られたくないものもいるはずだ。だが、宿屋のサービスとしてマッサージをするということにすればただ宿泊しているだけにも思えるし、中で何をしているかは分からん。

 それに部屋ごとに仕切られていてプライバシーという問題も解決出来る」


「おお……!」


「うちが出資している食事処と併設した宿屋があるんだが、そこでマッサージ屋をやるのはどうだろう?店を新たに作る必要もないし……」


「でも、それだと単に怪我した人やお金がない人が来にくいのでは?」


 街の人が宿屋を利用するのは変だ。


「本当に急ぎで必要なら直接マッサージ屋に向かい宿を利用しなくても良いということにすれば問題ない。宿屋の裏に空き家があるから、そこを使うとしよう。予約が入れば君が宿屋に来て部屋に入り施術する。どうだ?」


「そんなスラスラと思いつけて凄いですね」


「当たり前だ、こっちは商売のプロだぞ。さて、金の話だが、うちの施設を使うと言う事で月金貨2枚、親父の別荘も合わせて3枚でどうだ」


 たっかっ!テナント料と住む家合わせて30万の出費!?


「もうちょっと何とかなりませんかね……」


「部屋の清掃や整備、機材はこちら持ちだぞ?君は自分の魔力を消費するくらいしか出費がないだろう」


「そう言われたらそうなんですけど月金貨3枚以上稼がないと赤字じゃないですか。いきなりそんなに稼げるとは思いませんけど……」


「いや、稼げるし税金も取られるから3枚稼いでも赤字だ。客の斡旋まで世話してこの値段なら破格の条件だが?本来なら顧問料や紹介料、口止め料……」


「わ、分かりました!それでいいです!」


「うむ。慈善事業で共感できる部分があるから手加減してやってるんだぞ」


 怖え……商人怖えよ。


「後はそうだな……俺の肩凝りの手入れを定期的にやってくれ。これは無料でだ。俺の仕事が増えた分疲労が溜まるからな。別に俺が得しているわけでもあるまい」


「まあ、それくらいなら……」


「よし、今やってくれ。どの程度の能力が自分で知りたいからな。効果を知らないなどと客に言えば俺が恥をかく」


「はあ……」


 サイモン……なんてちゃっかりした商人なんだ。でも、この強かさが頼りになるとも言える。


「じゃ、肩と首の筋肉ほぐしますね……」


「よし、書類仕事で目を使うことが多いからコリやすんだ。そのせいか頭痛も酷くてな」


 サイモンの肩に手を置き、ヒールと肉体改変を同時に行い、炎症を起こし疲労の溜まった筋肉を修繕、緊張を緩める。


「どうですか?」


「もう終わったのか?いや……確かに肩が軽いぞ!?上半身が浮いているように軽い!」


 サイモンは肩をグルグルと回し、首を左右に伸ばして感触を確かめる。


「多分、目が悪いのも肩凝りの原因だと思うんですけど、視力も治しましょうか?」


「そんなことも出来るのか?目の悪さは病気や怪我ではないぞ?」


「そうなんですけどね」


 近視は目のレンズの部分が筋肉に引っ張られて分厚く変形し、焦点の位置が網膜の前にいってしまい、網膜に合わせられないことから起きる。

 つまり、その歪みを肉体改変で治してしまえば見えるようになる。


「ちょっと目閉じててもらえますか。片目ずつやっていきますね」


 まずは左目のレンズを少しだけ調整する。


「どうですか?右と左で見え方違うか確認してみてください」


「ん……」


 メガネを外し、目を交互に閉じて遠くを見る。


「おおっ……左目の視界がクッキリしている。君の顔もメガネなしで見えるぞ。早く右目もやってくれ!」


「はい、じゃあ目を閉じて……どうですか?左右で差があると気持ち悪くなっちゃうと思うんですけど」


「ふむふむ……いや、左右の視力は同じだな。よく見える。だが、感覚が急に変わったせいか少し気持ち悪いな」


「元の状態に戻しますか?」


「なっ、やめろ!これでいい!しかし、急にメガネを外したとなると、変に思われるな」


「メガネのレンズをガラスにすれば良いんじゃないですか?」


「馬鹿を言うな、ただのガラスで出来たメガネを作ってくれなんて頼めるか。馬鹿だと思われるぞ」


「あっ……それもそうか……」


 この世界ではガラスの加工が現代ほど発展していないのを忘れてた。

 となると、物品召喚でサイモンのメガネに似てるやつは……お、これがいいか。


 アイテムボックスから、丸いフレームの伊達メガネを取り出して渡す。


「これ使ってみてください」


「なんだこの棒のついたメガネは」


「こうやって耳にかけるんですよ」


「こ、これは!?これなら固定されて落ちにくい……しかしこんなもの一体どこで手に入れた!?」


「……ニイジマ様から……です」


「なるほど、確かに勇者様たちは我々より文明の進んだ世界から神によって遣わされた方々。便利なものを持っていてもおかしくはない……2枚だ」


「月に支払う額は金貨2枚に負けてやる!それだけの価値があるっ!」


「あ、ありがとうございます」


 サイモンの迫力に少し後ろに足が行く。


「ただし!このメガネの棒のアイディアはもらった!新商品ということにして売れば店主が使っていても不自然ではない!」


「まあ……良いですけど」


「よし、では早速奴隷を買いにいこう」


「えっ……?」

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ポイント、コメント非常に励みになりますのでよろしくお願い致します!

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[一言] 個人的には、こういう世界の可哀想な欠損奴隷を癒しまくって自立まで面倒見る展開は大好物。
[気になる点] >一番上手いやつでもソフィーの傷は治せんだろう。 呼び捨てなら、ここの事はカルラの事でしょうか? 流石に、貴族のお嬢様を呼び捨てにしないだろうし、一番上手いって言ってるのに骨折を治せ…
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