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1-6話 サンターノ村

「ここが、サンターノ村です」


「村って言う割には結構開拓されてるな」


 ソフィーに案内され街から歩いて村まで来た。


 ひとまずは生活する為の拠点を確保することが最優先だ。


 森を少し進むと現れる木で作られた門と外壁に覆われている。外には見張り役の弓と槍を持った男が二人。

 挨拶をして中に入る。

 サンターノ村は閑散としているイメージを持っていたが村人がそこら中をウロウロして何かしらの仕事をしていたり、話し合ったりしている。


「よお、ソフィーのお嬢さん今日はどうしたんだい?」


「彼氏でも連れてきたか?」


 見知らぬ俺はそこまで警戒されていないのは同行者のソフィーに人望がある、ということなのだろう。


「こちらはケニイさん、私の命の恩人で恋人よ。住む場所がなくてここに移り住みたいって話なんだけど」


「恋人は嘘なので無視してください」


「ほーお?信用出来るやつなのかい?」


「ケニイさん、こちらはディーンさん」


 ディーンと呼ばれた男は太い腕にゴツい大剣を背負った顎髭が目立つワイルドなオヤジだった。髪はかなりこころもとない白髪混じりの金髪だ。若ハゲってやつだな。

 ま、強さは見た目の筋肉にそこまで影響しない世界なんだけどな。


「俺はここのまとめ役をしてるディーンってもんだ。ここじゃ皆が協力して生きてる。別に仲良く交流しなくちゃいけないことはないが、最低限のルールも守れないような奴は面倒を起こすからゴメンだぜ」


「普通にまともな人よ。私が骨折して魔獣から殺されそうになったところから助けてくれたし土魔法(笑)も大したものよ」


「ほお?戦うようなタイプに見えねえが……魔法使いか?」


「いえ、直接攻撃出来るような魔法は使えません。手持ちの剣で戦っただけです」


 流石にストーンキャノンは魔法にカウントしない。

 てか、ちょっとイジられてるじゃないか。

「なら戦士か狩人か?それにしちゃヒョロイが。それに何故ここにきた?どっかに追われてるなら…」


「ヒールが使えます」


「許可する」


「はやっ!?」


 周囲にいる話を聞いていた人も驚いた表情を見せる。


「私の足の骨折も治してもらったわ。腕は確かよ」


「……ヒールが使える奴は貴重だ。ルールを守るってんならここに住ませてやってもいいぜ」


「もちろんルールは守ります」


「そうか、なら決まりだな。家はどうする?大工に頼むか、最近死んじまった爺さんの空き家を利用するか?今なら爺さんの死体と悪臭もおまけでついてくるぞ」


「と、取り敢えず、その家を見てから決めさせてもらっても良いですか?」


「それもそうだな、よしついて来い。死体の話は嘘だ。ウチまで匂ってきたら敵わんからな」


 そういうノリ、日本じゃあんまり聞かないけどこの世界では割と普通なんだよな。


「じゃ、私は街に戻るわね」


「おう、お前ら!ケニイの彼女を送ってやれ!」


「「はい!」」


「領主の娘になんてこと言うんですか。誤解されたら困りますよ」


「なーに、ソフィー様は恋人も婚約者も居ないから問題ねえよ」


「そうですか、なら平民の小僧と恋人の噂が立っても皆びっくりするくらい無関心でいてくれますよね」


「そうだな、嫉妬した平民がお前も刺すくらいで収まるだろ」


 こいつ……!そんなわけあるか。やめろ。

 ソフィーと別れて、ディーンと共に村を案内される。


「ケニイ、お前はここに来るまでは何をしてたんだ?まだ若いだろう17〜19歳ってところか?」


「ただの旅人です。ま、師匠とちょいちょい冒険者やってたんですが独り立ちしたんです。歳は18です」


「ほーん。成人したから放り出されたか?」


「そんなとこですね」


「ここはルールさえ守れば自由だ。畑仕事するもよし、狩りをするもよし、何か街で商売するもよし。別に村人と関わりたくないってんなら、家に篭ってても誰も文句は言わねえ。訳アリの奴も多いから誰も悪さしなけりゃ、詮索はしねえからよ」


 それはありがたい。村特有のルールとか序列とかは面倒だからな。


「村人同士で物々交換とかはあるんですか?」


「ああ、大工仕事をする代わりに畑の収穫物をもらうとか、自分の出来ることを対価に何かしてもらうのが基本だ。金銭のやり取りはあまりないな。ま、ヒールが使えるんなら食いもんには困らんだろ。ここの食いもんは美味いぞ」


「一応、街でヒールを堂々とやる訳にはいかないんで、マッサージ屋ってことにして働く予定ですけど、村の人が怪我したら対応しますよ」


「ハハッ!マッサージ屋と来たか。ま、教会の奴らがうるせえから妥当なところだな。ソフィーの嬢ちゃんが来たってことは領主様にも許可は貰ってるんだろ?」


「ええ、それはもちろん。村で住む場所が見つかったら街の店の方も探して始めようかと」


「儲かりそうだなヒール屋ってのは」


「いや〜、平民でも1日の稼ぎの半分くらいでやりたいところなんですけどね。教会のヒールのお布施の高さに俺自身思うところがあるんで」


「いくらなんでも、そりゃ安過ぎだ。トラブルになるぞ。怪我の度合いに応じて、だが、一週間の稼ぎの半分くらいなら皆助かるな」


「まだ、料金については決めかけねてるんで、そう言った意見は助かります」


 ちょっと擦りむいた程度で何人も来られたら本当に困ってる人が来れなくなるからな。確かに安過ぎるのも問題か。


「ちと、相談なんだが……ケニイのヒールはどんな傷を治せるんだ?」


「そうですね……腕一本生やすとなると、かなり時間はかかってしまいますけど治せることには治せますね」


「じゃあ……失明した目とかはどうだ?」


「ああ、それくらいならすぐに出来ますけど」


「何っ!?すまんが、治してもらいたい奴がいる。金は言い値で構わんしいくらでも払うから見てやってくれないか!?」


「話を聞かせてください」


 ディーンは泣きそうな顔で俺を見た。


「その治して欲しいのは俺の娘なんだ……魔獣に襲われて顔がゴッソリ持っていかれて片目も見えないし顔もボロボロでもう嫁にいけるような状態じゃない。元は物凄くべっぴんだったのによ、本人もショックですっかり引きこもってしまって……なんとかしてやりたくて教会にも行ったんだが……手の施しようがないって言われてな」


 そうだ、こういう人を助けたいんだ。


「今から行きましょう。状態を見ないとなんとも言えませんが力になれると思います」


「そうか!助かる!」


 ディーンに連れられ、彼の家に入る。木造の3人家族にしてはやや大きいと思ったが、田舎の家ってのは大概デカいもんだ。日本人の都会に住んでた人間の感覚だな。


「帰ったぞ」


「あら、おかえりなさい。早かったわね」


「客を連れて来た。今日から村に住むケニイだ。ケニイ、俺の奥さんのカミラだ。カミラ、客のケニイだ、こいつはヒールが使えるらしい」


「そ、それじゃあ……!?」


「ああ、カルラを見てくれるってよ」


「私……すぐに呼んでくるわっ!」


「……すまねえな、バタバタしちまって。茶でも飲んで待っててくれ」


「いえ、お構いなく」


 ゴツいディーンには似合わない綺麗な細めのブルネットな髪を後ろでまとめている奥さんだ。

 娘が来るまでディーンと村のことについて話をして待っているとカミラに連れられて、顔を包帯でグルグル巻きにした女の子が居間に来た。


 顔は隠れていて髪がディーンと同じ薄いブロンド、右目が青ということしか分からない。

 ディーンは白髪というより元から白いんだな。毛の薄さは生まれつきじゃないようで何よりだ。

 歳は今の俺と同じくらいかそれより少し下か……。


「初めまして、ケニイと言います。もしかしたら俺がお力になれるかも知れません」


「無理よ……どうせ」


「カルラ……試してみてくれないか?」


「皆どうせ私の顔を見て気味悪がって影で笑ってるんだわ!教会の人が無理って言うならそんなこと出来るの後は勇者の仲間のニイジマ様くらいじゃないの!」


 俺がニイジマなんだが……こんな場所にも一応名前知られてるのか。偽名にして良かったな。

 だが、その名前は使わせてもらう。


「俺は……そのニイジマ様から手ほどきを受けたヒール使いだが、君の治療、やらせてくれないか?」


「ケニイ!お前……じゃあさっき言ってた師匠ってのは」


「はい、ニイジマ様です。お帰りになられたので……嘘ついてごめんなさい」


 嘘ついてごめんなさいが、嘘ついてんだけど、許してくれよな。


「いや……事情が事情だからな。伏せてて当然だ。どうだ、カルラ?」


「……試してみるわ」


 そう言って、カルラは包帯を解いた。

 包帯には皮膚から出た膿がへばりついて、時々引っかかりながら、はがしていく。


 現れた顔は悲惨なものだった。左目は潰れ、鼻は抉れて、大きな爪の傷が顔を斜めに走っている。皮膚も壊死しているようだ。


「どう……?思ってたより酷いでしょ?」


「任せろ」


 魔族と戦ってた時はもっとエグい外傷を治療していたからな。これくらい屁でもないさ。


「取り敢えず、目を治してやるよ。ちょっと痛いかも知らないが我慢してくれ」


 俺は彼女の目に手を当ててヒールプラス肉体改変で足りない部分の追加を行う。


「うぐっ……!」


「大丈夫なのか!?」


「……どうだ?」


 カルラは痛みで抑えていた左目から手を離す。


「嘘……目が見える……」


「本当なのか!カルラ!?」


「ママのこの指何本か分かる?」


 カミラはカルラの左側で指を三本立てる。


「うん……三本でしょ。見えてるよ……パパとママの泣きそうな顔もね……」


「信じられん……ひっぐ……よがっだ……」


「ありがとう……ケニイさんありがとう……」


 家族3人で笑いながら涙を流し抱き合う姿を俺は眺めていた。


「じゃ、顔の方も治しますね……ただ、俺は彼女の元の顔が分からないからお二人で指示してもらいながらになりますが」


「傷を治すだけじゃなくて顔を元通りに出来るって言うのか?」

「お二人の記憶次第ですが」


「馬鹿野郎!娘の顔を忘れるやつがいるか!?やってくれ!ケニイ!」


「じゃ、まず痛みがあるでしょうから鼻と皮膚の組織を完全に回復させます」


 カルラの顔に触れ、失われた鼻、瞼、壊死した皮膚の建造をする。

 これで、顔の状態は非対称ながらも日常生活には全く問題なく傷は消える。


「おおっ……凄えな……でも、これは元の顔とは全然違うな」


「分かってますよ。まず、目からやっていきますか……」


「カルラの顔はカミラによく似ている、目はカミラよりも少し大きめで、鼻の高さ、形は俺譲りだ」


「じゃあお二人の顔を参考に……こんな感じですか?」

「おおっ……かなり近いぞ!なっ!カミラ!?」


「ええ……でもカミラの鼻はもう少し小さめで横幅を狭かったわね……」

「そうか?俺の鼻とそっくりだと思っていたが……」


「あなたは黙ってて……先にあなたの頭を治療してもらった方が良かったわね。デリカシーを司る部分を重点的に」


「お、おう……」


 忘れてた方がいいこともあるみたいだな。勉強になる。


「これくらいですかね」


「まあ!とっても可愛いわ!流石私の娘ね!」


 カミラはパチパチと手を叩き満足そうにする。


「ママ……鏡持ってきて」


「鏡なら俺が持ってるよ」


 物品召喚のスキルで女の子向けの赤の可愛らしい装飾がされた鏡を取り出す。この世界の鏡は反射率が悪くて見にくいんだよな。


「ほら」


「ケニイ……お前、今どっから出した?」


「俺アイテムボックス持ちなんで」


「どんだけ凄いやつなんだよ……」


 鏡をカルラに渡してやる。


「まあ、なんて綺麗な鏡なの!?」


「カミラさんにもどうぞ」


「どうだ、カルラ?元通りに出来てるか……?」


「……ママ……やったわね……」


「え?」


「これ……前より可愛くなっちゃってるじゃないお父さんみたいな高い鼻なの気にしてたのに丁度いい高さになってる……それにソバカスも消えてるし」


「何っ!?俺と同じ鼻が嫌だってのか!?」

「ああ、ソバカス足すことも出来るけど」


「ううん……要らない。こっちの顔の方が良い」


「なら良かった」


「せっかく治してもらうならそっちの方が良いでしょ〜?」


「ママ、ナイス」


「ケニイ!俺の鼻の形に治せ!俺と似てるところがなくなってしまう!」


「そんな無茶な……本人が気に入ってるならこれでいいでしょ?」


「パパ、黙ってて。ケニイさん、これで良いからね?」


「そんな……」


 ディーンはガッカリとうなだれる。


「だがよ、ソバカス足せたり、顔の形変えるのってヒールなのか?」


「うーん、まあ、応用ですかね。俺のオリジナル魔法ってとこです」


「凄えな!貴族に知られたらお前の取り合いになるぞ!背が低いとかハゲとか見た目を気にする貴族は多いからな。あっ、女性の皮膚のたるみだとか、首の肉だとかも需要があるな」


「一応出来ますけど……ディーンさんのハゲ治してあげましょうか?」


「あなた、せっかくだから治してもらったら?」


「う、うるせえ!金髪だから目立たねえよ!」


 ディーンは頭を押さえて俺たちを睨みつける。気にしてるんだな……。


「ねえ、ケニイさん……私、最近目尻のシワがちょっと気になってるんだけど」


「おい!それは調子に乗りすぎだろカミラ!悪いなケニイ娘の顔まで治してもらったってのによ」


「別にそれくらいなら簡単なんで……はい、加齢によるたるみ、シワ消しましたよ」


「凄い……ママ若返ってる20代後半にしか見えないよ」


「あらぁっ!綺麗になったわね!」


「……まあ、奥さんが若返って夫としては文句は言えねえか」


 言ったらお前多分殴られるぞ。


「あの、そろそろ家の案内をしてほしいんですが」


「おおっと、そうだった。じゃ、ちょっくらケニイの家の案内してくるわ!」


「いってらっしゃい」


「ケニイさん……本当にありがとうございました!」


「おいおい、せっかく綺麗になったんだから泣いちゃったら台無しだぞ」


「これはいつでも治るからいいのっ……」


 カルラはそう言って泣きながら俺に抱きつく。うお、服に隠れて分からなかったが歳の割に結構胸はデカいな……柔らかい……。


「おい、もう離れろ!いくら恩人とは言えそれ以上は許可出来ん」


「パパ何言ってんの……失礼だよ」


「だが……しかしな……おい、ケニイ!娘に手ぇ出すんじゃねえぞ!」


「出しませんよ!」


 本当の年回り的にはカミラさん寄りなんだから、手を出すとしたらそっち……なんて言ったら発狂しそうだな。

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