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3-6話 ありがとう

 

「レーギスかい?」


「長老、ただいま戻りました……」


「おやおやしばらく見ない間に随分と大きく……なってないね」


「ほら、これだ。だから帰りたくないんだよ」


 レーギスを迎えるのは人間で言えば70代くらいに見える老女。しかし若い頃はさぞ美人だったのだろうという顔の整い具合が伺える。


「冗談の通じない子だね……ゴホッゴホッ」


「大丈夫か!?」


 憎まれ口を叩き合うが、長老の顔色は悪く咳き込んだのを見てレーギスは心配する。


「年寄りなんだから咳くらいするさ」


「ケニイを連れて来たからもう安心だ、ケニイ頼む!」


「友達を連れてきたのかい? まさかあんたに友達が出来るとはねえ」


「そんなの良いから! ケニイ早く見てやってくれ」


 落ち着かないレーギスに促されて長老の状態を確認する。うわ、これ全身に癌が転移してるな治せるけど時間がかかりそうだ。


「ちょっと時間がかかるぞ。長老失礼しますよ」


「無駄だよ、これは治るような病気じゃあない……」


 そういう長老を無視して治療を開始する。


 まずはボロボロの臓器全般を再構築していく。


「これは……ケニイと言ったかい? 何をしたんだ? 息が軽いね」


 長老はしばらくすると自身の体調の変化に気がついたのか胸に手を当てて呼吸のしやすさを確認し始めた。


「肺が病に侵されてたので新品に取り替えておきましたよ」


「レーギス、この人間は一体どんな治癒術師なんだい?」


「あー彼は勇者なんだよ。他は全員帰ったけどケニイだけはこの世界に残ったんだ。僕が助けてやったから貸しがあって子分みたいなもんだな」


「お前ふざけんなよ」


「助けたのは本当だろう!」


「本当の話をするなら、俺にも考えがある長老こいつは……」


「おあああ!? やめろ! 分かった分かった! 僕が子分です本当は!」


「子分その2ッス」


「このガリガリのドワーフはなんだい? 病気ならこいつを先に治療してやりな」


 自己紹介をするタイミングのなかったヘンリーを見た長老は容赦ない一言を浴びせてくる。


「こいつらの馬鹿さ度合いは治療適応外なもんでね」


「失礼しちゃうわぁん!」


「……とまあ、ずっとこんな具合ですよ。で、どうです? 傷んでた内臓はほぼ全部治しましたけど」


「ん……信じられないくらい身体が軽いね1000歳は若返った気分だ」


「多分実際それくらい若返ってるんじゃ……」


 エルフの比喩のスケールがデカ過ぎるが、なんで生きてるのか不思議なくらい体中ボロボロだったのに、その割に元気そうな受け答えをしていた。


 そして治療を粗方終えると更に元気になる。


 ────────────


 長老の容体が良くなり、俺たちを歓迎する宴が開かれた。


 帰郷したレーギスよりもシェリーが持ってきてくれた珍しい食品や調味料なんかに注目が集まっている。


 宴が始まると、レーギスは可愛らしいエルフの女の子を紹介されて驚きの声を上げたのをチラッと見たが、どうなったかは知らない。


 お見合いにさんざん文句を言っていたが、次の日には随分と笑顔になっていたので、良い出会いがあったのだろう。長続きすることを祈る。


 数日間、念入りに長老の身体の中の癌細胞をしっかりと除去した。

 ついでに皮膚のたるみやシワとりなんかも調子に乗ってやっていたら、全盛期の長老の姿になってしまい、それを見た他の老いを感じるエルフたちに囲まれて予定よりも大幅に滞在することになってしまったが、喜んでもらえたようで良かった。


 閉鎖的な空間に住んでいるので、影響も少ないからと俺もはしゃぎ過ぎた感がある。


 やっぱり、人が喜ぶ姿を見るのが楽しいし、嬉しいのだ。


 帰る際は全員に見送られて帰ることになる。


 いつでも来ていいとエルフの村のフリーパスのお墨付きももらえたことだし、今度はスノウを連れて行くつもりだ。


 久しぶりに街に帰ったらすぐにスノウに抱きついた。少し合わなかっただけで寂しかったのか、顔を見たら勝手に体が動いた。


 そして溜まっていた業務を片付ける日々に追われてあっという間に時間が過ぎていった。



 ────────────


 あれから1年が経過した。


 結局、マネシスライムは教会が自分たちの権威を高める為マッチポンプ的に災害を発生させようという企みの一つだった。


 ロメルダ、それにサルゴンの協力でロメルダを陥れた新教皇の派閥を排除してまともな派閥での組織改革が行われた。


 ロメルダは教会の特別顧問として時々手助けをしてやってるが基本的にはイルラキアで娼婦たちや孤児の面倒を見てやっている。


 教会からは手を引くと言っているのに、やっていることは教会と殆ど変わらない。


 カルラはメキメキと治癒魔法を上達させており、欠損や重い病気の患者じゃなかったら日常の業務は任せられそうだ。

 可愛くて愛想もいいので、街の男連中から随分とモテている。今は修行に専念していて恋愛どころではないとのこと。


 レーギスは長老の紹介したお見合い相手と結婚することになった。といってもまだ婚約中。

 エルフの結婚はかなりじっくりお互いを知っていくステップが必要らしい。


 顔馴染みだったらしく歳も近かったし、久しぶりに再会すると当時の印象とは違ったとのことで、意外と抵抗感がなかったと、レーギス自身も驚いていた。


 そして、ヘンリーだがうちのアンと最近は良い雰囲気だ。付き合うまでは行ってないし、相変わらずヘンリーの冗談を厳しく切り捨てているが、少しずつ距離が縮まっているのを周囲の人間も感じている。


 立場上は彼女は俺の奴隷ということになるが、店の仕事をやってくれる分には解放してヘンリーと結婚してもらっても別に構わない。



 シェリーだが、生き別れとなっていた母と再会することになった。教会の悪い奴らをぶっ飛ばず為にシェリー、ヘンリー、レーギスと共にアジトを襲撃したら、まさかの洗脳状態で発見。


 激しい戦闘になったが、無限に回復し続ける俺の存在によって最終的には勝ったし、洗脳も無事に解けた。


 その周辺一体は焦土と化したが、幸い近くに人の気配が無かったので大きな被害は無かった。


 従属契約をしていることが母親にバレてかなり叱られていたが、なんとか話に折り合いをつけて認めてもらえた。


 ただし、繁殖の為に子種を提供する契約を結ばされた。


 スノウに相談したら割とあっさりと許された。そもそも元勇者である俺の血を一人で独占するということ自体考えておらず、世界全体のことを考えても、もっと妻を娶るべきだと言われた。


 全然考え方って世界によって違うんだなあと思い知らされた次第だ。


 だが、俺は今のところ一人の女性を愛するので手がいっぱいだ。


 周りに女性は多いけど、ハーレムを築いて全員と上手くやる甲斐性はないと思い知らされる。

 シェリーは妻という認識ではなく……なんだろう? 精子提供者? よく分からんが、可愛がってはいるがそれは妹のような愛情に近い気がする。


 それでも、もし子供が生まれたらやはり俺が父親ということになるので、責任は取る覚悟はある。


 最後に、スノーだ。彼女のお腹は現在はかなり大きくなっている。まあ、愛し合ってたら当然だが俺のせいだ。


 色々とバタバタとした日々が続いていたので予定が狂いまくったが、今日はいよいよ結婚式。


 多くの仲間に囲まれた中、俺は指輪を取り出す。


 これは特別な指輪だ。ダンジョンで皆に無理を言って協力してもらって入手難易度がめちゃくちゃ高い魔獣を倒して得た宝石をヘンリーに加工してもらった。


 サイモンに鑑定してもらったところ、つけてるのがおっかないくらいの高級品とお墨付きをくれた。


 オパールのような光の具合によって色が変わる特殊な鉱石で出来た指輪だ。しかもアレキサンドライトみたいに暗さの違いによっても色合いが変わり、夜は薄らと発光までする。


 色を自在に操りどんな風景でも描く画家の彼女にピッタリだと思う。


 これはスノウには見せたことがなかった。今日の為のとっておきのサプライズにしたかったのだ。


「受け取ってくれるか?」


「喜んで……これからもよろしくねケニイ?」


「ああ、一生お前を大切にする。この子もな」


 スノウは笑いながら手を俺の前に差し出す。俺は彼女の雪のように白くて美しい、それでいて画家らしくペンダコのある職人の指に指輪をつけ、キスをする。

 そしてスノウのお腹を優しく撫でる。


 時折、ポコンと蹴り返すような動きを感じる時がある。今のところ元気そうだ。


「「「おめでとう!」」」


 皆が拍手と共に祝福する。


「やったな、ケニイ! 家庭のことは俺にいつでも聞いてくれよ!」


 ディーンが俺の肩に腕を回して祝福する。


「なんでディーンが泣くんだよ?」


「ダチであり、息子みたいなお前の結婚だ! そりゃあ泣くさ!」


「まあご近所さんなんだ、子育て、夫婦生活、初めてのことだから俺だって悩むこともあると思う。その時は頼む」


「任せろ! 家族の話をしながら酒を飲む、悪くねえ!」


「結局それが目的か」


「ガハハ! 冗談だって!」


 ディーンはそういうが、状態とは思えない。でも頼りにしてるのは本当だ。先輩として何かあったら相談させてもらえる人がいるのは素直にありがたい。


「ケニイ、子供が商人になりたかったらいつでも面倒見るからな」


「サイモンさん、気が早いって……まだ産まれてもないのに。でももし商人になりたがったら頼みますよ」


「商人にならなくても俺の力で大体の仕事は斡旋してやれると思う」


「はは……その時がくればね」


 サイモンは今では国の中で最大の商会の会長となっており、実際に職の斡旋など容易に出来てしまうから迂闊なことは言えない。


 行動が早過ぎて、気が付いたら大事になっていそうで怖い。


「ケニイおめでとう、次は僕だな」


「いーや君の前にこっちが先に結婚する!」


「ヘンリー君は彼女すらいないだろ! 僕は婚約者がいる!」


「レーギス、見てろ! ……アンちゃん、君の美しさは──」


「場をわきまえてください」


 跪き、アンに告白しようとするヘンリーを彼女はバッサリと切り捨てる。


「今は二人が主役の場でしょう。後にしてください」


 おや……? これは脈アリっぽいぞ、ヘンリー。



「おめでとうございます、ケニイ様。お子様のお世話、あらゆる雑事は私にお任せください」


「ありがとうリリー。でも俺も父親だからやれることはやるよ。仕事で家を空けてる時はスノウを助けてやってくれ」


「もし奥様が具合の悪い時は私を可愛がってくださっても大丈夫ですからね」


「おいおい、冗談キツいぞ」


 リリーの冗談……なのかは分からないが、頼れることには間違いない。彼女の家事能力の高さにはいつも助けられている。


「皆! 聞いてくれ! 今日は俺たちの為に集まってくれてありがとう! これからもよろしく頼む!

 色々失敗して迷惑かけることもあると思うが、俺は全力で頑張るつもりだ! 何かあったら助けてくれ!

 でも俺も相談されたら出来ることはなんだってやるからいつでも頼ってくれ!

 とにかく……ありがとう!」


 言葉はつたないと思う。でもこの幸せな気持ちと決意は口に出しておきたかった。


 幸せな家族関係、俺には縁のなかったものだったが俺なりの答えを探していきたい。


 産まれたところとは全然違う世界だけれども、俺はこの世界で生きている。


 これまで頑張った甲斐があった。やっと努力が身を結んだ。と目の前の俺とスノウを祝福してくれる皆の顔を見て実感する。


 教会の治癒に関する利権問題がほぼ解消したことにより、俺の治療を待ってる人が大勢いる。


 忙しいと思うけど、俺の出来ることで誰かの人生がより良いものになる手伝いが出来るなら頑張りたい。


 俺は新しい人生のチャンスをもらった。怪我や病気で辛い思いをしてる誰かの人生を変えられるような仕事に誇りを持っている。



 今まで生きてきて、この世界に飛ばされて、魔王退治なんて大変な目にあったけど、その全てに感謝をしたい。


 ありがとう人生! ありがとう異世界!

ここまで読んで頂きありがとうございます。コメディメインの作品を初めて書きましたが、想像以上に執筆が難しくなかなか進められませんでした。

かなり気落ちしてしばらく手がつけられず、エタりかけていたのですが、区切りはちゃんとつけないとと思い頑張りました。

もっと読みたかったという方もいらっしゃったかも知れません。でもいつまでも待たせるのも申し訳なく、これにて完結とします。見てくださってありがとうございます。


現在、新しい作品を頑張って書いております。全然雰囲気が違うシリアスな作風です。

シリアルキラーになった日本人の勇者を殺すバディのお話です。

もし、良かったら読んで見てください。

https://ncode.syosetu.com/n1516ik/

『ブラックリスト勇者を殺してくれ』

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