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2-17 管理職の仕事

 ロメルダに娼館を任せるという話から3ヶ月が経った。


 あれから、ロメルダはシェリーを孫のように可愛がるようになった。まあ、生き別れた旦那が世話してた娘と思えば無理もない。


 実際の年齢はシェリーの方がずっと上だが、振る舞いや落ち着きはロメルダの方がずっと上だ。


 サイモンの言うことはあまり聞かないドラゴン娘だが、不思議とロメルダの言うことは聞いていた。というより何故か逆らえないようだ。


 元々ロメルダは権威ある立場にいたこともあり、行儀や喋り方の徹底した指導によって、シェリーの立ち振る舞いは、かなりマシになった。


 あまり乗り気でなかった娼館経営だが、ロメルダによると、ちゃんとした奴が運営しないと達の悪いやつが運営するようになり、街の治安や衛生も悪くなるとのこと。


 責任感があり、悪いことをするような奴じゃない者が運営するということは、俺が思っているよりも重要な事らしい。


 今日は、娼館で働く人たちとの顔合わせだ。


 新しく建築された娼館はサイモンのエストニール商会が力を入れて、領主によるバックアップもあり、かなり本格的なものとなっている。


 高級路線で、相場よりも高め。見入りのいい冒険者や商人を狙いながらも、一般人でも利用出来るようコースを設定しているらしいが、経営に関してはほぼノータッチなので詳しくは把握していない。


 俺がやることは健康管理が主な仕事だ。


 メンバーを集めるのに思っていたより時間がかかった。希望者の求人から密偵や犯罪者ではないかの身辺調査まで、非常に細かく厳密に行われたからだ。


 新規の店を開くとなると人材集めが難しい。人気のある者はすでに雇っている店が手放したくないし、基本的に客商売なのに素人を雇うわけにもいかないからだ。


 ただ、やる気があれば未経験でも採用試験にクリア出来た者もいるとか。


 さて、店内に人が集まり挨拶が行われる。第一印象は出来るだけ良くしたい。



「はいはい、注目なさい。私はロメルダ、この娼館の実務を執り仕切るもんだ。あんたたたは、これからここで働くことになる。よその町じゃ人気のなかった者、未経験の者、一発逆転を狙いに来た者、色々いるだろう。

 娼婦ってのは頑張り次第じゃそこいらの商人よりも良い暮らしが出来るチャンスがある。


 ──だが、運も大事だ。顔や身体の綺麗じゃないところ、怪我に病気と自分じゃどうしようもないところで足を引っ張られちまう。

 良かったね……あんたたち。ここはそんなことで悩んでる暇はないからね。

 私のことはこれから顧問と呼びな、店が開くまでに作法を徹底的に教えるよ。ちゃんとやりゃ、高給取りの仲間入りだ!」


 既に秘密保持の契約を結んでいる彼女たちはザックリと俺の出来ることを知っている。


 顔や胸、肌の傷など治療して欲しい箇所の申請書がまとめられており、後で俺が個別で対応することになっている。


 それにしても流石ロメルダ。彼女たちのモチベーションを上げる演説が上手い。

 俺は勇者の時はリーダーの蒼の横でキリッとした顔をして黙っていれば良かったからな。


「この店の代表、ケニイだ」


 俺が挨拶すると彼女たちは驚いた表情を見せる。俺の顔が娼館を経営するには随分と幼いからだ。


 時々、自分の見た目が精神年齢より若いことを忘れて振る舞ってしまう。

 だから奇妙な目で見られて慌てて取り繕うことがある。コナン君の大変さが身に染みる。


「ゴホン……娼婦というのは身一つで成り上がれる可能性もあるが、その分危険もある職業だ。

 だが、俺の店で働く以上、その心配はしなくていい。怪我や病気になったら速やかに申請するように、皆が安心して働ける職場を作ろうじゃないか!」


 ……こんなもんでいいかな。上の立場で話すなんて柄じゃないから今回限りにしたい。


 午後からは別の用事。


 俺の手元に入ってくる金のもう一つの使い道だ。


 ヘンリーとレーギスが日本のインスタント食品に触発されて、冒険者向けの保存食を開発する事業に投資することになった。


 この街に住み着き安定した生活をしたいという理由で冒険者以外の職を考えた結果だそうだ。


 問題は奴らが元手無しの貧乏人ということ。泣きつかれた俺は渋々融資してやることとなり、今日はその進捗状況の確認をする。


 定期的に確認しないと、ダラダラと資金を食い潰すのは分かりきっているので監視が必要なのだ。


「よお、調子はどうだ?」


 街の中心部から少し離れた場所にある研究室に赴き、声をかける。


「何をどうすればこんな不味い粉が出来上がるんだ?」


「不味いってのは君の主観だろ?それにまだこれは完成じゃない。一つ足りないものがある」


「なんだ?」


「空腹は最高の調味料ってな。ダンジョンで腹ペコになったら十分美味く感じるから問題ない。それより昼飯にしようぜ」


「丁度良い。空腹は最高の調味料なんだろ?その粉を舐めたら美味いんじゃないか?ん?」


「そうだな、確かに空腹の時に味見はしてなかった──ブッ!不味い!馬のゲロみてえな味だ!」


「おい!僕に馬のゲロを舐めさせるんじゃない!あっ、ボス!ようこそ……開発は順調に進んでるよ」


 レーギスが俺に気付き、笑顔でそう語る。


「そうか、今し方馬の糞という言葉が聞こえたが」


「なっ!違う違う!牛の『ベロ』みたいな味だって、この間ケニイが焼肉食べさせてくれただろ!あ〜あのタンとかいうのもう一度食べたいな〜レーギス」


「あ、ああ!牛のベロは最高だよ!」


「ほう、丁度パトロンの俺に嘘をつくやつの舌を引っこ抜いて食う予定なんだが、お前らもどうだ?おっと、お前らの舌は無くなってるから飯も食えないなぁ?」


「「…………」」


 ヘンリーとレーギスは俯きながら、目を合わせようとしない。そんなイタズラを飼い主に発見された犬みたいなことしてもダメだ。


「どういうことだ?そろそろ普通に食える粉末が完成すると言って、2週間前に出資の増額を頼んでたよなあ?」


「……ヘンリー、君が言えよ」


「なんで俺ばっかり!?」


「君が材料の調合中に居眠りしてダメにしたんだろう!僕はやめとけと言ったのに嘘までついて、慌てて不足分を買い付ける金をもらって、代わりの材料で誤魔化すことを画策しただろうが!」


「あれは君が起こしてくれないからだろ!俺は一度寝たら起きないの知ってるのに!」


「へえ?どうやって外出中に君の居眠りに気付く事が出来るんだよ?」


「それは──大体なんで外出なんかしてるんだ!?あの日どこで何してたんだよっ!」


「一々プライベートを詮索される筋合いは無い!」


「プライベートって、仕事時間中だろう!?」


「仕事してなかったんだから仕事中とは言えない!」


「ふっ、墓穴を掘ったな!ケニイ聞いたか!?こいつ仕事をサボって遊びに行ってやがったんだぜ!」


 こんな会話を聞いてたら頭がおかしくなる。お前ら両方、墓穴掘りあってんだよ。


「遊んでなどいない!剣の手入れをしにいってたんだ、ここは湿気が多いから錆びたら困るからね!次ふざけたこと言ったらこの切れ味最高の僕のロングソードを君にぶっ刺すぞ!」


「自分で何を言ってるのか分かってるのか!?」


「ああ、分かってるさ、僕のロングソードで君はあの世行きだってことだ!」


「頼むから黙っててくれ!」



 ────────────


「それで、失敗から学んで次に活かす為にどうするんだ?」


 喧嘩を仲裁し、失敗の原因を突き止めて、改善策を出させる。


「そうだな、眠りそうになったらレーギスに知らせがいくような魔道具を作るってのはどうだ?」


「君が起きる魔道具を作れよ、なんで僕が起こしにいく前提の魔道具なんだ」


「優しく起こしてくれる君だから安心して寝れるんだろ?」


「ヘンリー……ふっ、君ってやつは……」


「お前らマジでなんなの?」


 結局、解決策がよく睡眠をとり昼寝休憩を取る。働き過ぎてはいけない。というあまりにも当たり前な案が出た。


 そしてレーギスはヘンリーが眠りそうになったら起こしてあげる為に、仕事中は出かけない。というルールが出来た。


「そういえばケニイ、娼館の方はどうだった?俺好みのお姉ちゃんいたら格安で紹介してくれよ?」


「お前好みがいても、お前のことは好きにならないのが問題だ。レーギスにおっぱいをつける方が早いぞ」


「なんで僕におっぱいつけるんだよ、嫌だよ!?」


「俺が女になる手術してやるし、お前らくっつけばいいだろ?」


「レーギスが女に……アリかもな」


「無しだよ!どうせなら僕の身長を伸ばしてくれ!」


「言っておくが、骨を伸ばすのめちゃくちゃ痛いぞ?女になるのは痛くないが」


「偉大なる勇者のニイジマに僕の心の痛みを治療する魔法を神様は与え忘れたようだな!クソったれ!」

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