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2-12 VIPリスト

 サイモンに呼び出され、彼の部屋で雑談をしていた。


「それで……どうです、シェリーは」


 シェリーはサイモンの店で働くようになり、一か月以上が経つ。礼儀作法の研修もやっと終わりを迎えようとしている。


 礼儀作法、というより元々、王族のシェリーはテーブルマナーなどは知っている。問題なのはドラゴンであることを隠し、普通の人に格下として扱わず接する訓練だ。


 俺は俺でマッサージ屋としての仕事が忙しくシェリーの仕事まで見ているほど暇ではなかったので、どうなっているのか知らない。


 ただ、毎日クタクタで帰ってくる。体力的、魔力的に問題はないが、精神的に疲労を覚えるというのはどれだけ強くても変わらないらしい。


 口を開けばサイモンの悪口を言い続けるのだ。


「簡単に言えばだ……奴は天才だ……」


「ですね、あんなに人をイラつかせるのは一種の才能だ」


「何を言ってる?」


「え?」


「彼女は有能で教え甲斐がある。口答えはするが、右手の薬指くらいには活躍しているぞ」


「使えるのか、使えないのか分かりにくい表現ですね」


 右腕とかなら、もう相棒のようなポジションだが、薬指って一番使わないから、綺麗で薬を塗る時に使う指で、薬指じゃなかったか?


「あいつ、そんなに頑張ってるんですか?」


「ああ。まず、荷物の運搬が主な仕事だから、人との会話は最低限だ。礼儀作法はやれば出来るが人を見下す癖に関しては、もう黙る他ない。黙る練習をしてようやくそれができるようになった」


「ちょっと待ってください。あいつの仕事は黙ることなんですか?」


「そうだが?」


「え、じゃああいつは毎日ヘトヘトになってたのは黙っているストレスで疲れてたんですか?」


「恐らくは。一日中、何を言われても黙っている練習をしていることもある。最初の方は我慢のし過ぎで、何故かその場で転移を連続してチラチラと出てきたり消えたりしていた」


 ゲームのバグみたいになっちゃってるじゃないか。


 なんてことだ。黙るのを仕事にしてしまうと、逆に仕事ではない、家にいる時は黙らなくていいことになってしまう。

 無限に喋り続けるから、うんざりしていたのだがそんなことになっていたとは。


「俺はよその街に商売をしに出かけることも多いが、その移動時間が数日からほんの数分に変わったのは劇的だ。

 大量の荷も運べるし、道中の危険を心配する必要もない。経費が大幅に削減された。街の中も一々馬車を使わなくとも手ぶらで移動出来るのは非常に時間の節約になる」


「元々、そういうことが出来るだろうと思って紹介したのでね」


 あいつ、社長のお抱え運転手みたいなことになってるな。


「お陰で街道沿いに湧く盗賊も全て捕まえてしまったので、旅自体は誰でも安全になっているのだがな」


 何やってんのあいつ!?


 いや、待て。そういえば家でそんなことを言ってたような……武勇伝は聞き飽きたのでスルーしていたが、盗賊をぶっ飛ばした的なことは聞いたはずだ。


「それマジですか?」


「なんなら、ここと隣の領主から感謝状ももらっているが知らないのか」


「ええ……あっ、あ〜……なんか、領主様からシェリーによろしくって言われたの、思い出したかも」


 あれ?でもそんなもの見たことないぞ。


 あっ、分かった。あれだ。この間、「カンシャジョーは何の役に立つ」と聞かれて「役に立つものではないな」って答えたら「そうか、ヘンリーの生殖器と同じか」とか言って喧嘩してたんだった。


「時々爆発して、喋り続けるのが問題だが、商売の方は大きく売上に寄与してるからな。よく鳴く馬車だと思って割り切っている」


「気を付けてください。彼女はムチで叩いても止まりませんよ。馬100頭を繋いだ馬車の方がまだ静かなはずだ」


「確かに。褒めてやらないとすぐに不機嫌になるし、プライドが高いのは馬と同じだが、馬の文句は何を言ってるか分からん分マシだ」


「彼女に聞かれたら蹄で蹴られますね」


「ふふ……冗談はこのくらいにして、本題だ。シェリーと国中を移動して『客』のリストが出来つつある。そろそろ、大口の商売を始めようと思う」


「いよいよですか」


 客とはつまり、俺のスキル『肉体改変』による治療、整形手術をする相手のことだ。


 取れるところから取れるだけ取る。金で解決出来るなら安いもんだという身体の悩みを持つ金持ちをターゲットにした商売。


 そして、その金持ちや有力者をバックにつけ、更に商売を思い通りにするビジネスプラン。


 それの準備が整い、ようやく本格的に開始となるようだ。


「ダンジョンが公開されれば人も増えてトラブルも注目も増える。今のうちに恩を売っておきたい相手がいくらでもいる」


「それで、どんな相手ですか?可能かどうか一応確認しておきたいので、教えてください」


「そうだな。取り敢えず5人だ。詳細はこちらにあるので、確認してくれ」


「分かりました」


 リストに目を通して、どんな依頼なのかを確認する。


 ・落馬で足が不自由になり、跡継ぎになれそうにない候爵家の長男


 ・虫歯で歯が殆どない美食家として有名な商人上がりの子爵


 ・首に年々肥大していく瘤がある金貸し屋


 ・老化によって手の痺れ、視力悪化のある建築家


 ・知り合いの商人の紹介による女性2名一組の胸の豊胸



 なるほど、確かにこれは現在のこの世界の教会の治癒術ではどうにもならない客ばかりだ。


「この女性2名の依頼が少し気になりますね……何故一緒に?」


「それに関しては俺もよく知らない。詮索しないことも含めて報酬の約束をしているのでな。特に女性だ、秘密にしておくのが重要なんだろう。

 身元に関しては紹介を受けた商人から保証されているので、その心配はしなくて良い。

 商人は信用が命だ。俺の信用を損なうような真似をするはずがない」


「そうですか」


「問題は、それぞれの治療に対し報酬の見積もりが俺では立てられないことだ。何がどの程度ケニイの負担になるのか分からんのでな」


「うーん、まず歯がない人の治療が一番金も労力もかかりますね」


「そうなのか?足を治すのが一番難しいと思っていたが」


「元々あるものが不調をきたしているという症状は比較的簡単に治せます。ない物を一から作るというのが大変なんです」


 歯を生やすだけじゃなくて、虫歯の除去、虫歯菌の解毒、虫歯菌の侵食部位を回復と手間が多い。

 矯正なしで真っ白な歯並びのいいものを作ってやるんだから、そりゃ高い。


「逆に一番簡単なものは?」


「瘤の除去でしょうね。実質取るだけですから」


 化膿や出血を阻止出来る俺だからの話だが。


「胸ではないのか?揉めば大きくなり、揺らせば小さくなるもんだろう」


「それは半分迷信ですね」


 それでなんとかなるなら、胸のサイズで困ってる女性はいないだろう。


「まあ、情報が少ないので判断しかねますが、どれだけデカくして欲しいかによって大変さは変わりますがね」


「では、報酬は最終的に満足いく大きさに合わせてだな」


「やり直しは金取ってくださいよ」


「当たり前だ。頼む、貧乳で優柔不断な娘であってくれ!」


「……不謹慎では?」




 サイモンと話し合って出来たら見積もりが以下の通り。


 ・落馬で足が不自由になり、跡継ぎになれそうにない候爵家の長男→金貨500枚(約5000万円)


 ・虫歯で歯が殆どない美食家として有名な商人上がりの子爵→金貨700枚(約7000万円)


 ・首に年々肥大していく瘤がある金貸し屋→金貨35枚(約350万円)


 ・老化によって手の痺れ、視力悪化のある建築家→金貨100枚(約1000万円)


 ・知り合いの商人の紹介による女性2名一組の胸の豊胸→2人合わせて最低でも金貨200枚(約2000万円)



 となった。


 虫歯の子爵が一番高いのはいいとして、侯爵の長男に請求する額がかなり高い。


 治療内容としては神経の回復なので比較的簡単な方だ。多少の肉体改変を使うかも知れないが、それでもすぐに終わらせられるだろう。


 だが、侯爵家の長男の跡継ぎ問題が金で解決出来るのであれば安い方らしい。

 むしろ、金よりも今後便宜を図ってもらう約束をする方が旨みがあるようだが、その辺は俺にはよく分からん。


 どの治療でも馬鹿みたいに高いし、保険も効かない。でも、俺くらいの治療スキルは誰も持ってないので、安売りしたら大変なことになるくらいは分かる。


 命に関わりのあるものは、すぐにでも治療してやりたいが、全員は救えない。


 これは勇者として冒険し最初の方に学んだ基本的なこと。それで一々罪悪感を覚えていたら心がもたない。


「では、1週間後に始めるからそのつもりで」


「分かりました」

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