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2-9話 調査報告

 俺はヘンリーとレーギスに同行しダンジョンの調査報告をする為、領主の屋敷を訪れていた。


 俺は回復役として、臨時で参加した旨を伝え同席を許可され、お茶を飲みながらダンジョンについての所感を伝えていく。


「おお、ではダンジョンは本当に活動しており、冒険者の誘致が可能な状態なのだな?」


「はい。浅い階層の難度が異常に高いということもなく、それなりに深さもあります」


「えー、つまりー……?」


「つまり?あっ、深い場所ほど不快です……なんつって」


「違うだろ、ヘンリー。深いということはそれだけ下の階層には強いモンスターが出るので貴重な素材の獲得が見込めます。エルフの森の深いところには木しかありませんがねぇ!へっへっへ!」


 普通に報告出来ねえのか、お前ら。貴族の相手とかが慣れてなくてガチガチに緊張してるのは分かるが、それで今まで依頼を受けることが出来たのが不思議なくらいだぞ。


「あの有名な冒険者、ヘンリー殿レーギス殿がそういうのであれば間違いないだろう」


 そのヘンリー殿とレーギス殿だから不安なんだが。


 領主はデカした!と嬉しそうに膝を手で叩いた。


「それと、これはダンジョン内で発掘した品です」


 ミスリルの塊を机の上に置き、領主に見せる。


「こ、これは……!?」


 ミスリルを目にした領主は額から汗を流し言葉を詰まらせた。


「一体なんなんだ!?」


 分からんのかい!とツッコむのは失礼なので心の中に留めておく。


「ご存知の通り、ミスリルの原石です」


 分かってなかったんだから、ご存知の通りは嫌味になっちゃうだろ。


「ミスリルだと!?私が知っているミスリルとは随分違うように見えるのだが?いや、待て。わざわざ私に持ってきたのだ、相当純度の高いミスリル……違うか?」


「……あ、間違えました。これ、ミスリルの周りについていた岩の一部でした。サーセン」


「ご存知の通り、ヘンリーは馬鹿です。へへっ笑えるでしょう?」


 ヘンリーはミスリルを入れていた袋から慌てて本当のミスリルを取り出した。レーギス全然笑えねえよ。


 お前ミスリル一つで何回恥をかかせたら気が済むんだよ。


「こっちが本物です」


「全然違うではないか!?何をどう間違えるのだ、其方ドワーフであろう、鉱物は得意分野ではないのか?」


「俺は……ドワーフの中でもハミ出し者でして……へへ」


「うむ、確かにハミ出し者だな。鼻毛も、シャツの裾もハミ出しておるぞ」


「うっそ!?もー、早く言ってくださいよ〜?」


 ニヒルな笑みでアウトロー気取っても、間違えてるだけだからな。


 ヘラヘラ、クネクネとしながら裾をズボンに入れ、鼻毛を確認するヘンリーにレーギスが怒りをぶちまけだした。


「だからあれほど身だしなみはしっかりしろと僕は言ったんだ!シャツくらいしっかりしまっとけ!」


「仕方ないだろ〜、ハミ出すのは得意なんだよ、一昨日もダンジョンで腸がうっかりハミ出しかけたんだから……誰かさんのせいでな」


「なっ……あのことをまた蒸し返すつもりか!?」


「2人とも、領主様の前だぞ!?見苦しい!」


「ぼ、冒険者というのは変わり者が多いと聞くがここまでとはな……『夫婦冒険者』という称号は伊達ではないな」


 うわ〜、そんな称号ついてんのか。そりゃモテんわ、確かにこれは夫婦喧嘩ぽいし、犬も食わない酷さだ。


 領主様のギリギリ叱咤にならない範囲の優しさで処理されたが、他の貴族ならガチで命危ないぞお前ら。


 あと、こいつらは変わり者の多い冒険者の中で特に変な奴らなんで、これで一般的だと思ってはいけませんよ!


「それと、ダンジョンの外側に温泉が湧いておりました」


 俺のせいでダンジョンを爆破したというのはまずいので、元々あったということにした。


「オンセン……とは?」


「地下にある水が地熱で温められ、お湯になったものが湧き出しているのです。勇者のもたらした風呂を外で大人数で楽しめるもの、と思って頂ければ。天然の公衆浴場のようなものです」


「なんと、個人で楽しむもの風呂だが、同時に複数人入れるということか。王都にそのようなものがあると噂で聞いたことがある」


「はい。いっそのこと一般に解放してダンジョンの名物にしては如何かと。ダンジョン内は蒸し暑く、汗を流すのに丁度良く更なる収益が見込めるかと」


「うーむ、そんなものがあるとは。しかし……」


「何かご懸念が?」


「私は風呂が苦手なのだ。国王に倣い、鐘一つ分は入っているが、それ以上となると……」


「入り過ぎですけど!?茹で上がりますよ!?その半分の半分も入れば十分です!」


 鐘一つ、これはこの世界で言うおおよそ2時間だ。


 大体、国王は風呂にどハマりしてる風呂マニアで何時間も入るアホだぞ。


 蒼が、かの皇帝ナポレオンが1日6時間は入っていたという逸話を聞かせて張り合ってるだけだから真似しなくていいんですよ、そんなの。


 冬場は会うたびに身体から湯気が立ち上ってるもんだから初めて謁見した奴は「流石は陛下だ。オーラが目に見えるようだ」とか勘違いされてるくらいだぞ。


 しかもちょっとそれをカッコいいと思ってやってる節がある。

 絶対にサウナの存在を教えるなと俺が他の勇者に厳命したくらいだ。教えたらあの王は死ぬまでサウナに入り続けるだろう。


「そうであったか、入浴時間は減らそう。しかし、まだあるのだ。男たる者、髪を洗う時は目を開けたまま流すべきだが、どうにもな……しかし温泉を名物にする領主としてそれでは示しがつかんだろう」


「聞いたことない作法ですけど!?誰から聞いたんですかそんな話」


「誰って、となりのダンジョン街の領主のダルムーア卿だが……まさか!?」


「多分ですが、揶揄われていると思います。王都の公衆浴場を利用したことありますが聞いたことないので」


「あんのクソデブガァッ!私が田舎者だと思って毎度くだらん悪ふざけをしやがって!あご肉ダルダルムーアめっ!ダンジョンの利益があるから今までは逆らえんかったが、泣きを見るのも今回限りだ!」


「もう、泣く必要はありません……石鹸が目に入る心配もありませんしね」


「へへっ、やるじゃないか、上手い事言うなヘンリー!」


「上手いこと言うな!」


 レーギスも笑ってる場合か、不敬罪で処罰されるぞ。


 ……なんか可哀想だから今度シャンプーハット進呈しよう。



「となると、急いでダンジョン周辺の街道の整備に温泉の為の施設や旅館の設置をせねばならぬか。これは我が領地が更なる繁栄をもたらすものだ。本気で取り組む必要があるな」


「冒険者も山のように押し寄せるでしょう。宿の質じゃこの街の方がいいっすからね」


 サイモンの店が幅を利かせていることもあり、ダンジョン街よりもサービスの質が良いそうだ。


「まあ、格安でマッサージをしてくれるケニイの店があるならどこだっていいさ」


「おい、領主様の前だぞ」


「構わん、冒険者視点で率直な意見が聞けるのはありがたい。これからの領地の利益は冒険者によるものが大きくなるのだから貴族的な世辞よりは聞いておきたい」


「流石、領主様。慧眼です」


「よせ、ヘンリー目の話はまずいぞっ!」


「おっと、これは飛んだお目汚……お耳汚しを」


「お前らワザとだろ!?」


 いや、そのまずいぞ、がまずいんだよ。黙ってたら別に他意はないのに、意図的に目の話したみたいになっちゃうだろうが。


「……ケニイ、マッサージ屋の営業もあるだろう。話はこの辺にしておこう。あ、そうそうシェリー君によろしく言っておいてくれ」


「シェリーですか……はあ、分かりました?」


 幾つかの細々とした報告を終え、お開きとなった。というか、暗に追い返されたが正しい。



「お前ら、なんなんださっきのは」


「緊張しちゃって、すんませんねえ」


「ヘンリーの緊張がうつったんだ。くそ、ペースを乱された」


「君こそ余計なことを何度も言ってたじゃないか」


「君の失態をフォローしてやったんだ」


「ああそうかい、フォローが領主の前で俺を馬鹿呼ばわりすることだとは知らなかったよ!評判が落ちたらどうするつもりなんだ!

 それにシャツや鼻毛が出てることくらい事前にチェックしてくれたって良いだろ?」


「僕は君のママじゃないんだ、それこそ『余計なこと』だろ。第一君の馬鹿さ加減は僕が口にしなくてもあの石鹸が染みた領主の目にも明らかだったろうよ!?」


「まだ、目の話をしたいのか、しつこいんだよ君は!?」


「もう、良い。今後領主と話す時は俺が話すからお前ら黙ってろ。首が何個あっても足りんぐらい失礼だ」


 一緒に来たいとダダをこねたシェリーを無理やり置いてきたのは正解だった。


 これからイルラキアの街はダンジョンオープンと温泉の利用に向けて忙しくなるだろう。


 あれ?そうなると他領の人間が沢山来て忙しくなるし、マッサージ屋が知られてしまうのでは?


 なんだかトラブルの予感がするが何もない事を祈ろう。

 その為には住人に協力してもらうことが必要不可欠だ。


 午後から仕事頑張ろ。

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