1-3話 旅の終わりと人生の始まり
「新島さん、本当にこの世界に残るのか?」
「ああ、なんだかんだ愛着もあるしな。あっちじゃ、俺は役立たずだが、こっちなら一人でなんとかやれるしな」
「そうですか……寂しくなりますね」
「ああ、お前らも高校生活楽しめよ!」
「あなたには、本当にお世話になりましたね。ガキだった俺たちの子守りは大変だったでしょう?」
「まあ、正直言うと大変だったよ。シッター代の請求書後で送るからな。ほんとにすぐにケンカするしよ。でも結果はハッピーエンドだろ?」
「ええ、おかけで三人の愛に気付くことが出来ましたよ。ぶっちゃけ、7年我慢した俺、偉くないですか?」
「むしろ気付いてなかったのお前だけだそ?勇者のスキルの痛覚耐性で、鈍感になってるんじゃないかと何度疑ったことか。
お前との仲を取り持たなかったら俺は今頃死んでたな。
7年我慢したのは俺だっての、馬鹿野郎が。
……でもよ、この世界なら一夫多妻は認められてるけどあっちではどうするんだ?」
「それが、神様たちの計らいで出来るようになるらしいです」
「へー、そりゃ凄いな。世界のルールが変わっちゃうのか」
「というより、ほとんど同じだけど、少しだけ違う世界に移動して辻褄を合わせるみたいです。
新島さんのご褒美より大変だったらしいですけど、4人分ってことで何とかしてくれたみたいです。本当にありがとうございました!」
蒼は目に涙を浮かべながら手を差し出した。俺はその手をがっしりと掴み握手をする。
そういえば、こいつと握手なんかしたことなかったな。
「新島さん、私たちも感謝しています」
蒼のハーレム軍団も涙を流していた。
「おう!皆幸せにな!」
俺がいなくなったことで、俺がどれだけ苦労していたのかを身をもって体験することになるだろう、モテ男よ。
「はい!」
こうして、大勢の人に見送られながら俺たち勇者パーティは白い光に包まれる。
「勇者様ー!ありがとうございましたー!」
結局、主役は勇者の蒼で、俺は脇役のおっさん。最後に感謝され、注目されるのは俺じゃない。まあ、結構頑張ったし助演男優賞くらいはもらいたいところだが。
目の前が真っ白になり、景色は青い空と綺麗な野原が広がる場所にポツンと一人で立っていた。
「さて、能力の確認するか……ステータスオープン」
勇者とその一向に与えられた特別な力の一つ、鑑定能力は自分や相手の能力をある程度調べることが出来る。
新島 景 34歳 肉体年齢15歳
職業 治癒術師
称号 癒しの人 勇者の仲間
体力 5000
魔力 100000
スキル
・回復
・解毒
・アイテムボックス
・鑑定
・物品召喚
・肉体改変
「おおっ更新されてる取り敢えず物品召喚について詳しく鑑定っと」
物品召喚
消費した魔力を仮想の金銭として扱い、召喚された世界からの物品を生み出すことが出来る。
消費可能金額 1000万円分
「ということは、俺は今まで1000万円相当の魔力を使ってきたってことかな?でも使えば使うほど減るし、1日に頑張ってもせいぜい10万円分しか稼げないって制限はあるのか」
実際は全部使うと魔力が枯渇して動けなくなるし、10万円も稼げないだろうし。それにこれだけあればしばらく困ることもないはずだ。家賃や税金は払わなくていいんだしな。
それにしても、体力が変わってないのは助かるな。コツコツレベルを上げて雑魚魔族ならぶん殴っても倒せるくらいにはなったし、自衛手段がないと困るからな。この世界は魔王がいなくてもそれなりに物騒だからな。
体力ってのは、身体の筋肉や持久力、素早さその他諸々だ。文字通り身体のポテンシャルのことだ。
よく考えたらゲームの攻撃力とか防御力とか素早さが分かれてるの意味が分からんな。素早かったらその分パンチも速いし、速さが乗ってる分攻撃力も上がるだろ。
勇者の蒼とか盾役の薮内ホタルは戦闘能力に特化してたけどあれスキルのお陰だしな。そんなのなくても俺の身体自体が頑丈になってるから、これで大丈夫だろう。
さて、顔バレしないように肉体改変ってやつを試してみるか。
肉体改変
人体の骨、皮膚、筋肉、脂肪あらゆる組織の状態、位置を操作可能。ただし、質量を増加させるには1gあたり1の魔力を要する。減らした質量は魔力として還元出来る。
初回のみ、消費魔力不要。
凄っ……つまり、10kg分の操作するには所持魔力全部使い切るくらいは必要なのか。
ちょっと待てよ、これ相手の身体を吸い取って魔力に変換出来るってめちゃくちゃ危ない能力じゃないか?
テルオラクル様……これ、魔王倒す前に欲しかったっす……。
取り敢えず、若返った身体を確認したが背がちょっと低くなったな、ヒゲも生えてないし。
目立たないようにこの世界の主流の人種っぽい顔立ちに変えておくか。
意味なくオッドアイとかにも色素の量を変えたりしたら出来るだろうけど、悪目立ちするからな。
でも、せっかくだからちょっとカッコいい顔にしたいな。この顔は嫌いだ。
その後、ああでもない、こうでもないと鏡を見ながら骨格や、皮膚の状態や色、目の色、髪の色、長さを変えていく。
なんだか、ゲームのキャラエディットみたいだな。俺はしっくりこなくて結局何回も変えてしまうタイプなんだよな。
ゲーム……あ、召喚される前にやってたゲームのキャラみたいな見た目にしよう。改変を繰り返して落ち着いた姿だし、それが無難だろう。
で、結局の姿はこんな感じ。
身長175cm
体重65kg
銀髪、緑眼
やや彫りの深い顔だが、元の顔の面影は少し残っている。流石に全く違う顔というのも抵抗があって、俺の顔の外国人版って感じに仕上げた。
身長はこの世界で15歳ならまあ、ちょっと背が高い方かなってくらいだ。18歳くらいが妥当だろう。元がそんなもんだから、いきなり身体の感覚が違ったら動きにくいってことも分かったしほぼそのまま。
銀髪はこの世界ではそこまで珍しくない。薄い青とか、ピンクとかあり得ないだろって色の人間が普通にいるくらいだし、黒髪の方が目立つし俺の印象から遠い色にしてみたかった。その方がバレないだろうし。
「よし、見た目はこんな感じでいいな。うん、カッコいい。さて……お楽しみといくか」
物品召喚スキルに意識を向ける。
目の前に検索ウインドウが表示されてそこに集中すると思い通りに文字が打てる。
元の世界のオンラインショップっぽい見た目だが、広告がなく、商品がジャンル分けされていてその画像が商品名と説明と共に並んでいるだけだ。
「まずは……コーラだ!」
ジャンクな味に飢えていた俺は、この世界ではどうやっても手に入れることの出来ない炭酸飲料を注文する。
すると、アイテムボックス内に送られた感覚があり、アイテムボックスからコーラを取り出す事に成功した。
「おおっ……夢にまで見たコーラだ……しかもキンキンに冷えてやがる、ありがてぇ〜!」
ビールもありだが、この世界にも酒は一応ある。ビールとは言えないがちょって似てるエールがあったので、全然味わいの違うコーラの方が欲しくなっていた。
キンキンに冷えた缶を開けるとブシィッ!と炭酸と一緒に少し液体が飛び出す音がする。
ああ、この感覚懐かしいな。さて……。
ゴクッ……。
口の中に強烈な炭酸が染み渡る。久しぶりの強い炭酸に身体がびっくりしたようで、舌が痺れる。
だが、これが美味い!
ゴクッゴクッゴクッゴクッ……!
「ゲェッープ……ああ、この一気飲みした後のゲップが込み上げる感じも懐かしいいいい!!!」
7年頑張ってきたご褒美として最高の瞬間だった。
その後、ハンバーガーや牛丼、ピザ、とにかく味の濃いものを召喚しまくって、食べまくった。
この世界では香辛料は未だに貴重品で全ての味が薄い。味が濃くても旅の携行食くらいで塩辛いしボソボソしているしで最悪だった。
勇者パーティの俺たちは全員日本人で、グルメな日本で育ったので何が一番キツかったって食べ物のマズさだった。
恐ろしいことに戦うのは皆慣れていったのだが、食べ物だけは最後まで慣れなかった。だから、パーティ内で日本の食事に関する話題は1番のタブーとして扱われ、皆存在を出来るだけ頭から消して食事をしていたのだ。
最後にタバコを注文。俺が魔王退治してる間に笑えないくらい値上がりしてたが税金くらいは差し引いてくれよ神様……。
召喚されてから、ポケットに入っていた20本をここぞ!という時に大事に大事に吸っていたのだが、それも2カ月が限界で底をつき、永らく禁煙していた。
身体の年齢若返ってるけどいいよな?異世界だし、成人してるし。下にちゃんとテロップ出しといてくれよ。
タバコを開封して、トントンと端を叩き一本取り出す。この動作は7年経っても全然身体が覚えていた。
感動と緊張で震える手で口に咥える。
あ、ライター忘れてたな。慌ててライターを注目して火をつける。
スー……ゴホッゴホッ!?
久しぶりに吸ったせいでむせて、ちょっと吸っただけで頭がクラクラした。
「ゴホッ……解毒!」
解毒を使うとマシになったが、よく考えたら解毒使っちゃうと毎回同じことになるんじゃないか?
ちょっとずつ慎重に吸って身体に馴染ませていく。
気付けば夕陽が沈み始め、紫色になった美しい空が360度広がっているのをボンヤリと眺めていた。
「俺たちが救った世界はこんなにも美しいのか……」
久しぶりの喫煙でハイになってるのか、妙に感傷的になった。
ゆっくりと沈む太陽を眺めながら、ニコチンに適応したタイミングで過去最高の一服の時間を堪能した。
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