2-5話 ダンジョンのトラウマ
「なるほど……つまりお前らもケニイに助けてもらったということか。我輩と同じだな、我輩の舎弟だ!」
ヘンリーとレーギスの説明をシェリーに、シェリーの説明をヘンリーとレーギスに。
彼らはニイジマだった俺を知ってるし、別に勇者だからって尊敬したり特別扱いするような奴ではないので秘密にすることもないと思い、真実を伝えている。
「おい、俺ら舎弟だってよレーギス」
「認めるのか、ヘンリー?」
「ああ、俺はドワーフだ……降伏するに決まってる」
「ふっ、懸命な判断だ。僕らが100回戦っても勝ち目はないだろう」
「そうか?ちょっと試してみようじゃないか。おい、表に出ろ」
「「!?」」
「ガハハ冗談だ。新人はビビらせて遊ぶもんだと最近学んだのでな」
お前はサイモンの店で一体何を学んでるんだよ。行儀作法はどこにいったんだ。
というか新人はお前だろ、イジられてないか?
シェリーも合流したことで改めて再会の宴を再開する。
「それにしても、まさかダンジョンの調査をしてる冒険者がお前らとは思わなかったな」
「未到のダンジョン調査は危険だからベテランじゃないとってことで領主様のご指名だ」
「僕らに頼むくらいだから奮発したな」
「それ自分で言うかよ」
ダンジョンには様々な危険がある。トラップや見たことのない魔獣、複雑な構造。
どれも生半可な実力のものがいけばすぐに死んでしまう。
ダンジョンごとに難易度があり、調査をした冒険者が情報を持ち帰り、冒険者ギルドが難易度を設定する。
事前情報もなく、マッピングをしながらダンジョンに挑むことを依頼されるというのはトップレベルの冒険者の証だ。
刀匠であり、一流の剣士であるレーギスと、便利な魔道具と魔法を駆使するヘンリーはその実力と寿命の長さから来る経験で、今の地位に至っている。
実力のある冒険者には長命種が多い。人間でどんなに強くても老化には敵わないのだから。
だが、そんなに強い2人が死にかけたイルラキアのダンジョンというのは相当に難易度の高いところなんだと予想がつく。
「ダンジョンはどうだったんだ?お前らが死にかけるくらいだからヤバいんだろ?」
「いや、ダンジョン自体は中級の難易度でそこまで大変じゃない」
「僕たちが死にかけたのはヘンリーのドジのせいだ」
「だから、あの件に関しては謝っただろう!?」
「死にかけたんだぞ!謝ったくらいで許されるなら魔王は今頃ケニイと酒飲んでるよ」
この世界のごめんで済むなら警察は要らない的な言い回しか。
「何があったんだよ」
「初めてのダンジョンは空気や、毒を持ったモンスターに気をつけなくちゃいけない。だから解毒薬や状態異常耐性薬、防毒マスクをつけて入るのがセオリーだ」
「それは基本だな」
事前にあらゆる事態を想定して必要なものを準備しておくのは冒険者なら誰もが知ってる。
でも、その装備がそれなりに高価だから駆け出しはダンジョンに入る準備をするのも一苦労なのだ。
「ところが、こいつが用意してきたのは元気薬だ!」
「ああ……」
「名前からすると効きそうだが何が問題なのだ?ドラゴンの我輩には毒が効かんからよく分からんが」
元気薬、聞くだけだと効きそうな名前だ。実際、毒にも効くし、風邪にも効くから万能ポーションではある。
だが、一般的に元気薬と呼ばれるものは身体の一部を元気にする薬のことだ。そう、股間だ。
「僕らは男2人で股間をビンビンにさせながら行ったこともないダンジョンに挑んだんだ。集中出来るわけがないだろう」
「でも在庫がなかったから仕方なかったって言ったのに君が依頼の期限があるから待ってられないって強行したんだろう!?」
「そもそも君が薬の管理担当なんだから事前に用意せずギリギリまで遊んでいるのが悪い」
「ふーん股間が硬くなる薬があるのか?それならケニイはその薬をしょっちゅう飲んでおるよな?」
「おおおおぉいっ!」
「我輩がケニイの膝の上に座っている時尻に硬いものがやたら当たるなと思っていたのはその薬のせいか」
「黙れ!シェリー!黙れ!」
「おいマジかよケニイ……」
「君も男というわけか」
「違う!違うって!」
身体が急に若返ったもんだから股間の制御が効かなくて不意にそうなってしまうだけなんだよ、誤解だ!
「「ケニイ様……」」
「そんな目で俺を見るな〜!飲んでないからな!」
「ですよね、そんなものを使わずともケニイ様は夜はお盛んですし」
「リリー、君も黙るんだ」
爆弾を追加するな。話がややこしくなる。
「そうだ、ケニイ君も手伝ってくれよ解毒に治癒まで出来る仲間がいれば調査は楽勝だ。元勇者だし実力も申し分ない」
「レーギス君もたまには良いこと言うな。ケニイ一緒に来てくれよ〜」
「ダンジョン調査……面白そうだ、明日は休みだし我輩も行くぞ!」
「えー、せっかくの休みにお前らとダンジョンかよ……」
俺ダンジョン嫌いなんだよ。狭いし、暗いし、危ないし。
いくら慣れてても進んでいきたい場所じゃない。
それに最悪なのはトイレだ。当然ダンジョンにトイレなんか用意されていない。用意されてたら最早、ダンジョン風のアトラクションだ。
いや、夢の国のアトラクションですら乗ってる間はトイレ出来ないな。
遮蔽物もない、流せもしない、いつ物陰から敵が襲いかかってくるかも分からない場所で全く落ち着けない状態でうんこするのは、かなりキツイ。
だから見晴らしの良い場所で仲間に周囲を囲んでもらい、見張られながらうんこをする。
冒険してた時は女子高生の前でうんこだぞ?
俺のうんこが臭いのなんのってめちゃくちゃバッシングを受けたのはトラウマになってるんだから。
逆に女子高生が俺の背中越しでうんこしなきゃいけないんだが、あいつらは汚い。だが、うんこで汚いわけじゃない。
女同士で結託して、土魔法で壁を作って穴掘って、風魔法と、水魔法で音と匂いを消してダンジョンの中に贅沢にもトイレを作りやがる。
その見張りに3人全員かけるから、残りは俺ともう1人の男の蒼だけ。敵の見張りじゃなくてトイレの見張りだ、馬鹿馬鹿しい。
リスクも跳ね上がるのにそれが当然だと言わんばかりの態度。
それなら俺も使わせてくれたらいいじゃないかと思うのだが、同じトイレを使うのは嫌だの、もう一つ作るのは魔力の無駄だのってうるさい。
だからおっさんは泣きながらダンジョンで無防備にケツを晒していた。
「なんだ、今更ダンジョンが怖いってのか?」
ヘンリーは渋る俺を意外そうに見る。
「いや、ダンジョントイレないから嫌なんだよ……」
「トイレがないのが嫌だからダンジョンに行きたくないって女冒険者でも言わないんじゃないか」
レーギスも俺を呆れた目で見ている。
「俺にとっては深刻な問題なんだよ」
日本人だからトイレの清潔さやクオリティに異常にこだわっている節はある。ケツを水で洗う機能とか常軌を逸していると思う外国人もいるだろう。
「いや、待てよ……そうだ!今は昔とは違うんだ、俺には強力な味方がいるじゃないか!」
「ふっ、ケニイ気付いたようだな」
シェリーは俺に笑いかけた。
「「オムツを履けば良いじゃないか!我輩が転移でトイレに連れて行けば良いではないか!」」
…………俺バカだな。
そうだよ、転移が使えるシェリーが家に戻って、トイレ休憩や飯にして、また同じところに戻れば済む話だ。
俺は知らず知らずのうちに、ダンジョンでトイレをすることにこだわっていた。
なんだよ、オムツ履くって。ダンジョンでぶっ放す気満々じゃないか、恥ずかしい。
「オムツ……というのはなんだ?」
「いや、いいんだ。忘れてくれ。シェリーに転移で連れてきてもらおう」
「ならついて来てくれるんだな?」
「ああ……いいよ……」
こうして、せっかくの休みが潰れてヘンリー、レーギス、そしてシェリーとともにダンジョンの調査をすることが決定した。
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