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2-4話 再会を祝して

 午後の診察を終えて、ヘンリーとレーギスを自宅に招いた。再会祝いだ。


 ヘンリーはすっかり、回復しており先ほどまで生死の境を彷徨っていたとは思えないほどで、女性経験ゼロの癖にリリーに早速ナンパをしかけていた。


「俺はヘンリー、魔道具技師で結構有名人なんだけど名前聞いたことないかなぁ?

 俺の作った魔道具で夢のような時間を過ごさせてあげるよ?」


「ケニイ様のお客なので相手しますが、あなたはかなりキモいです」


 うわ、リリーのガチの拒絶顔見ちゃった。俺もあんな顔されないようにしないとな。

 客として対応してこれなら、客じゃなかったら一体どんな暴言が飛び出すのか若干気になる。


「いいねえ、強気な女性俺は好きだぜ?」


「ケニイ様、この方のイチモツを切り取る許可を頂ければいつでもそのようにしますが。なんならそのイチモツのような頭も切り取りましょうか」


 ヘンリーのマッシュヘアー、かなり悪い言い方をするとイチモツみたいな形をしているとも言える。


「ドワーフなんだから、せめてドワーフの女性狙えよ」


「ドワーフの女には髭生えてるだろ?俺が髭がかなり薄いのもあると思うんだが、あれ、俺無理なんだ……髭が生えてないのは子供くらいだし、後はドワーフ以外の髭生えてない種族しか異性として見れない」


「そうか……お前はお前で苦労があるんだな」


「ああ、聞いてくれよ。髭が生えてない女が好きって言ったせいで俺はドワーフの国では有名な変態扱いさ」


 まあ、髭が生えてないイコール子供だからロリコン判定されて叩かれてるってことなんだろうな。


「だから童貞なんだな可哀想に」


「いや、ヘンリーがモテないのは発言がキモ過ぎるのと、モテなさゆえの女性へのアプローチが色々間違っているからだ」


「レーギス、俺のことをそう言うが君だって、エルフは嫌だって言い続けて童貞だろ?」


「そうなのか?エルフは美人が多くて有名だが」


「まず、僕は他種族と交わる気はない。そして、良いか!エルフが美人とか言われてんのは他種族の美的感覚の話なんだよ!エルフなんてどいつもこいつもババアばっかりだ!エルフの森にも、人間の住む街の娼館もババアしかいない!」


 昔あった戦争のせいで若い世代は少なく、レーギスと同世代のエルフというのは驚くほど少ないらしい。


「長命種の恐ろしいところだ、人間からしたら若く美しい存在なのかも知れないが、僕からすればシワシワのババアが若い娘みたいに人間に紛れて生きてるのがキモ過ぎる。

 年齢を見分けられないようだが良い歳したのに限って若いフリをしてるヤバいやつらなんだ。

 ああ、初めて行ったエルフの娼館でのあのトラウマは一生忘れられないだろう……どう見ても500歳は行ってるババアが300歳だと言っていたんだ……」


 その違いが人間の俺には分からんが大事なことなんだろう。

 アジア人が白人や黒人から見て異常に若く見られる、結構おばさんなのに、若い子扱いされているのを見てしまった時の微妙さ、みたいなもんなんだろうか。


 確かに、娼館にウキウキでいったらめちゃくちゃ歳上の人が出て来たらトラウマになるかも知れない。

 そういう趣向があるなら別だがノーマルだと厳しいだろう。

 しかも周りからは、全然若いでしょ?みたいな態度を取られてガッカリするというのも予想が出来る。


「しかもだ、同年代のエルフにアプローチをかけたら僕は子供過ぎるって言われるんだ、エルフも女もクソだ!」


「落ち着けって……」


 予想以上にヒートアップして、フーフーと息を荒げるレーギスに引きながらも、冷静になるように声をかける。


 ここまでの反応を見る限り、レーギスがモテないのは見た目とか年齢以外にも問題があるような気がしてならない。


「でも、ヘンリーが童貞のまま死ななくて良かった」


「ああ、俺を引きずってまで助けてくれるなんて感動したよ……」


「ヘンリー!」


「レーギス……!」


「お前ら仲がいいのは分かるが距離感おかしくないか?」


 実はお互いが好きだけど、偏見とかあるからそういうことにしてるんじゃないだろうな?


 そんな、モテない凸凹コンビをもてなし再会を祝う宴が始まった。



「あれ、シェリーはどうしたんですか?」


 アンがシェリーの不在に気付く。


「あいつなら残業だ。仕事を終えたら文字通り飛んできて、腹が空いたって騒ぎだすだろう」


「おい、ニイジマじゃなかった、ケニイ!この酒はなんだ!?めちゃくちゃ美味いじゃないかっ」


「ああ、それは俺たち勇者の世界の酒だ」


 ヘンリーたちには缶ビールを渡してある。


「前に会った時に話してたあれか!でもどうやって手に入れたんだ?」


「魔王退治のご褒美ってやつだな。テルオラクル様のおかげで異世界のものを召喚出来るようになったんだ」


「凄え〜!これ売ったらドワーフの国で1番の金持ちになれるぞ!」


「それはないだろ」


「いや、可能だ。ドワーフ王に少しだけ飲ませて俺が死んだら、もうこれ飲めないぞって脅せば解決〜なんだったら王位を譲れば一生飲ませてやるって言えば王にもなれるな」


「しれっと国家転覆を計るんじゃねえよ」


「ドワーフの女全員の髭を剃ることを国王命令として出すくらいならいけそうだな……」


「ああ、1人の変態の願望で国が動くくらいなら安くつくってもんだよな」


 物品召喚は俺の消費魔力が資金なんだから、そんな国を動かせるレベルの量は提供出来ないっての。


「ケニイ、そんなことよりこの肉はマジで美味いぞ!」


 レーギスが喜んで食べているのはローストビーフだ。

 日本の臭みのない質の良い牛肉に、この世界では貴重な塩、胡椒を使う。にんにくも香りつけに使った。


 そして、バーベキュー風味のソースというこの世界にはない調味料を複数使っている。


 貴族の食卓にも出てこない逸品だと自負している。


 肉を寝かせるための封が出来る袋なんてものもないし、この世界で何か作ろうと思うと材料以前に道具でつまずくことが多い。キッチンペーパーすらないんだからな。


「気に入ってもらえたなら良かった」


「これは牛の肉なんだろ?エルフの森を伐採してでも今すぐに牧場を作るべきだな」


「なんて罰当たりなやつなんだ……」


 エルフは菜食主義なはずなんだが、レーギスはめちゃくちゃ肉が好きだ。

 切れ味の良い剣を作り、それを振り回しなんでも切るのが好きで、刀匠として有名でもある。

 森とともに生きるエルフが木をぶった斬り肉を食おうとするもんだからエルフの森を追放されたらしい。


 本人は年寄りしかいない森にいる理由がないから構わないと言っているが、反抗期的なものなんだろうか。


「アンは別に肉は大丈夫なんだよな?」


 今更も今更だが。


「はい。というかエルフの菜食は主義であって食べられないものではないんです」


「ん……君は、エルフじゃない……よな?」


「はい、ハーフエルフですが耳は人間ぽいので分かりませんよね」


「いや、魔力の波長がエルフの特徴が出ているのに見た目は人間だから、変だとは思ってんだ。ところで歳はいくつ……?」


「あなたより歳下なので安心してください」


「おお、良かった……ところで僕と付き合わない?」


「失礼が許されるのは年齢を聞くことまでです」


「ですよね〜……」


 こいつも手当たり次第に声かけて振られてんのかよ。明らかにダメ元で言ってるし。

 さっきのヘンリーに対してアプローチがどうとか言ってたのなんだったんだ。


「じゃあさ、エルフの人たちも肉食おうと思ったら食えるんだよな?」


「ああ……それどころかエルフは絶対に肉が好きだ」


「何故そう言える?」


「昔に作ったバカな教えに縛られてるだけで肉が好きなのは間違いない。

 何故なら野菜や果物なんかを加工して肉の食感とか味に近づけようとしてるからだ!

 肉の味を知ってなかったら、肉の美味さを知ってなかったら、そもそも肉に寄せる必要なんて全くないだろ!」


「た、確かに……」


 豆腐ハンバーグ?

 豆腐を肉に寄せるってことはハンバーグ本当は食べたいんだよな?肉を食えよ!肉を!

 そこまで肉の未練が強いのにわざわざ肉に寄せた豆腐を食うってなんなんだよ!?


 って俺も思ったことあるぞ。


「あいつら僕を異端者呼ばわりしてるけど、森を出て人間の世界にいる時に肉をこっそり食ってるのは間違いない。とんだ偽善者の年寄り集団なんだよ!」


 でもレーギスの言ってるのは、ビーガンとかよりは、旅行した際に牛肉を食べるインド人とか、ベーコンを食うユダヤ人みたいなものっぽいな。


「長老に肉を食べてるのを見つかって反省の牢屋に入れられたんだ。

 それで「何故あんな油っぽいギトギトした獣くさいものを食べる」って聞かれた。

 僕はピンと来たね、「何故肉の味を知ってるんですか?」って聞き返してやったよ。そしたら牢屋から無言で出されたんだ」


「長老肉食ってんじゃん」


「ああ、そうさ。それを指摘されたら牢屋から出す程度の誓いなんだよ。エルフはクソだろ」


 うーん、エルフの信念思ってたよりグラグラだな。出来れば守りたい生活の指針レベルなんじゃないか。

 早寝早起きを心がける、レベルの。


「ふい〜!我輩帰還〜!」


「「……ッ!?」」


 シェリーが転移で玄関の前に立ち、疲れきった表情でフラフラと歩き出した瞬間にヘンリーとレーギスは武器を取り出しシェリーに向かって構えた。


 アホなことばっかり言ってるけど、この反応速度は流石だ。一流の冒険者ってことをすっかり忘れてしまうが、見事な動きだ。


「なんだこいつら?殺していいか?」


「ケ、ケニイ……僕らを置いて今すぐ逃げろ!」


「レーギス、やれそうかっ!?」


「いや時間稼ぎすら無理かも知れないが……」


「死ぬ時は俺たち一緒だぜ……」



「あ〜、深刻な相談してるところ悪いがそいつ敵じゃないから落ち着け?シェリーも、その2人客だから」


 間に入って双方の気を静める。


「……ふっ!命拾いしたな」


「ああ、股間から水魔法が少し暴発した程度で被害は済んだ」


 カッコつけてるけど、お前ら膝ガックガクだし、ちょっと漏らしてんじゃねーかよ。


 多分シェリーの転移と彼女から出る強者のオーラに反応して咄嗟に臨戦態勢に入ったのだろうが、シェリーは全くといっていいほど気にしていない。


「で、こいつら何なんだ?我輩の可愛い服を汚したら本当に殺すが?」


「ヘンリー、レーギス着替えてこい。話はその後だ」


 シェリーは潔癖症とまでは言わないが、自分の服が汚れることを異常に嫌う。

 俺が与えた服を気に入ってるのは可愛いのだが、それを気にして食事の時にバリアを張ったら食卓の食べ物がバリアに弾き飛ばされて大変なことになったので、家でバリアは禁止している。


 そのせいで余計に服を気にするようになった気がするが、家が吹き飛ばされたら堪らないからな。

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