2-3話 瀕死のドワーフ
レーギスの案内の元、ヘンリーを寝かせた部屋に入る。
ヘンリーは浅い呼吸で辛うじて生きているような状態だ。
相変わらず、ドワーフにしては人間の男くらい身長があってヒゲも生えていないので、全然ドワーフに見えない。
マッシュヘアーで前髪が目にかかってその表情は見えないが肌が青白くなって辛そうだ。
それに出血もかなり、酷い。失血死するぞ。
「なんで、こんなに傷だらけなんだ?強い魔獣でも出たのか?」
「それは僕が引きずって来たからだ」
「その体格差なら背負うのも難しいか……」
「あと、魔獣が出て来てビックリしてヘンリーをぶん投げてしまった」
「それが致命傷じゃねえーか!」
レーギスはヘンリーとは逆に背が低いエルフだ。大人と子供ほど身長差があるのでは、意識のない大人を抱えるのは相当に難しい。
でも投げるなよ。
「取り敢えず、血が出過ぎだな」
「血が出過ぎたら失血死するぞ!?」
「分かってるよ、まずは止血だな」
最初に回復魔法を使い、彼の傷を癒す。
そして、鑑定して今の状態を確認。やっぱり、硫化水素中毒になってるようだ。
ん?硫化水素……?
温泉でも湧いてんのか?
とにかく解毒してやらんとな。解毒っと……。
「よし、これで安心だ。だが、血が足りないな」
「僕はエルフだから血は分けられないぞ?この街にドワーフはいるのか?」
「いや、俺が血を作るから大丈夫」
「はあ?君はドワーフじゃないだろう?」
「まあ見てろって」
肉体改変でヘンリーの身体に触れて肉体の構築情報を読み取り、自動で血液を生成。それをゆっくり体内に送り込み増血していく。
一気にやったら血管が破裂しそうだから全体に同時に送り込む。
「ふう……ちょっと疲れたな」
肉体改変は消費魔力が割と高くて疲労感がそれなりにある。朝からそれなりに診察で使ってたから、これが夜なら大変だった。
「おい、彼は大丈夫なのか?」
「もうすぐ目を覚ますと思うぞ。その前に君にも回復かけておかないとな」
レーギスも軽度ではあるが、中毒と鑑定には表示されていた。よくそんな状態で酒飲んでたな。
酔い覚ましに解毒かけたせいで中毒は解除されたんだろうが、生傷がそれなりに多かった。
「おお……なんと手際のいい回復だ。まるでニイジマだな。知ってるか?勇者のニイジマ、あいつは僕の子分みたいなもんなんだよ」
「知ってるよ、ニイジマくらい。俺が一番知ってるっての。誰が子分だ、こら」
「旅で一度会ってな。泣いてるところを助けてやったことがあるんだ、凄いだろう?」
「記憶を捏造してんじゃねえよ!俺がニイジマだよ!顔は変えてるけどお前らのことちゃんと覚えてるからな?
旅で会った時は、お前ら博打で負けて奴隷商に売られて、魔王軍に捕まってたのを俺らが助けたんだろうが。
しかも泣いてたのはお前だし、さっきも泣いてたのを助けたぞ!」
「な、何故それを知っている!?」
「だから、俺がそのニイジマだってば。今は魔王もいなくなったし、勇者の身分は捨ててケニイって名前でマッサージ屋でこっそり治療する仕事してんだよ」
「……ニイジマァ!久しぶりじゃないか!ハハハ!元気してたのか、いや〜懐かしいなあ!」
「いやいや、子分とか泣いてたとかホラ吹いた後にその対応は遅いって」
「有名人と知り合いだって言っとけば何かと都合良いからなあ、僕は虎の威を借る狐さ」
「そんな威張っていうことじゃないだろうに」
「レーギス……君か……?」
「!?ヘンリー!起きたのかい!」
そんな話をしているうちにヘンリーが目を覚ます。思ってたより元気そうだ。
「俺はどうなったんだ……?神の国にしちゃ、目覚めた直後に見るのが美人のねーちゃんじゃなくて君とはショボ過ぎるな」
「ダンジョンで毒にやられて倒れたのを僕が担いでここまで運んだんだ。それで君を治療してもらった」
「そうか……えっ!?治療してもらっただって!?」
「えっ、ああそうだけど」
「なんてことをしてくれたんだ、この間抜け!」
「なんでそんなこと言うんだよ!?」
「俺たちは治療代払えるほど金持ちじゃないだろう!ああぁ、もう奴隷は嫌だ〜!」
まあ、この反応は分かる。治療してもらうには金がかかる。教会は基本的に人間だけしか治療しない。
そうなると、ドワーフやエルフが利用するのは教会よりも更に法外な治療費を請求する闇治療師だ。
こいつらは実力で言うと、実は勇者たちよりもちょっと弱いくらいだ。勇者というのは神に与えられた特別な力を持っているので反則の域にあるが、純粋な実力でそこまで行くのはかなり凄い。
一応、伝説級の冒険者としてそれなりに有名な2人ではある。
ただ、こいつらはとにかく金遣いが荒い。
冒険者はハイリスクハイリターンの仕事で、実力さえあれば巨万の富を築くことが出来る。
だが、ギャンブルや酒で稼いだ金を使い切る悪癖があるので、魔王軍に売られるなんて間抜けな事態に巻き込まれることになる。
ちなみに娼館は女性と喋るのが苦手過ぎて怖いらしく利用出来ないと以前会った時にいっていた。
まあ、要するにこいつらは強いけど、バカで色々キモいから同族からも避けられてる金遣いの荒い、どうしようもない変な童貞コンビなのだ。
「落ち着け。金はある時に払えばいいから」
「誰?」
「覚えてないか?ニイジマだよ、顔は変わっちゃったけど」
「ニイジマ?ニイジマってあの勇者の?」
「そうだよ、たまたまここで治療師をやってて僕らを助けてくれたってわけさ」
「全然違うけどマジ?君、騙されてないか?」
「魔王軍の基地で檻に閉じ込められて泣きながら助けてって叫んでた時の話するか?」
「あっ、本当にニイジマだな……いよ〜!久しぶりだなあ〜!」
ニイジマの名前で酒屋いくつかツケにしてるのバレたらまずいよな?主人が怪我してる店ばっかり狙ってのも……。
と、ヘンリーがレーギスに耳打ちで慌てて相談しているのがモロ聞こえだ。
こいつ!そんなことしてたのかよ。だから、旅先で身に覚えのない酒屋でやたらと治療をせがまれたのか!やっぱ治療しない方が良かったかも。
だが、こいつは魔道具を作るのにかけては天下一品の天才。もらった魔力を探知するレーダーみたいなもので何度か命を救われたこともあるから、ギリギリ許してやる。
「久しぶりに会ったのも何かの縁だ。今夜再会祝いでもしよう。俺は午後も仕事が残っているから終わったらここに来る」
「やった〜!タダ酒だ!」
「君が死にかけて本当に良かった!」
「奢るって言ってないぞ」
ヘンリーとレーギスは部屋で歓喜の舞を披露して、タダ酒を飲めることに、はしゃいでいた。




