2-1話 マッサージ屋としての日々
マッサージ屋を始めて1ヶ月が経った。
最初は詐欺なんじゃないか、何かにつけて料金を上乗せしボッタくるんじゃないかと警戒されていたが、勝手が分かり、順調に客足は増えている。
慣れたもので、平日は朝から年寄りの客が来て、待合室を雑談する為に占拠するのが日常的な風景になった。
そして、その筆頭が謎の金持ちデカ婆さんのロメルダ。
やたらとカリスマ性があるので、老人集団のボスみたいになって初めて来た客にあれこれと教えているので、助かっている。
やはり、客同士でアドバイスをもらえる方が安心するようだ。
逆にカルラは仕事を奪われて若干ご機嫌斜め気味。それに初めて来た時の冗談を真面目に警戒しているっぽい。
俺が襲われるかも知れないと目を光らせているのには思わず笑ってしまう。
いやいや、ないって。
「先生ありがとねえ、すっかり膝の調子が良くなって最近散歩が楽しいよ」
「ヘイゼルさん、良かったですね。でもあまり無理はしないでくだしいよ」
「大丈夫大丈夫!私より娘に来て欲しいんだけどねえ。
家事で肩も腰も凝って頭が痛いってしょっちゅう言うもんだから、先生のところで見てもらえって言ってるだよ?
でも、恥ずかしいって、行きたがらないんだよ。何がいい歳して恥ずかしいんだか……」
「ヘイゼルの娘なんて、ほっときな!それより先生、私の孫娘を嫁にもらわんかい?」
「うぇっ!?」
「なーにを言ってんだか!オリビアの孫よりうちの孫娘の方がかわいいよ」
「リズベット……!あんたは引っ込んでな!」
「ちょっちょっ、喧嘩しないでくださいよ」
またこの話だ。この世界の年寄りはすぐに娘や孫を嫁にどうだと打診してくる。
俺中身は30歳超えてるから、10歳とかの娘を紹介されるのホントキツいんで勘弁してください。
「皆さんのお孫さんまだ子供でしょ?話が早すぎますよ」
「おや?先生は若いのが好きなんじゃないのかい?」
「え?別に違いますけど?」
なんでそんな誤解が!?
「でも、そこのお会計のお嬢ちゃんや、変な喋り方してる子もかなり若いじゃないか?あんたの好みで選んだんだろ?」
すみません、でも彼女たちは成人したハーフエルフとここの年寄りの年齢全員足しても足りないくらいの300歳のドラゴンなんです。
とは言えね〜んだよ〜!
「別に年齢で選んでる訳じゃないですよ……」
「そうなのかい?残念だねえアタシが若けりゃ先生は他の女とくっつく前に狙うけどねえ」
「はは……ありがとうございます……」
愛想笑いしか出来ないんだよな。誰かこの手の冗談の上手い返しを教えてくれ。
俺もまだまだこの人たちに比べたら若造ってことなんだろうけどさ。
午前中の診察時間が終了して、カルラと共にベッドや待合室の掃除を軽めに行う。
シックな色合いの長椅子を3つほど、壁に沿って配置しているのだが、木製なのでささくれなんかがないか一応チェックしたりする。後は忘れ物も。
怪我を治す場所で怪我するなんて笑えないからな。
誰かが飲み物をこぼしたりしたら、滑らないようにちゃんと拭いておかないといけないし、客がいない間に確認するのも大事な仕事の一つだ。
「先生って、別に小さい女の子が好きなんじゃないんですよね?」
「え?あ、ああ、そうだって言っただろ?」
「じゃあ……胸の大きい子は好きですか?」
カルラは平均的な胸より大きな膨らみを持つ、自分の胸を見てから俺の顔に視線を移した。
「うーん、大きい胸は好きか嫌いかで言うと好きかなあ」
本能的に動くものに目が奪われるのは仕方ないだろう。
だが、肉体改変で極端な話、サイズは俺がいくらでも変えられてしまうので、内面の方が大事だと最近は思う傾向が強くなった気がする。
「そう、ですか」
カルラは嬉しそうに口から笑みが溢れ、腕で胸を寄せる。おい、昼間から刺激が強いって。
「で、これは本題なんですが……先生ってもしかして男の人も好きですか?」
「は、はっ!?」
別に同性愛に偏見があるわけじゃない。でも、俺は異性愛者だし、そう思われると困ったことになりそうだ。
「私見ちゃったんです……」
「な、何を?」
下手にあのことか?なんて藪を突くようなことはせず、続きを待つ。
いや、心当たりは別にないんだがな。
「今朝、パパの頭撫でてましたよね?目を疑ったけど、間違いなく見ました!ダメですよ、パパはママと結婚してるんですから!」
「ちっがあああああうっ!」
クソ、最悪だ。なんて面倒な!
確かに!俺はディーンの頭を撫でた、いや、触った!
だが、そういう感情でじゃない。
ディーン、お前の秘密は俺の評判より重要じゃないから暴露させてもらう、悪く思うなよ。
「実はディーンさんに髪の毛を誰にもバレない程度にちょっとずつ増やしてくれって頼まれてて、出来る日にこっそりやってたんだよ。だからそれは完全な誤解だ!」
「本当ですか?でも領主様との関係も噂があるし、ソフィー様も先生は女性に興味がないんじゃないかって話してましたよ」
「いや、興味あるよ」
「でも歳の近い私やソフィー様に全然興味あるような素振り見せないから変だった話してたんですよ」
「それは……君たちが若過ぎるからであって……」
まともな大人は20歳にもなってない子に手出そうとか思わないからな?
「え、私たちで若過ぎですか?この歳なら普通に結婚して子供産んでる人いますけど?ということはやっぱりロメルダさんのこと……」
「なんでそうなるんだよ!ロメルダさんは歳離れ過ぎてるだろ!」
「じゃあママ……いやパパくらいの歳の人が良いんですか?」
「ママから言い直さなくていいって!男好きじゃないって話終わっただろ!カミラさん……か、それより少し『下』くらいが好みだ」
「あっ、そうなんですね……」
おいおいおい、男好きの疑惑が晴れたら今度は熟女好き疑惑かよ。
俺の思ってたのんびり異世界生活はどこに行ったんだ、普通に生活させてくれ。
俺はただ患者の怪我や病気を治すマッサージ屋であって変態じゃないっての。
納得出来ん。
「あの、精算作業終わりましたので昼食にしませんか?」
俺らのくだらない会話を横で静かに聞いていたアンが助け舟を出してくれた。この流れに乗るしかない。
「ああ、そうだな宿屋の食堂に行こう」
昼飯は大抵宿屋に下の階にある食堂で済ませる。
あちらの従業員がマッサージ代を割引される代わり、俺たちの食事も割引されるシステムとなっているので、そこそこの値段で高級宿屋の美味しいご飯が食べられるというのはありがたい。
自分で作った日本の味の方が美味しいのだが、仕事とそれなりに忙しく昼間に自分たちで作る余裕がないのでよく利用している。
たまに菓子パンなんかを食べて済ませることもあるが、出来たての温かい食事の方が休憩している感じが出る。
「……ちなみにケニイ様はリリーと夜な夜な怪しげな音を立てているのを聞いたことがあります」
「!?」
追い討ち立てるんじゃないよ、君。
やっと終わった、さあ飯にしようの流れが完璧に出来ていたのに何故破壊するんだ。
リリーは良いんだよ。俺の奴隷で年齢も近くて抵抗感がないし、あっちも割と積極的だから。強要してるってこともないし、やましいところはない。
「そうですか……男性が好きという疑惑は晴れましたね」
あれ?「汚らわしい!不潔です!」みたいなこと言われるのかと思ったら安心された?
「怒らないのか?」
「何をですか?」
「俺がリリーと、その、アレしてることをだな」
「別に普通ですよね?えっ、あたし何か変なこと言いました?」
「いえ、奴隷である身の私たちがご主人様からお情けを頂けるのはありがたいことですので何もおかしくないかと。後10年もすれば私の番です」
この世界、これくらいの貞操観念が普通なの忘れてた……。娯楽も大してないし、珍しい行為でもないし、女性の奴隷の出世ルートって大抵そうだもんな。
「では5年もすれば先に私の番ですね」
「冗談はそれくらいで勘弁してくれ……」
別に異世界ハーレムやりたかったんじゃないんだよ俺は。
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