1-20話 プレオープン後編
サイモンがシェリーを雇うことに関しての契約を結び、シェリーは仮の従業員となった。
職が見つかり俺もホッとしている。
その後は本来の予定だったサイモンの店の従業員を呼んで実際に客が来た時のシミュレーションを行った。
領主以外やっていなかったので確信はなかった。
ただ、薄々そうではないかと、思っていたのだが、指圧しながら治癒をかけると快感が走るらしく、若干アヘってる人がいるのが問題かも知れない。
「と、まあ、こんな感じですがどうですか?」
全体の流れを監督していたサイモンに聞いてみる。
「効果はまあ……マッサージなのだから気持ちいい分には問題ないだろう……さて、君は商売の経験はないと言ったな?」
「はい、そうですが」
「奇妙だな、契約や交渉に関してはど素人にも程があるお粗末さなのに対し、接客に関しては洗練された知識を持っている。どういうことだ」
「そうですかね……店に通った時にしてもらったら嬉しいこと、もっとこうして欲しいことを考えてたら出来そうなものですけど」
「なるほど、その店というのはつまり、娼館だな?」
「えっ!?」
娼館!?何故そうなる!?
「受け付けにて客の要望を聞く。番号札で客を管理。順番が来れば個室へ。担当の者が個室に入りサービスを行う。その個室にあるベッドは客が使ったごとにこまめに清掃。
これは完全に娼館だろう」
あああ〜言われて見れば確かにこんなシステムをこの世界で採用してるのは娼館くらいしかないかも知れない。
カルラやめてくれ、俺をそんな目で見るな。
「しかも高級娼館だな、これほどの腕を持つ君ならば稼ぎはそれなりにあるだろうし、慣れているかも知れないが一般の平民がこの扱いをされたら驚くぞ」
「慣れてません!」
日本のサービス業の洗練されたシステムを採用してケニイさん凄い!になると思ったら俺の株がグングン暴落していくとは。
「だが、サービスの質が良過ぎると馬鹿みたいに高い金を請求されるのではないかと、構えられるぞ」
「そんなもんですかね」
「当たり前だ。払う金に対してのサービスが過剰だと怪しまれる」
確かに。日本的な『おもてなし』は現代でも外国人からしたら凄いなって思われるんだからこの世界じゃ驚かれるのも無理ないか。
でも効率化、衛生面を考えたらこれくらいはしたいのだがな〜。
「何か、落とし所はありますか?」
「もういっそ娼館にすれば良いのではないか?」
「俺の株の落とし方じゃないですよ!?」
「冗談だ」
ガッツリ歳下の女の子に軽蔑の視線を送られるのおじさん的に悲しいよ。
とんだ『落とし穴』だ。
「そうだな、真面目な話をすると料金は前払いにした方が良い。怪我の治療なのか、疲労回復なのか、その重症度で料金設定を予めしておくことだ」
日本の感覚だと大概後払いだが、この世界は先払いが基本か。
「そして客に状態を聞き、それに合った値段を提示する。両者に同意が行われた後に『マッサージ』を行う」
「分かりました」
「後、これは提案でなく相談だが」
「何でしょう?」
「うちの従業員とその家族が客の場合は割引して欲しい。割り引いた分は店からの支払いとその他の便宜ということでどうだろう?」
「何故ですか?」
「試しにマッサージを受けさせた従業員たちの体調が明らかに良くなった。仕事の効率が上がれば、店の運営にも影響が出る。君は安定して顧客が手に入り知名度、信用が得られやすい。俺の店にも回り回って利益が出る」
ああ、俺と業務提携をして、従業員には福利厚生を提供するということか。この一瞬でそれを思いついたのか?
流石、やり手の商人は半端ないな。
「後は特別な客だが……一月もすればチラホラと現れるだろう。既に手は回し始めている。当分は市民との接客で仕事に慣れろ。特別な客は払いが良い分扱いも慎重にならなくてはならんからな。その間に作法を教える」
いきなりVIPの対応よりは平民で慣れるのは俺も賛成だ。
ここの領主はフランクな人だが他の貴族や大物にそれが通じるとは思わない方がいい。
冒険者生活も長くボロが出るのは目に見えて明らかだ。
行儀作法を教えてもらえるというなら是非教えてもらうべきだろう。
「ガハハ、ケニイよ我輩と一緒に作法を学ぼうではないか」
シェリーが俺の肩に手を回し笑う。
嘘だろ?
「君は、俺が直々に矯正しなくては無理だが、ケニイはそこまで問題はない。俺の妻と友人に頼もう」
「サイモンさんの奥さんですか?」
「ああ。彼女は爵位は低かったが貴族の出身だから上の貴族に対する作法は心得ている……」
「……?」
サイモンは何かを言おうか迷っているような苦い表情を浮かべていることに気が付いた。
そして、俺に近くよるように指示し耳打ちで話す。
「妻が作法を教える対価にその……美容に効くマッサージをしてやってもらえないだろうか……」
あ〜。全て察しました。ねじ込まれたんだな。この人も奥さんには頭が上がらないわけね。
「彼女は美容製品や貴族との対応の窓口となっている為、君の特殊な方の能力を説明している。するとやけに乗り気になりだしてな……」
「はあ……作法教えて頂けるなら構いませんが、巨乳にして欲しいとかなら胸揉むことになりますけど良いんですね?」
「……?妻はかなり胸がデカいが?」
「いや、さっきの仕返しで冗談で返したつもりなんですが」
「なんてな、俺をからかおうなんて甘いな。彼女の要望通りにしてやってくれ。それで家庭の平穏が保てるのならばどんな商売よりも素晴らしい取引だ」
色々、苦労されてるんでしょうね……。
「あっ、美容系のことで少し小細工を考えておりましてそのことで相談があります」
「聞こうか」
俺は特殊な美容薬品を使い、特殊なマッサージをすることで効果が出るようにして、固有のスキルの存在から目を逸らし、商品を売ることを提案する。
それに関してはあっさり意見が通り採用された。
貴族からの絶大な支持と利益が見込めるビジネスモデルなので願ってもないということだそうだ。
「それは良いのだが……まだ何か隠しているな?そもそも、どこからその薬品を仕入れている?君は薬師ではないだろう」
「うっ……」
「さあ、洗いざらい吐け。下手に隠してもボロが出るだけだし、俺は徹底的に調べようとするぞ?最初から話して協力してもらった方が良いのでは?」
やむを得ないか……。
「実はもう一つの俺の固有の能力で、ここより文明が進んだ異世界のものを召喚出来ます」
「では、このメガネもそうか?」
「はい、お察しの通りで」
「そうでもないと、説明がつかん技術が集まっていたからな、たったこれだけでも」
かけていたメガネを外し、異世界のものと認識して改めて観察しているようだ。
「無制限に出せるのか?」
「いえ、俺が使用した魔力量が対価なので」
「なるほど、だからマッサージで魔力を定期的に使える環境が必要だったと?」
「はい」
「それが明るみに出たら大変なことになるな。事前に聞いておいてよかった。その辺りの情報統制もしっかりしておこう」
「助かります」
懸念していた部分も解消され本日の開店準備も無事に終わった頃にはすっかり夕方になっていた。
「先生!腰を治してくれてありがとうな!」
「私は肩凝りがキツくてね……先生ありがとうございました」
「ちょくちょく世話にならせてもらいますよ」
宿屋の従業員たちが口々にお礼を言ってくれる。
どうやら、少しずつ街の人に認められているようだ。
変態疑惑の噂はそのうち消えてくれることを願うが。
「さて、帰るか。明日からは忙しくなる……と、思いたいな」
「怪我をしているけど、お金の問題で身体に支障をきたしている住民はたくさんいると思いますよ。
それを治してくれるってちゃんと広がれば心配はないと思います。先生の腕は本物ですしね」
「先生……か。そんな大層なもんじゃないし気恥ずかしいんだがな」
カルラは従業員に倣って俺を先生と呼んだ。
「その方が権威があって頼れる感じがすると思いますよ?」
「ま、いいか」
「んじゃ、カルラ、アン、改めて明日からよろしくな」
「「はいっ」」
「先生は権威があるだと?ならば我輩も先生と呼べ!」
お前は先生でも殺せんせー寄りだけどな?




