1-2話 魔王討伐
「ハァハァ……やったぞ……!ついに……俺たちはやったんだ!」
「うん……やったね……」
「蒼!これで私たち帰れる!」
「信じられない……」
周囲には土埃が舞い、死屍累々の魔族と、血だらけの人間。
突如、剣と魔法の世界に飛ばされて勇者とその仲間として魔王退治の旅を7年にも渡ってさせられた俺たちはついに魔王を殺すことに成功した。
俺?俺は勇者なんかじゃない。謙遜するなって?いやいや、俺は勇者のヒーラー役をやってる脇役のおっさんだ。
27歳の時に会社から疲労困憊でフラフラと帰宅している途中、目の前が真っ白な光につつまれて神様的な存在から魔王退治してくれと頼まれて、15歳の高校生男女4人と巻き込まれるような形で異世界に召喚された。
12個も歳下なもんだから勇者パーティって言っても輪に入るのが難しくて馴染むのが大変だった。
別に俺も大した経験を積んだ大人ってことはないが、15歳の少年少女って27の俺からしたら随分と子供に見えてしまうもんだ。
大体、漫画やアニメでそれくらいの歳の子供が世界を救わされたりする作品が多いが実際に彼らを見ると大人の俺としては「未成年にそんなことさせんなよ!?大人は何をしてるんだ大人は!?」ってツッコミたくなる。
鈍感な勇者の白鳥蒼、そんな彼のことが好きな女子高生の三人。暮井 鈴華、水戸 愛奈、薮内 ホタル。
彼らはすぐにケンカするので、陰ながら助言したり間を取り持ったりとそれはもう大変だった。
蒼は悪いやつじゃないんだが、些か鈍いやつで俺が居なかったら、魔王退治以前に勇者が刺されるんじゃないかとヒヤヒヤする場面も多かった。
そして、ついに!魔王を退治したことでこんな生活からも解放される時が来たのだ!
お前らのことは嫌いじゃないが俺は疲れた!
ゆっくり余生を過ごさせてくれ。
「本当にお疲れ様でした……」
お?この神々しいオーラと、頭の中に響く声は女神様だな。彼女は神界からのメッセージを送る神託の女神、テルオラクル様だ。
「魔王を退治してくれたあなたたちには何でも願いを叶えさせていただきます。元の世界への帰還も出来ますし、この世界で生き続けることも出来ます」
「俺たちの願いは決まってる……帰ることだ。皆、帰ってあの日からやり直そう……」
「「「うん……!」」」
勇者たちは元の世界に帰って召喚された日の続きをしたいらしい。
まあ、高校生だったんだから一番楽しい時期を魔王退治なんて大変なことさせられたんだしそれが当然だな。
「あ!ただ、国に魔王を討伐した報告はしないとダメだからちょっと待ってもらえると助かるんですが……」
「分かりました。別れの挨拶が終わるまでは待ちましょう」
「ありがとうございます!新島さん、あなたはどうするんですか?」
「俺か?そうだな……俺はここに残るよ。元の世界では家族もいなくて会社で働くのにもウンザリしてたしな。別の報酬をもらうとするよ。テルオラクル様!ちょっと考えさせてもらっていいですか?」
「そうですね、では3分だけ待ちましょう」
「短いですよっ!?もうちょっと時間をください」
「神と人間では時間の感覚が違うので、もうちょっとと言われても……3年で良いですか?その時に『出でよテルオラクル!そして願いを叶えたまえ!』と叫んで頂ければ出てきます」
「長い!長過ぎます!その時には俺37歳になっちゃってアラサーどころかアラフォーになっちゃってます!あなた神龍じゃないでしょ、魔王退治したのにドラゴンボールまで集めさせるつもりですか!?」
7年旅して、その後3年待って、37歳になって7つのボールを集める話をパクるってそんなに『7』は要らないんだよ。
「では、彼らを元の世界に送るまでに考えておいてください」
「分かりました!」
こうして、勇者パーティは魔王退治に成功したという報せを土産に王都に帰還した。
お偉いさんに色々勲章やら爵位やらもらったり、パーティに出たり、お世話になった人にお礼を言いに駆けずり回ったりと忙しい生活を送った。勇者パーティってのも楽じゃない。有名人だからどこに言っても声かけられるのにもうんざりしてきたな。
そして、そんな日々の中で俺は何がしたいのかを考えた。気がつけば34歳。もうそんなに若くもない。
とにかく、あの世界に戻ったところでやりたいことが特にないし、またあの単純な日々の労働をしないといけないのかと思うと憂鬱になる。
これまでの旅のことを思い出していた。
ヒーラーだから全然戦闘能力はなくて、最初は何回も死にかけたっけ。子供が危険な戦闘をしているのに俺は後ろの方で回復するだけ。それでも危険だが、全然安全度合いは違う。
それが申し訳なくて、負い目があった俺はせめて自分に出来ることはしようと旅の道中で怪我をしている人や病人を治療してきた。
彼らの感謝の言葉、笑顔、涙、それにやり甲斐を感じていたことを改めて実感する。
ああ、これを続けたいな。
でも現代の食いもんとか文明を完全に捨てるのはちょっとキツイかも。ジャンクな味や便利なものが恋しくて仕方ない。
「そういうことでしたら現代の物品を召喚出来る能力を与えましょう。ただし金銭ではなく消費した魔力を召喚の代償としないといけませんが」
「テルオラクル様!?」
「随分と悩んでいたみたいなので、心の中を読ませて頂きました」
「それは……まあ、いいや。そんなこと出来るんですか!?」
「ええ、あなたの使った魔力を還元して、あちらの世界の物を再現、再構築して、こちらに召喚というより、顕現させられると、技術の神は言っています」
「おおっ……それで!それお願いします!」
「ついでに我々の都合でこちらで歳を取ったことを気にしているでしょう?お望みならば若返らせることも出来ますが」
「お願いします!20歳……いや、老化することを考えたら15歳くらいに……あ、いや、でも若くても俺の顔のまんまか」
転生ではなく、召喚なので日本人顔だからどこにいっても勇者の仲間だとバレるのだ。
「では、外見を変える能力もおまけでつけましょう。正体に気付かれる度に呼び出されても困るので」
「おおっ!それは便利だ!」
「少し、調整に時間がかかるので彼らを帰還させる時までお楽しみにしていてください。……あなたも身分を隠したいのなら帰還したように見せて、違う場所に転移させましょうか?」
「はい、勇者の仲間として騒がれるのにも疲れたので」