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1-18話 噂話

「じゃあ俺は先に領主様のところで仕事してくるから、店の準備の方は頼む」


「はい、いってらっしゃいませ」


「準備は任せておいてください!」


 アンとカルラに開店準備を任せ、俺は領主の屋敷へ向かう。


 シェリーは家で留守番だ。心の中で呼べば眷属として謎の電波みたいなものをキャッチして瞬間移動で飛んでくるらしいので、どこにいても同じなら、家に置いておくのが一番無難だろう。


 あいつに接客業なんて出来るとは思えないからな。


 俺というよりは戦闘能力のない他の者の護衛をして欲しいのだが、仲間意識が希薄なワガママお嬢様が言う通りにするとは思えん。


 まずは、人間としての生活に慣れてもらんな。というわけで、行儀作法をリリーが教えることになっているが果たして大丈夫だろうか。


 帰ったら家が破壊されてないことを祈る。


 街を歩きながら屋敷へ向かっているのだが……あれ、なんかチラチラ見られてるな?


 なんか怖がられてるような……あ、昨日ゴロツキを引きずって衛兵に引き渡したのがもう噂になってるのか?


 小さい街は噂が流れるのが早いから用心しないとな。


 舐められるのは困るが悪目立ちするのも困る。


 だが、目立ちたくないからと言って悪党を見過ごして呑気に暮らしてられるほど隠居にこだわるつもりもない。


 精々、腕っぷしの強い街のマッサージ屋のニイちゃんくらいで認識してもらえたらいい。


 目立ちたくないと言っても、正直なところ、ちょっと部屋を出たら勇者様!ニイジマ様!って全然知らんやつが囲んでこないなら、それで十分だ。


 俺の目立ちたくないの基準は明らかに一般と異なっているのは自覚している。


 ま、店の宣伝程度に善行を積むのは悪いことじゃないだろう。それだけ強くていいことしてたら、俺の腕の信用も上がるかもしれんしな。



「領主様の治療のご予約をしていますケニイです」


「はっ!しばしお待ちを!」


 門番に用件を伝えて屋敷にあがる。


「よく来たな、ケニイ君」


「お招き頂きありがとうございます……その後、お加減いかがですか?」


「まあ待て待て、少し茶でも飲もうではないか」


「そうですね、頂きます」


 領主の誘いを断るわけにもいかないので、素直に承諾する。いきなり本題に入るのもマナー違反だったか……。


 こういう貴族的な付き合いはマナーとかが難しくて割と苦手だが、この街で生活するにはこれも大事な仕事だと割り切る。

 渋々、王宮で講義を受けていて良かった。もう半分くらい忘れた気がするが。


 執事の人がお茶を淹れてくれる。この世界のお茶は割と美味しく飲めるので好きだ。


 互いに一口飲んで、ホッと息を漏らす。


「小耳に挟んだのだが、昨日衛兵に街で悪さをしてきた者を捕らえたとか」


「ええ、まあ」


 領主だからそりゃ知ってるよな。


「それでドラゴンまで追い払ったというではないか」


「いえ、ドラゴンは駆けつけた時には既に居なくなっておりましたので、追い払ったという訳ではありません」


 話がデカくなり過ぎだろ。


「そうだったか、まあ噂というのは大抵尾ヒレがついて大きくなるものであるからな。精々小型のワイバーンを子供が大袈裟に言ったのだろうと認識している。そうだ……こんな噂もあるそうだ」


「はい?」


「白髪の見慣れない顔の男が死にかけの女の奴隷を買い、それだけでは飽き足らず、領主の娘とサンターノ村の娘にまで手を出していると」


「とんでもない変態になっているではないですか!まさかそんな訳ないでしょう!?」


「そうだ。娘の恩人になんて噂が流れているんだと思い、彼は私のお気に入りだ!と言うと私の愛人という噂が流れてしまった」


「悪化しているではないですか!?」


「領主の娘や他の女に手を出す不埒な輩よりは領主の情夫として知られる方が名誉は保たれるとも考えられるが」


「なんて酷い消去法なんだ……」


 街の人に「あっ、こいつ領主と寝てんだ……」って思われてた顔だったのかあれは。そりゃ領主の愛人にちょっかい出したら危険だと思われるだろうよ。


 うわ、恥ずかしっ!


 待て待て、そうなるとマッサージやりますよって宣伝したらエロいことするお店だと誤解されないか?

 いや、開店準備始めてサイモンの方でも動き出してるから、もう誤解が始まってるのか!?


「噂というのはすぐに消える。そう心配するでない。まあ……ここまでは他愛無い噂だが、少し気になる噂もあってな」


「というと?」


「この街の近くに巨大な洞窟があるのは知っているか?そこがダンジョン化しているかも知れないという話が入ってきて、今冒険者に調査をさせている。近頃の魔獣騒動もそこから迷い出てきたものではないかということだが」


「それは大変ですね」


「だが、チャンスでもある。自領内にダンジョンが発生すれば発展が望める。この街は隣街の中継地点からダンジョンを持つ街になるというのは大きい」


「となると、人口の流入も増えますし、商業面でも活発になりそうですね。私としては客が増えるのは喜ばしいことですが」


「そうも言ってられんぞ、王都からの視察、教会も治療目的で再び口出ししてくるやもしれん。そうなればマッサージ屋の運営にも問題が出てくるのではないか?」


 そうだった。小さな街でこっそりとやるから成立するビジネスだった。


 となると、俺が居なくなったら困る街の住民を増やして秘密を守ってもらうように徹底しないとダメだな。


 地元民は良いとして、問題は大口の美容整形希望の金持ちか……仕方ない、美容関連で役に立ちそうなものをサイモンに卸して注目をあっちの店に集める方向で手を回すしかなさそうだ。


 飽くまで美容に効く薬を売っているってことにして、定期的に施術をしているうちに改善していくというシステムの方が良さそうだ。


 痩せやすいクリームを塗ってマッサージとか、毛生え薬を塗ってマッサージとか、マッサージよりも謎の効果のある薬の方に注意を集めるようにしないと大変なことになりそうだ。


 実際に効果が出れば薬の中身は嘘っぱちでも高値で売れると分かっているサイモンなら売ってくれるだろう。


 いや、むしろ売らせてくれと懇願するはずだ。


 だが、それも貴族同士で俺の知らないところで譲り合っていたら効果が出ないことは、いつかバレる。

 結局、口の硬い人にだけ流通させないとマズイな。


 その辺りは専門家に相談して情報統制の方法を考えてもらった方が良いのかもな。

 下手に素人の俺が小細工したら悪化しそうだ。


「疲労に効果のあるマッサージ屋ってことで通るようにお願いしますよ?」


「貴重な治癒魔法が使える人間を手放す領主などおらんから心配するでない」


「本当にお願いしますね……」



 お茶を飲み干し治療を始める。領主の腰は3日でまたそれなりに疲労が溜まっていた。


 貴族にしてはフランクなおっさんだが、それなりに苦労があるのだろう。


 背骨と骨盤の歪みを治し、傷んだ筋肉にヒールをかける。


「おおおお〜気持ちいい〜〜!あ〜そこそこそこ……」


「ちょっ!声が大きいですよ!そんな声出さないでください、ますます誤解されるじゃないですか!?」


 領主の誤解を招くリラックスした声にビクビクしながら治療を終えて屋敷を後にした。


 なんかメイドさんたちにヒソヒソ話されたいた気もするが見なかったことにしよう。

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