1-17話 エルフの耳
シェリーという問題児を今後どう扱うかということで、色々会議をした。皆俺の奴隷と眷属だから入った順でシェリーは二人を敬うようにするかと言った。
すると、リリーとアンは伝説の生き物に対して敬われるなど恐れ多いので、勘弁してくれと言われた。
ので、シェリーは扱いとしては俺の妹分の魔法使いということになった。
俺が不在の時は二人を守ってくれるというので、妹というか番犬と、荷運び用の馬なんだが、そんなこと言ったら暴れそうで言えない。
幸い、心を読むような魔法は存在していないので、シェリーに俺の心が知られることはない。
彼女のスペックというか使える能力だが、属性魔法は全て使えて、最高難度のものも完璧、竜の眼という俺とは少し違う鑑定能力に、あらゆる耐性を持ち、時空間魔法、重力魔法、変身魔法などの無属性魔法も持っていた。
治癒魔法も使えるのだが、精度や威力で言えば俺 の方が上らしい。そりゃ神様に直接貰ってるわけだから負けちゃダメだよな。
だが、それだけドラゴンというのは特別な生き物ということだ。千年以上の寿命があり、原初の生物なだけある。
むしろ、こいつを操った魔王がどれほどヤバい存在か分かるだろう。
少し言動に難ありだが、味方にいてこれほど心強い存在はいない。
シェリーの取り扱いもひと段落ついたところで、アンの治療の仕上げを行う。
彼女の部屋に行くと、すっかりと掃除、整頓がされていた。今日一日で頑張ったらしい。まだ無理しなくて良いのにな。
「さて、じゃあ早速だが腕と耳を生やすか。行くぞ……」
ジワジワと腕の肉や骨を作っていき、再生完了。
アンは生えてきた手の感覚を確かめるように開いたり閉じたりしている。
そして、耳だ。エルフということで迫害された過去を持つことから、人間に見えるようにして欲しいとのことだが、エルフにとっての長く尖った耳はアイデンティティの一つだ。
彼女は半分だけエルフなのでその感覚が違うのかも知れないが、完全に人間の耳にして良いものか迷った俺は人間にしてはちょっと尖った耳の人だな、エルフっぽいなと思う程度のほんの僅かに尖ったデザインにした。
「どうだ?」
鏡で耳を確認させる。
「あの……耳が少し尖っているのですが……」
「これじゃ嫌か?エルフだって分からない程度に残してみたんだが。気に入らないなら普通の人間の耳にするよ」
「い、いえ……これで大丈夫です。これなら髪をかけていれば誰も分からないと思いますし、やっぱり自分の耳に……親の血の繋がりを感じられる部分というのは愛着もあるので……」
親との血の繋がりを感じる部分に対する気持ちは俺には理解出来ないが、彼女が気に入ったならそれでオッケーだ。
俺はクソな親と似ている顔の部分が気に入らないと思って嫌な気持ちになったことが何回もあるし、顔の形を変えた理由の一つでもあるから。
彼女は耳を触りながら嬉しそうに微笑んでいる。
良かった。これで少しでも過ごしやすく穏やかな生活と送れると良いな。
エルフ……人間嫌いで排他的な種族の彼らは、聖樹の森という人里離れ場所で独自の文明を築き、外界との関わりを絶って生活している。
また、人間とのハーフである、ハーフエルフはエルフ族としてはエルフ扱いをしないらしい。
人間からすれば半分でもエルフはエルフだと思うのが一般的だが、エルフにとっては違う。
また、人間も人間としては扱わない。
彼女の立場は俺が想像しているよりも難しいのだろう。
人の前に滅多に姿を表さないことから珍しがられ、貴族の愛玩動物として飼われていることもある。
だから、エルフは人と関わらない。
人の世界にいるエルフというのは大抵が何かしらの理由で森を追われて仕方なく生活していることが多い。
旅商人であったり、冒険者であったり。
そういえば、冒険中に変わった太ったエルフとヒョロヒョロのドワーフの凸凹コンビに会ったことを思い出す。
逆だろ!と思わず突っ込んだら、お互いに痩せろ太れとケンカし出した時はマジで笑った。
なかなか愉快な奴らで、腕も立った。
少しの時間だったが楽しかった。旅のお供が年下のガキとなると何かと気を使うが、あの時は自然な自分でいられた気がした。
だが、よく考えればあいつらも事情があって故郷を出て旅をしていたのだろう。仕切りにエルフ族はクソだと文句を言っていたっけ。
また会えたらな……なんて、感傷に耽る。
せっかく、異世界で新しい人生を歩めるのだし、友達が欲しい。
アンやリリーは部下だし、シェリーは世話の関わるペットっぽいし、ディーンは大家さんで、サイモンはビジネスパートナーって感じでまだ友達と呼べる人はいないかも知れない。
領主も凄い偉い上司だしソフィーも上司の娘で歳下過ぎて仲良くなるのは抵抗が若干ある。
そもそも、異世界からの勇者ってのは大抵の人にへりくだられて、自分たちより上の立場として接した人間が少ない。
王様ですら、王としての地位があるから形式的に偉そうにしていたけど気を遣っていた感が否めない。
よく考えたら俺はこの世界に来てから対等な関係を築いたことがなかったな。
結構寂しいもんだぞ。ハーレムものの主人公はよくまともでいられるな。同性の友達が少なくて自分を謎に心酔してるやつに囲まれてたら逆に苦しくないか?
俺はそれが嫌でこんな片田舎に転送されたわけだが……。
店の運営が軌道に乗ってきたら友達付き合いとか、適当に飲んだり遊んだりするのを今後の目標にしよう。
治療をしているうちに夕食の時間となった。
今日はリリーが作るというので、俺はリビングでのんびりとしながら、調理する様子を眺める。
彼女の調理スキルや、どういう料理を知っているのか、ということを俺も主人としてしっかり把握しておかないといけない。
そのうち、日本の料理も教えていけばいいだろう。この世界の料理も日本の食材や調味料、調理の仕方次第で美味しくなるかもしれない。
日本とインドのカレーが違うみたいに、その土地にあった味付けで食べるもの面白そうだ。
「おい、飯はまだか?」
俺がこんな偉そうな発言をするわけがない。当然シェリーだ。
「おい、偉そうにするな。お前は作ってもらう側なんだから大人しく待ってろ」
「なっ!?我輩ドラゴンぞ?300年生きた古代の種族に敬意を払うべきだろう?」
「なら、後数十分待つなんて誤差だろお婆ちゃん」
「まだ成竜になりたての我輩をお婆ちゃん呼ばわりとは不敬な!」
「飯はまだかって聞くの年寄りの常套句だ……そうだ、もう食べたでしょお婆ちゃん」
こう言っとけば、誤魔化せるかな。
「馬鹿にするな!流石に飯はまだ食べてないことくらい覚えとるわ!我輩は記憶力はいいのだ」
「そうか、ならさっき話したこの家のルールはなんだったかな?」
「……他の者に偉そうにしない……」
「それだけだったか?」
「ニイジマ……ケニイの言うことを聞いて皆と仲良くする……」
「そしてそれを?」
「守る……だがこんなのは偉そうにしているうちに入らん!ドラゴン的には!」
「ルールの穴を突こうとするな!じゃあドラゴン的に偉そうってのはどういう状態のことなんだよ」
「平伏して、崇め、供物を献上し、へつらう。我輩の祖母はそうしていた!」
「お前の婆ちゃんは竜の国の王だったろうが!それドラゴン的にじゃなくて王としての振る舞いなんだよ!」
シェリーの祖母だったドラゴンが死に、彼女を中心とした王国が滅んだことで色々あって魔王軍に捕らえられていたって背景があるのだが……。
「はあ……我輩は奴隷以下の扱いか」
「お前、実際に奴隷の彼女たちの前でよくそんな不謹慎なこと言えるな……もう黙ってろ」
「はいご主人様」
皮肉たっぷりに伏し目がガチに返事をする。なんて腹の立つ顔をしやがるんだこいつ。
一応王族で、箱入り娘なんだが、めちゃくちゃ甘やかされて育ったのだろう。節々からとんでもない天上天下唯我独尊を感じる。
しかも、なまじ魔法や知識があるのが厄介だ。要するにこいつはパワーを持った頭でっかちのガキなんだから制御が大変だ。
俺の眷属ということで、俺に直接危害を加えることは出来ないが、間接的に被害を受けそうな気配がプンプンしやがる。
とんでもないやつを仲間にしちまったな……。
「出来ました、私の母から教わった故郷の一般的な家庭料理にケニイ様から頂いた調味料を足してアレンジしてみました」
リリーが作ったのはソーセージと野菜の入ったポトフ的なやつ。
材料は俺が出した日本のものだし、胡椒や塩も十分にあるのでそこまで意外性はない。
ただ、この世界によく生えてる薬草をスパイスとして香りをつけているのが違う点だと言えるだろう。
「美味そうだな」
「ああ、早速皆で食べよう」
「何っ!?皆で食べるのか?順番なのではないのか?」
「ここでは身分とか関係なく一緒に食うことにしてるんだ」
「そんな……王宮で王族と従者が同時に食うなどあり得んことだぞ……」
妙なところで育ちの良さが出るなこいつ。
「というわけでいただきます」
「ぬ?いただき……ます?」
俺に続いて、リリーとアンが手を合わせていただきますという様子を見て、シェリーは困惑しながら見よう見真似で手を合わせた。
「うん、美味いな」
独特のハーブっぽい香りが味付けにあっている。パンを浸して食べるのにも丁度いいな。この世界のパンは硬いからスープ系の食事が多いが、結構地域によって何を入れるかは変わるらしい。
それでも肉が入ってるだけ贅沢なものですと、リリーとアンは言いながら美味しそうに食べる。
「はぐっはぐっ……うむ、皆で食べる飯は良いな!」
シェリーも美味そうに飯を食べる。こういう顔で飯食ってたら憎めないな。厄介なやつだ。
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