1-14話 ドラゴン退治?
「もうすぐだ!ここら辺でドラゴンが出たんだ!」
「今は……ドラゴンの姿なしと」
森の方まで来たところで、幸いにもドラゴンとは未だに遭遇していない。このまま見つからずにミッションコンプリート出来れば最高の終わり方だ。
と、安堵の息をホッと漏らしたところで地響きが足から伝わってきた。
ズゥン……。
グロァアアアアア!
まずいな、どう考えてもドラゴンだなこれ。
バサバサと翼を揺らして風を切る音が近付いてくる。
「や、やばい!ドラゴンだ!ドラゴンだよ!」
「分かってる!それともあんなデカい羽音立てる虫がいるってのか?静かにしてろ!俺から振り下ろされるなよ!」
慌てて叫び出すベンジャミンを黙らせて岩陰に隠れる。
空を見上げると森の木々の隙間から大きな影が入り込み、ドラゴンがこちらをロックオンしていることを確認した。
……最悪だ。
ドラゴンは木々の隙間を縫ってこちらに急降下してくる。
こいつを抱えてドラゴン相手に逃げ切れるか!?そんな緊張が走り、身体に力が入る。いつでもダッシュ出来るように準備をする。ドラゴンは小回りが効かないから遮蔽物を利用してなんとか脱出出来るかも知れない……いや、ベンジャミンの弟を助ける為ならどのみち戦うべきなのでは?
あらゆることが思考を駆け巡る。
「マアアアアア!……ニイジマアアアアアッ!」
あれ?ドラゴンの鳴き声と思っていたが俺の名前呼んでない?
ドラゴンが地面に着地してズシンと身体の芯に響く衝撃が来た後にそのドラゴンは光を放った。
ヤバッ!ブレスか!?
と思ったら、なんとそのドラゴンは黒髪の金色に光るつり目で勝ち気そうな美少女に変身した。
「「えっ!?」」
俺とベンジャミンはその光景に思わず声を漏らす。
「探したぞニイジマ!我輩を追ってどこかに行きよって!必死で匂いを辿っていたら急に途絶えたから方々を駆け巡って……貴様!ニイジマじゃないな!?何故ニイジマの匂いをさせている!どういうことだ!」
ドラゴン少女は笑顔で俺に駆け寄ってきたと思ったら俺の顔を見るなり、急に敵意剥き出しで吠え出した。
「ま、待て!俺はニイジマだけど今は訳あって顔を変えてるんだ……ってかお前誰だよ!?」
少女がドラゴンに変身していたのか、ドラゴンが少女に変身していたのか、分からない。そもそもドラゴンの知り合いなんていないはずだが。
「何っ!?我輩を忘れたのかニイジマよっ!?」
「ええっ……!?」
「ほらっ!我輩だ!我輩!幼竜の時に魔王から洗脳されていたのを助けてくれただろう!」
「あ……あーっ!あの時のチビドラゴン!?」
勇者と共に旅をしていた時、魔族のやつらがドラゴンを洗脳して調教していたのを勇者の蒼がボコボコにして、洗脳を解いて俺が治癒してやったことを思い出した。あれは確か5年前くらいのことだ。
「ガハハ覚えておったか!そうだ!我輩あの時より成長して成龍となり人化の魔法を習得したので覚えたいたニイジマの匂いを辿って会いに来たのだ!」
「いや5年でデカくなり過ぎじゃないか?」
「ドラゴンは300歳の幼竜期を境に一気に成長する。あの時は295歳だったからの!」
「へー、そうなのか」
この世界のドラゴンというのは不思議な生き物で生態系など詳しいことは良く分かっていない。
めちゃくちゃ強く、長寿であらゆる魔法に長けた特別中の特別な謎の生き物だ。
「ケニイ……知り合いなのか?」
「みたいだな。取り敢えず大丈夫そうだ」
「知り合いとは堅苦しいのう!我々はソウルメイトだろう!」
「そうなのか?てか、人を襲ったドラゴンってお前のことかよ」
「ん?ああ、あの馬鹿どもの事か。ワシのこと見るなりいきなり攻撃を仕掛けてきたのでちょいと懲らしめようとしたら思ってたり弱くて一人の腕を吹き飛ばしてもうたのだ。ドラゴンに攻撃を仕掛けるくらいだから多少強いと思ったんだが……」
「じゃあ、こいつが元凶かよ!?」
ベンジャミンはドラゴン少女を指差してブチキレそうになっている。
普通はドラゴンを見かけたら逃げるか隠れるんだよ。ゴロツキどもどんだけ頭が悪いんだ。ま、鱗一枚でも大金が手に入るからそれ狙いかな。それにしても愚かな行為だが。
「あー、実はそのゴロツキ……馬鹿どもが怪我したのが原因でこの子の弟が人質にされてるんだよ」
「なんと!?それは悪い……いや、我輩に攻撃を仕掛けて来た方が悪いに決まっているから謝らんぞ!」
「チクショー!こいつがドラゴンじゃなかったらぶん殴ってやりてえよ!」
「落ち着け、取り敢えずドラゴンの脅威は去ったというのは良い知らせだぞ」
「そうなんだけどよ……いや、待てよケニイ、あんたニイジマとか呼ばれてたけど……ニイジマってあのニイジマか!?勇者の仲間の!?」
「バレちゃったか……今は姿を変えてケニイとして静かにやっていきたかったんだよ、誰にも言うなよ?」
「ということはケニイ……いや、ニイジマの事を追って来たこのドラゴンがゴロツキと出会ったせいで弟が人質にあったってことはお前のせいじゃねえか!」
「いやいや、俺も悪くないだろ!?」
俺が悪いのか?いや、全部ゴロツキが悪いだろ。
「とにかく、今は弟の救出を最優先に考えようじゃないか」
「そ、それもそうかパニクって責めて悪かったな」
「いいよ、パニクって当然だ」
こんな訳のわからん事態に巻き込まれたらそりゃ意味不明さにキレたくなるさ。
「おい、お前はそのゴロツキどもがどこにいるか分かるか?」
「お前お前言うな、我輩はシェリルグンドという名前があるのだ、ニイジマに限りシェリーと呼ぶ事を許可する」
「分かったシェリー、とにかくその攻撃してきた奴らの場所は?」
「知らんが匂いを追えばいいのだろう、乗せてやるからそれでチャラにせよ。人間のガキ」
「なんでこんなに偉そうなんだよこのドラゴン……」
ベンジャミンのボソッと言った言葉を彼女は聞き逃さなかった。
「おい、聞こえているが?ドラゴンこそ最強にして高貴な生き物なのだ、偉そうではなく偉いのだ!」
「そういうのいいから早く弟のところに連れて行け!」
「燃やすぞ貴様?」
「喧嘩すんな!その高貴な生き物であるドラゴンに乗れるんだから喜んどけって」
「確かに……そう考えたら悪くないか」
「貴様だけ口の中に入れて運んでやるぞ?と言いたいところだが小汚いガキを口の中に入れるのは気持ちが悪いから仕方なく乗せてやるだけだ!」
「もう……良いって……」
この子供同士の喧嘩、旅の道中で何度仲裁したことやら。マジで、こいつこれでも300歳なのか?
その後もギャーギャーと喧嘩するのを止めながらなんとかドラゴンに戻ったシェリーの背中に乗りベンジャミンの弟のいる場所へと向かった。